クリス・フルームは順調に勝利を重ねてきたように見えるが、実際はレース中などのハプニングも多い。今回は、そんなエピソードの一部を紹介しよう。

絶対王者クリス・フルーム5勝クラブへの道、その半生

不要なアピール、2012年 第17ステージ

この年のフルームはチームからエース待遇の契約を得ていたが、チームメイトには絶対的なエースのブラッドリー・ウィギンスがいた。チームからフルームへ対する指示は「ウィギンスのアシストに徹せよ」であった。しかしフルームは、前年のブエルタ・ア・エスパーニャでの総合2位という結果から、自分の方がエースに相応しいと不満を抱いていたのだ。

レースでは強力なアシスト陣に守られたウィギンスが、順調に個人総合首位をキープ。終盤へ差し掛かる第17ステージで事件が起きる。

ライバルたちが山岳コースで次々と脱落する中、フルームはウィギンスのアシストをしながら順調にゴールを目指していた。しかしウィギンスは疲労から、明らかに動きが鈍く、軽快なぺダリングを見せるフルームとは対照的であった。そこでフルームが見せた態度が、物議を醸した。

フルームは走りながら何度も後ろを振り返り、遅れそうになるウィギンスに対し「どうした、ついて来いよ。俺はまだ余裕だぞ」と言わんばかりのアピールをした。もちろん言葉で発してはいないが、多くの目には、そう見えた。実際、フルーム自身も「エースにふさわしいのは自分だ」とアピールしたかったに違いない。

結局フルームはアシストとして、ゴールまでウィギンスを置き去りにすることはなく、ゴール後も「自分の仕事はアシストだ」とコメントをした。しかし「本心は違うだろう」と、多くが思った出来事である。

参考:https://www.theguardian.com/sport/2012/jul/19/tour-de-france-bradley-wiggins-chris-froome

九死に一生のハンガーノック、2013年 第18ステージ

この大会、ウィギンスは体調不良から出場せず、フルームが名実ともにエースでなった。そして第8ステージで念願の首位に立つと、アシスト陣に支えられながら総合優勝が目前に迫った。しかし第18ステージ、ちょっとしたアクシデントが起きる。

フルームはチームカーから補給食を受け取れず、そのまま最後の登りへと入った。これにより残り5kmでハンガーノックに陥ってしまった。かつてインデュラインがハンガーノックでツール6連覇を逃したように、山岳での失速は致命傷だ。しかしそれを救ったのは、忠実なアシストのリッチー・ポートだった。

ポートはチームカーまで下がり補給食を受け取ると、フルームの元へ戻り手渡した。フルームは命綱を得て、なんとか戦線に復帰するも体のダメージは大きく、いつもの軽快さとは程遠い走りだった。それを見たポートは、何度もフルームの様子を確認しながらゴールまで懸命に引き連れた。

フルームには前年のウィギンスと逆の立場になってしまった。大きな違いは、フルームがウィギンスへ対し挑発的であったのに対し、ポートは献身的にアシストを努めたことである。

この時にポートのアシストがなければ、フルームの総合優勝は消えていた可能性もある。フルームはゴール後、ポートへ対し最大級の賛辞を贈ったが、自らが前年にとった態度について何を思っただろうか?

参考:https://www.theguardian.com/sport/2013/jul/18/tour-de-france-stage-18-chris-froome

秘密兵器の下りアタック、2016年 第8ステージ

ダウンヒルが苦手と目されていたフルームは、このステージでまさかの下りアタックを仕掛けた。ライバルたちは意表を突かれ、見る見るうちに引き離されてしまう。この時フルームが見せたフォームは奇妙なものだが、誰よりも速かった。

後に欧州では多くのアマチュアライダーがレースでマネをし、転倒者が続出したポジションである。

マラソンマン誕生