2025年8月22日より、静岡県・伊豆ベロドロームで幕を開けた『2025全日本選手権トラック』。
大会最終日、8月25日に実施された男子・女子それぞれの1kmTTの結果をお伝えする。
1kmTTとは?
1kmを1人で走り切り、誰が一番速いかを競うシンプルな種目。
己の限界を突破し、襲い来る身体の痛みとの戦い。その辛さは、「机の角に、思いっきり足の小指をぶつけに行くような種目」など、さまざまな言葉で形容される。
走り終えた選手の多くは苦悶の表情を浮かべ、倒れ込む。今大会では、その部分にフィーチャーした「苦しみアワード」も実施された。そちらについては、別記事でお伝えする。
2025年より、女子も1kmの距離に統一(以前は500m)。今大会は男女とも予選はなく、決勝のみの一発勝負で行われた。
男子1kmTT
ハードな日程で続いてきた大会の最終日に行われる、超ハードな種目。
各選手、死力を尽くして1kmを走り切る中、6組目として走った森田一郎(JPCA)が1分03秒817というタイムで暫定トップに立つ。
その後、9組目として登場したのが、2021年のチャンピオンであり大会記録保持者(1分00秒137)の新田祐大。
怪我のためこの大会を欠場した市田も観戦に訪れており、「マジでエグいです。(新田さんは)成長が止まることなんてないんじゃないですか」と注目。その新田がスタートを切る。
初日のチームスプリントでは2・3走のナショナルチームメンバーを千切るほどだったダッシュ力で、序盤から飛ばしていく新田。
残り1周時点で暫定トップに2秒近い差をつけると、その勢いのまま走り切り、1分1秒694というタイムでトップに立つ。
直後に出走した松田祥位(JIK)は新田に及ばず暫定2位。
新田のカムバック優勝か、というところで登場した最終走者は、新田にとって“ナショナルチームでの教え子”でもある中石湊。
競技の師匠である新田を超えるべく、中石がスタートを切る。
力強い踏み出しから、最初の1周のタイムは18秒772。新田を上回るペースで入っていくと、中盤にややペースを落としたものの、最後の力を振り絞り踏み直す。
フィニッシュタイムは、1分01秒025。目標としていた1分切りには届かなかったものの、自己ベストを更新。
レース後は倒れ込む激走で、悲願の初優勝を遂げた。
4年ぶりの出場となった新田は銀メダルを獲得、次いで3位に松田という結果となった。
順位 | 選手名 | チーム | タイム |
1位 | 中石湊 | チーム楽天Kドリームス | 1:01.025 |
2位 | 新田祐大 | JPCA | 1:01.694 |
3位 | 松田祥位 | JIK | 1:03.022 |
優勝:中石湊
Q:優勝おめでとうございます。
自己ベストを出すことはできましたが、終盤にタイムをすごく落としてしまい、目標としていた1分切りを達成できませんでした。優勝という喜びはありますが……悔しいです。
Q:無音の時間は来なかった?
来なかったですね……。
Q:新田祐大選手との対決にも注目が集まりました。
1本の走りに対する想いというのを誰よりも持っている選手です。すごいタイムを出していくると思っていたので、競技中はあまり見ないようにしていました。
自分が40歳間近になった時、1kmTTで1分1秒台の記録を出すなんて想像もできない。本当にすごいと思います。
Q:その新田選手を下しての優勝です。
今大会は市田(龍生都)さんも怪我で出られなかったですし、負けられない、負けたくないという気持ちを持って挑みました。優勝こそできましたが、力不足で目標タイムを出せていないので、また来年チャレンジしたいです。
Q:今後の目標は?
1分切りに向けて、練習にしっかり取り組んでいきたいです。そして世界の舞台で戦えるような脚をつけられるように頑張ります。
2位:新田祐大
Q:4年ぶりの出場で銀メダル獲得。走りを振り返ってみていかがでしょうか?
最初の踏み出しは悪くはなかったのですが、1kmのためのトレーニング、具体的には対乳酸のトレーニングが足りていなかったのかなと思います。ただ、予想よりは早いタイムを出せたので、そこは良かったです。
Q:そもそも、出場を決意したのはどういう思いからだったのでしょうか?
チームスプリントで若手選手(尾野翔一・三神遼矢)と組んで欲しいという話があったなかで、せっかくなら、体に刺激を入れるのと、脳神経系にもダメージを与えようかな、という思いで1kmTTにも出場しました。

チームスプリントでも銀メダルを獲得
Q:ともにトレーニングに励む中石選手の走りはいかがでしたか?
(中石は)この大会中、苦しいレースをいくつも走ったなかで迎えた1kmTT。一発勝負なら、勝てるチャンスがあるかなと思っていました(笑)。(自身の記録が)1分1秒台だったので難しいかなと思っていましたが、思ったよりも僅差でしたね。
ただ、彼にとっては、今後のためにもすごく良い経験になったと思います。自己ベストと言っていましたが、こんなタイムでは世界では戦えないので、もっともっと上を目指して頑張って欲しいですね。