1993年、女子200mFTTで初の10秒台を記録

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日本トラック競技の「大改革」

ブノワ・べトゥ監督

2016年、日本は2020年に行われる『東京オリンピック』に向け、ブノワ・ベトゥとジェイソン・ニブレットの2人のコーチを迎え入れた。

これまでは「大きな大会の前に集まり、短期間の合宿をして、それから大会に行く」というのが日本代表チーム。圧倒的に準備が足りない状態であったが、ヘッドコーチとして就任したブノワ氏によって、それが根本的に作り替えられることとなる。

代表選手たちは拠点である伊豆に住み、世界を見据えたトレーニングを中心とした生活を送る。スタッフや設備も整えられ、「世界と戦える選手」を育てるための体制が作られ始めた。

【前編】日本トラック競技の「未来」に続くプロジェクト トラック短距離ヘッドコーチ ブノワ・ベトゥ氏インタビュー/トラックナショナルチーム HPCJC

東京オリンピックに向けて動き出す、世界と日本

Qualifying / Women's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 小林優香

その取り組みが結果となって現れたのは2018年。5月に行われたモスクワGPで、小林優香が5年ぶりに200mFTT日本記録を更新(10秒814)。同年の世界選手権では河端朋之がケイリンの銀メダルを獲得と、日本トラック競技の「大改革」の結果が出たのがこの年だったと言えるだろう。

なおこの年、女子200mFTTに新しい風を呼び込んだ前田佳代乃が引退。新体制の日本チームへとバトンが渡される形となった。

前田佳代乃、全日本10連覇達成も電撃引退で有終の美/2018全日本選手権トラック・女子スプリント

この翌年である2019年9月、カナダのケルシー・ミシェル(Kelsey Mitchell)が約6年ぶりに200mFTTの世界記録を更新(10秒154)。

Final / Women's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP III, Hong Kong, Kelsey MITCHELL ケルシー・ミシェル

ケルシー・ミシェル

ミシェルはサッカーから自転車トラック競技に転身した選手。2017年にカナダの才能発掘プロジェクトをきっかけにナショナルチーム入りしているので、競技歴2年で世界記録を更新したこととなる。

また、2020年2月の世界選手権にて、小林優香が再度日本記録を更新(10秒712)。

東京オリンピックに向けて日本ナショナルチームが体制を整えていたように、各国が育成や機材の開発を行っていた、その結果が見えたのがこの時期だったとも言えるだろう。

残念ながら1年延期となった東京オリンピックで、日本は短距離のメダルを獲得することはできなかったものの、小林は本大会中に自身の持つ日本記録を更新(10秒711)。2016年からのプロジェクトの一つの結果が、このタイムだった。

パリ新世代の躍進

太田りゆ, 佐藤水菜, 梅川風子, 女子スプリント, WOMEN'S Sprint, 2023アジア選手権トラック, 2023 Asian Track Championships Nilai, Malaysia

前田、小林と受け継がれてきたバトンは、パリオリンピックに向けた世代である選手たちに正しく渡された。

2023年6月にマレーシアで行われた『アジア選手権』では、日本から女子スプリントに出場した3選手が、全員日本記録を更新。

太田りゆ 10秒596
佐藤水菜 10秒610
梅川風子 10秒643

ここから2024年のパリオリンピックに向け、頭角を現したのは佐藤水菜。世界新記録が生まれない中、どんどん日本記録を更新し、世界記録への距離を縮めていく。

日本記録 世界記録
タイム 選手名 記録日 タイム 選手名 記録日
10秒711 小林優香 東京オリンピック(2021年8月) 10秒154 ケルシー・ミシェル 2019年9月
10秒596
10秒610
10秒643
太田りゆ
佐藤水菜
梅川風子
アジア選手権(2023年6月)
10秒587 佐藤水菜 アジア競技大会(2023年9月)
10秒563 佐藤水菜 ジャパントラックカップⅡ(2023年11月)
10秒514 佐藤水菜 ジャパントラックカップⅠ( 2024年5月)
10秒479 佐藤水菜 ジャパントラックカップⅡ( 2024年5月)

そして2024年8月、佐藤はパリオリンピックの大舞台で10秒257の日本新記録を樹立。世界記録へまた一歩近づく成果を出したものの、同大会にてドイツのリー ソフィー・フリードリッヒ(Lea Sophie Friedrich)が10秒029を記録し、世界の記録がまた一段上がった結果となった。

そして世界は9秒台へ 加速するトラック競技

苑丽颖 ユアン・リイン, YUAN Liying, CHN, 女子スプリント, Women's Sprint, 19th Asian Games, Hangzhou, China

冒頭で紹介したように、2025年3月にユアン・リインが女子200mFTTとして初めて9秒台を記録。これがパリオリンピック以降、約半年ぶりに記録された世界記録である。

9秒976の記録が驚異的すぎるが、これに次ぐ記録を出したのは日本の佐藤水菜。10秒170で日本記録を更新しており、それまでの世界記録保持者であったフリードリッヒもタイムで抑えている。

1位 ユアン・リイン(中国) 9秒976 ※世界新
2位 佐藤水菜(日本) 10秒170 ※日本新
3位 リー ソフィー・フリードリッヒ(ドイツ) 10秒189
4位 ヘッティ・ファンデヴォウ(オランダ) 10秒191

2025ネーションズカップ女子スプリント予選結果(PDF)

佐藤水菜, 苑丽颖 ユアン・リイン, YUAN Liying, CHN, 女子スプリント, Women's Sprint, 19th Asian Games, Hangzhou, China

1993年に10秒台に突入し、約30年かけて1秒加速した女子200mFTT。

日本もまた、2012年の11秒469から13年かけて1秒以上タイムを縮めている。

また男子も(違反判定され取り消しになったが)8秒台間際のタイムが出ており、一層の加速の中にいる。

2028年のロサンゼルスオリンピックの頃には、どのようなタイムが生まれているのか?新世代の躍進や各国の育成の成果、そして機材の開発が生み出す「世界新記録」を楽しみに見守りたい。

UCI 女子世界記録一覧(PDF)

5つのメダルを獲得!『2025ネーションズカップ(トルコ・コンヤ)』日本選手結果まとめ