1年前の『2024世界選手権トラック』、スクラッチで悲願の金メダルを獲得し、この種目では日本史上初の世界王者となった窪木一茂。
迎える2025年大会、エントリーされている種目は「オムニアム」「マディソン」「チームパシュート」の3種目。つまり、スクラッチへの出場は予定されていない。
その背景には、ブレない軸と飽くなき挑戦心が隠されていた。
世界選手権への特別企画のラストとなる第3弾。窪木一茂へのインタビューをお届けする。
スクラッチは「卒業」?

前年、悲願のアルカンシェルを獲得したスクラッチ。“卒業?”と問うと、肩の力の抜けた答えが返ってきた。
「そもそも入学した感じもあまりないですよ(笑)」
窪木が大切にしてきたのは、自分だけの“我”を通さないことだ。世界選手権の種目選択についても、チーム全体の成長を第一に考えている。
「これはずっとそうですが、“我”を出すことはできないと考えています。他の選手が経験を積む、ということも大切だとは思っているので」
そんな中、ダニエル・ギジガー中長距離ヘッドコーチから本大会における提案を受けた。本気なのか冗談なのか分からない提案は何故か自分の腹に落ちる。
「“次はオムニアムに出てみたらどうだ?”と言われました。ダニエルの教え子であるステファン・キュング(スイス)も、2015年の世界選手権で個人パシュートの金メダルを取って、その後は走らなくなった。“だから、窪木も走らなくていいんじゃない?”って(笑)。冗談っぽく言っていましたが、自分としてはそれで腑に落ちたところはありました。走りたい気持ちもありますが、勝ち逃げ、というのもありかなって(笑)」
優先順位は“五輪種目”

8月の『全日本選手権トラック』直前のインタビューをはじめ、「目標は、オリンピックで結果を出すこと。そのために、逆算して日々を取り組んでいる」と常々語ってきた窪木。
その意味で、今回の3種目への出場というのは自然な選択だといえる。
オムニアム・マディソン・チームパシュートはオリンピック種目。一方でスクラッチはオムニアムの最初の種目ではあるが、オリンピック種目ではない。
「やはり目指すべきところはオリンピック。オリンピック種目をすべてにおいて優先させます。僕がトラック競技を続けているのはオリンピックでメダルを獲るためです」
新ペアで挑むマディソン メダルを狙える
マディソンでは兒島直樹との新たなペアでの出場が予定されている。まだ伸びしろがあるという前提で、“相棒”の資質を評価する。

兒島直樹
「今村(駿介)選手と比べると経験も浅いですし、マディソンにフォーカスして準備しないと良い走りはできないと思います。ただ、『全日本選手権トラック』の走りや、日本競輪選手養成所での取り組み、練習時の動きを見ていると、すごく走れている印象です。闘志も感じますし、(メダルを)狙えると思います」
世界選手権のマディソンは50km、トラック200周で競われる。50分ほどのレースはほとんどダッシュしながら進むが、「競輪」に深く携わる2人の選手たちのパフォーマンスに期待が掛かる。