2025年9月19日、伊豆ベロドロームにて垣田真穂によるアワーレコード挑戦が行われた。
女子カテゴリーでは公式記録として「初」となった垣田の記録はどうだったのか。今後のベンチマークとなった挑戦のレポートをお届けする。
アワーレコードって?
アワーレコードとは、「単独で1時間の間にどれだけバンクを周回出来たか」を競うもの。UCIポイントなどは特に関係なく、選手自身の腕試し的な位置付けにある。
日本では、今村駿介が2020年11月に初挑戦。52.468kmという記録を残している。
女子の世界記録は、2025年5月のビットリア・ブッシによる挑戦で生まれた「50.455km」。
日本人女子として初の公式挑戦
垣田真穂は、2024年12月にアワーレコードを走っているため(45.673kmを走破)実質的には2度目の挑戦となるが、当時は非公式のもの。日本人女子による、公式なアワーレコードチャレンジは今回が初となった。
静かに進むレース
スタートすると垣田が加速していき、空気抵抗が最も少なくなるエアロポジションに入り周回を刻んでいく。
スタート前にダニエル・ギジガー中長距離ヘッドコーチに聞いたところ、狙いは45kmほど、そして当日は曇りで空気が重く、気温も高くなかったためバンクのコンディションが悪く、前半は様子を見ていくと語っていた。
垣田は狙い通りの平均45kmのスピードで走り続けていく。
苦しい後半 最後は底なしの体力を見せ44,304kmを達成
折り返しの30分付近で走行ラインが少しブレ始め、スピードが落ちていく垣田。
スタッフ間からは完走は厳しいかもしれないといった心配もあったが、160周あたりまで粘り、そこからはペースを上げていく。目的の45km到達に向けて、最後に底なしの体力でペースを上げた垣田は最終的に177周回を達成。フィニッシュ後の公式記録を44.304kmとして、女子初となる日本記録を樹立した。
垣田真穂 インタビュー
Q:今回の挑戦について、事前の手応えはいかがでしたか?
自信はあまりなかったのですが、とにかく1時間しっかりと走りきろうと思っていました。
Q:1時間1人で走り続ける、すごく孤独な挑戦ということも良く聞きます。
ダニエル(・ギジガ―)コーチもずっとタイムを教えてくれましたし、(上野)みなみさんも笛を吹いてくれましたし、孤独とは全然思わなかったです。
Q:1時間のなかで楽しい瞬間とかはあるのでしょうか?
ないです(笑)。ひたすら走って、やっと終わった……みたいな。
最初は、なるべく疲れないようにとかも思っていましたが、ほぼ”無”ですね。「あと何分、あと何分」と考えているだけ。
Q:走っている最中、視線はどこに?
なるべく内側を見ていました。(バンクの内側に)スポンジが置いてあるのでそれを気をつけつつ、できるだけ下を向いて空気抵抗を少なくしていました。
Q:終了直後に「折り返しの30分くらいがいちばんキツかった」とおっしゃっていましたが、それでも心が折れなかった要因は?
公式記録になるし、たくさんの方が関わっていたので、折れるなんてできなかった、という感じです(笑)。責任感というか、たとえタイムが落ちてもやるしかない、という気持ちでした。
Q:2024年、非公式で挑戦した際よりも距離を落とす形となりました。急遽決まったという部分もあるかと思いますが、ご自身の評価としては?
走るからには、前回の距離(45.673km)を抜きたかった。ショックです。
Q:終わった直後、疲労困憊というよりは、比較的淡々としているように見えました。
もちろんキツかったのですが、心拍が上がってやばい、というわけではなくて……キツかったけど、キツくなかった……?
Q:わかりません(笑)。足に乳酸が溜まる、とかはなかった?
そうですね。めちゃくちゃ全力で漕ぐ、というわけではないので。でも、ジワジワくるキツさがありました。
Q:そういうキツさは、アワーレコードならではなのでしょうか?
独特ですね。普段とは全然違うものでした。
今日は途中から脚が動かなくなりましたけど、同じ体勢を続けるから、首とか腰とかも痛くなるので……難しいです。
Q:終わった瞬間は、どんな心境でしたか?
とりあえず、ちゃんと最後まで走り切れて良かった、と思いました(笑)。すごく不安だったので。
Q:日本人の女子選手としては、初の公式記録として残ることとなります。
あ、そうか初めてなんですね。
そっか……残るのが、自分のベストの記録ではないというのは悔しいですね。
Q:では、リベンジもあり得ますか?
あり、ですね(笑)。前回よりもギアを重めにしたのですが、それが悪い方に出てしまったような気がします。しっかりと合わせて調整して、リベンジしたいです。
Q:お疲れ様でした!
ありがとうございました。

オフの日に応援に来た内野艶和選手とのツーショット
今後はもっとたくさんの人がチャレンジできる環境を
HPCJC(ハイパフォーマンスセンターオブジャパンサイクリング)のディレクター、ミゲル・トーレス氏によると、今回のアワーレコードチャレンジは、女子の記録を作ることはもちろん、この種目をイベントとして実施するためのテストのような側面もあった。今後は2020年の経験、そして今回の経験を活かし、もっと多くの選手たちが挑戦できる環境を作っていく形で、アワーレコードを広めていく想定となっている。