ロード・トラック・競輪のギア比
では、最後にロード・トラック・競輪の異なる3つの自転車レースでは、どんなギア比が使われているのか簡単にご紹介する。
ロード
オリンピックの正式自転車種目のなかでは、走行距離が最も長い種目であるロードレース。
ロードレースであれば100kmを超える大会やステージがほとんどだ。また、山岳地帯の急勾配などを登ることがあるため、ギア比はトラック競技や競輪と比べると低めに設定される傾向がある。
参考にプロも使用する自転車パーツメーカー、SHIMANOが販売しているロードバイク用のチェーンリング*は、大きいもので50T〜54Tほど。仮に10Tのリアギアと組み合わせた場合、ギア比は約5.0〜5.4となる。
※チェーンリング:大ギアの歯部分のパーツ
しかし「ツール・ド・フランス2022」の第1ステージのように、個人タイムトライアルでは総距離が20km未満であったり、起伏がほとんどない平坦なルートを走ることもあるため、より大きなフロントギアを使用し、ギア比を高める傾向がある。
現地メディアによると、シュテファン・ビッセガー以外の同ステージに出場した選手には、56Tや58Tのフロントギアを使用した選手もいたそうだ。
トラック
自転車競技場(ベロドローム)のバンクを走るトラック競技。
ブレーキと変速機が付いていない自転車を使用するが、ギア比は主に短距離種目と長距離種目で違ってくる。
また、タイムトライアルやパシュート種目などの、スタートからフィニッシュまで全力で走り切るような種目や、スプリントやケイリン、ポイントレースといった絶えず駆け引きが行われるような種目など、レースの対戦形式によってもギア比は異なってくるだろう。
例えば、日本ナショナルチームの男子短距離選手として活躍する寺崎浩平は、2021年10月ごろのインタビューにて、「5倍(5.0)に近いギア比を使います」と答えていた。
また、女子短距離選手の太田りゆは、チームスプリントにて従来務めていた第1走から第2走へ役割が変わった際、「3.7」から「4.08」にギア比を上げたことを、同じく2021年10月ごろのインタビューにて話していた。
「第2走としてチームのスピードをあげられるように頑張っていきたいです」と本人が語るように、静止状態からスピードを上げていく第1走から、ある程度スピードのある状態からさらに加速していく第2走としての役割*を意識し、より高いギア比に変更したことが伺える。
※「チームスプリントのメカニズム」についてはこちらの記事をチェック
また、男子中長距離選手として活躍する今村駿介は2020年11月にアワーレコード*に挑戦しており、その際使用したギア比が記録として残っている。
今村駿介が使用したのは、60T×15Tの組み合わせ。ギア比は「4.0」となる。
スプリントなど、短時間で高いパワーを出し切るために使用される重いギア比を、1時間にわたり踏み続けたことを考えると、凄まじい脚力と持久力であることがわかる。
※アワーレコードとは、簡単に言えば1時間でどれだけ長い距離を走り切れるかという挑戦。オリンピックや世界選手権などの大会種目には含まれていないものの、UCIの正式記録として残すことができる。
競輪
約2,000mを走る日本発祥の競輪では、ロードやトラック競技と異なり、ギア比に制限が設けられている。
男子は「4.00」未満
女子は「3.80」未満
この制限は2014年より施行されたもの。制限が設けられた経緯は主に以下の2つ。
・大きなギア(比)を使用することでスピードが上がり、選手の身体生命を脅かしかねない落車が、増加する恐れがあるため。
・大きなギア(比)を使用することで、レースが単調化しているという指摘がお客さんから多くあったため。
ちなみに競輪の場合、選手たちはこのギア比を前検日に報告しなけらばならず、レース実施前からお客さんは各選手のギア比を確認することができる。
レースプログラムから各レースの情報を見る際、「コメント着度数等」の項目にて「ギヤ倍数」が記載されている。
参考に「KEIRINグランプリ2021」に出場した各選手のギア比を見てみると、9人全員が「3.92」のギア比を使用していたことがわかる。
参照:
KEIRIN.jp(ギア比の規制について)
KEIRIN.jp(ギア比の規制の経緯について)
JKA「自転車検査の要項」(前検日のギア比報告について)
本記事では、「ツール・ド・フランス2022」で使用された巨大ギアをご紹介し、ロード・トラック・競輪を「ギア比」の観点から比較してみた。
ぜひ、これから自転車競技・競輪を観戦する際は、選手たちが使用する大ギアの大きさと、脚の筋肉にもご注目いただき、そこから繰り出されるアツい走りを堪能してほしい。