近谷涼にはいくつもの顔がある。
チーム ブリヂストンサイクリング所属、トラック競技中距離種目のナショナルチームメンバー。トラック競技選手としては2017-2018 UCIトラックワールドカップ第4戦 チームパシュートで2位、2018年アジア選手権ではチームパシュート(アジア新記録)と個人パーシュート(日本新記録)の2冠を達成する日本有数のトップ選手だ。さらにロードレースの日本代表(男子エリート強化指定選手)にも選ばれている。
そしてもう一つの顔は「会社員」。
シャッター業界最大手の三和シヤッター工業株式会社の社員という一面だ。
インタビュー前編では、彼の会社員としての姿や、アスリートのキャリア観、人生観について触れてみよう。
「書くのは結構楽しい」
Q:会社員としての仕事内容は?
3ヶ月に1度発行している社内報があり、その中の担当ページを作成することが仕事です。スポーツコラムという枠で1ページか2ページ書いてます。僕や車いすバスケットボールの方、社内の野球部の方とか・・・いろんな社員の方がいるので、その記事を書いてますね。
Q:どんなことに気をつけて書いていますか?
「自転車競技を1人でも多くの人に知ってもらい、馴染み深くなってもらいたい」という思いがあり、それをどう実現するかを考えながらやっています。
例えば、競技場について「傾斜があるんですよ」とか「250mが国際規格なんですよ」と説明をしたり。最初はルールなど基本的なことの説明から始まって、徐々に自分のことを知ってもらえるようにと考えてやっています。
Q:書くことは楽しいですか?
文章を書くのは結構好きです。数年前から書き初めて、成長しているんじゃないかと思います。記事を書くことはいろんな面でプラスになると思います。文章のスキル的にもそうですし、自分を知ってもらうのもそうですし、やりがいはあります。
Q:社内での反響は?
出社する日は多くないのですけど、出社した日に廊下で「この前の結果良かったね」と声をかけてもらったりします。少しでも興味を持っていただけてるようでよかったなと思います。
Q:その他の仕事は?
営業に同行させてもらいました。自分の中では大きな経験でした。先方の企業に行き、現場を見て営業の仕事を経験させてもらって「こういう世界があるんだ」って。普段競技の世界にいるから絶対関わらないじゃないですか。自転車の話でお客さんと盛り上がったりもしました。
Q:営業の仕事はやりたいと思いました?
大学の時、競技の道に進むかどうか決まってなかったので普通に就活してたんですよ。営業の仕事に興味はありました。
でも実際にやってみると緊張感が凄いですね。僕はもうタジタジになっちゃいました(笑)
僕が行ったタイミングがちょうど緊迫してギリギリの交渉だったこともあったんですけど。それで「これは誰にでも出来る仕事じゃないな」と実感しました。
「選手の辛さ」と「社会人の辛さ」
Q:自転車競技とどっちが難しいと思いました?
難しさの種類が違います(笑)
それってナショナルチームでも結構話題に上がるんですよ。半分の選手は今学生ですし、「選手の辛さ」と「社会人の辛さ」の違いについては話します。
僕たちは練習中に倒れこんだり動けなくなって吐いたり、体を酷使する辛さがある。こっち(会社員)はこっちで時間とか全部決まってて、営業の準備や人を相手にした厳しさがあるじゃないですか。
僕は一応、両方を経験していて、会社員の方が辛い気がします。1〜2年目の時は会社から帰ってスーツのままパタンと倒れ「ああ意外に疲れてたんだなあ」ってことがありました。慣れない革靴を履いて、ぎゅうぎゅうの電車に乗ってと慣れないことばかりで。でも考えてみれば自転車競技も最初は慣れないことばっかりでしたけどね。
中にはずっと自転車のプロ選手として生きていける人もいるかもしれないですけど、僕らの多くは、いわゆる社会人に移行します。その初めの数年は本当に大変だろうなと思います。
プロアスリートって時間の自由が効くんです。練習も自分のコンディションに合わせて時間や日をずらすこともできる。でも会社ってそうじゃないじゃないですか。同じ時間に出社っていう制限が大きな違いだと思うし、それを経験できていることがありがたいなと思います。
僕はずっと選手側の世界で生きてきたので、だからこそ会社員の世界が厳しいと感じます。
でも学生時代の友人と話してみると、逆にこっち(選手側)の生活はできないって言われますね。自転車に長時間乗ってるとか、毎週土日に日本全国遠征するとか、12月〜3月まで海外行くとか。普通じゃないですよね。でも僕からしたらそっち(会社員側)も十分辛いと思います。
Q:慣れの問題が大きそうですね。
そうですね、初めは何をするにしてもきついですもんね。自転車も初めた頃には1時間乗るのがすごく苦痛で、腰痛いし足パンパンだし、ってなっていたのに、今じゃ5〜6時間平気で乗ってますしね。やっぱり慣れですかね。
企業所属のアスリートとなった経緯とは?