トラック競技ナショナルチームにおいて自身が置かれている状況を“崖っぷち”と表現し、鬼気迫る勢いで2025シーズンを駆け抜けている中石湊。8月22日から開催される『2025全日本選手権トラック』でも、世界選手権への切符を虎視眈々と狙っている。
パリ2024に出場した“大先輩”たちが居座るナショナルAチーム。中石やBチームの若手の選手たちは、その先輩を越えなければ世界の舞台に上がることすら許されない。今、Bチームで活躍を見せる中石にはどんなストーリーがあるのか。そして、譲れない1kmタイムトライアルへの想いとは。
全日本選手権トラック(22~25日)に向けての企画として実施したロングインタビューを掲載する。
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奇跡じゃなく実力で
Q:中石選手にとって、全日本選手権はどんな意味をもつ大会になりそうでしょうか?
他の選手と被っちゃまずいですよね?
Q:さては、先に公開された選手のインタビューを見ましたね?
はい(笑)。「分岐点」と言っていた三神さんと被ってしまいそうで……
Q:先に、出場種目から聞きましょうか(笑)。
ケイリン、スプリント、1㎞TTと、エキシビジョンでチームスプリントに出場予定です。
Q:それぞれの目標を聞かせてください。
『ジャパントラックカップ』(※5月末に実施)のケイリンでは、色々な奇跡が重なったこともあり優勝できましたが、そんな奇跡がまた起こるとは思っていません。自分の力で優勝したいという気持ちもありますし、楽しみですね。

スプリントは考えることも多くて、一番苦手ではあります。ただ、チームの誰もが世界選手権の枠を狙って競うことになると思うので、しっかりと勝ちに行きたいです。
チームスプリントは、小原(佑太)さんと(高橋)奏多とのチームを組んで3走を務める予定です。しっかり小原さんを追走できるように頑張ります。
Q:得意の1㎞TTは?
2年連続で市田さんに負けて2位なので、リベンジです。自信があります。
(※その市田選手は直近の競輪開催での落車で怪我を負い、欠場の見込み)
Q:すべての種目で、しっかりと結果を残しにいける手応えがありますか?
ケイリンもスプリントも、今は表彰台に手が届く位置にいると思います。
まだ限界はきていないですし、すべてを出しきればチャンスはあると思うのですごく楽しみです。チャレンジングな大会になると思っています。
調子が悪い方が楽しみ
Q:『ジャパントラックカップ』の結果も含めて、最近はすごく充実しているように感じます。
今もですが、じつは『ジャパントラックカップ』の時も、前日まではすごく調子が悪かったんです。その中で、大会中にコーチからアドバイスを受けて、それがハマって優勝することができた。切羽詰まっている時って、強くなれるんだなと実感しましたね。
Q:前のインタビューでは、“崖っぷちにいる”と言っていましたね。
練習で良いタイムを出して万全の状態で挑むより、調子が悪くて余裕がない時の方が成績に結びついています。その意味では、今めっちゃ調子が落ちているので、逆に楽しみです(笑)。
Q:フィジカル面でも大きく変わって、自分の中の感覚が少し変わってきたことが、その要因のひとつなのでしょうか?
たしかに、感覚は変わってきています。でもむしろ、気持ちの面の変化が大きいかもしれません。去年までは、「負けたらやばい」と思ってしまっていましたが、レース経験を重ねたことで少し落ち着いてきました。
Q:感情のコントロールが上手くできるようになったということでしょうか?
そうですね。練習で良いタイムが出ていなくても変な焦りはなくなって、どうすればタイムが上がるかを考えられるようになりました。根本的な危機感に変わりはありませんが、メリハリがつけられるようになったと思います。
Q:その意味では、レース前の中石選手は比較的落ち着いている印象があります。例えば、怖いくらい戦闘モードの顔になっている市田選手とは対照的な印象を受けます。

たしかに、そうかもしれないですね。朝起きた時とかは「絶対に勝つ」と逸る気持ちもありますが、それを落ち着かせて、走る前はあまり考えすぎずにリラックスしています。
Q:どこかのタイミングで、グッと入り込むのでしょうか?
たとえば競輪だったら、誘導が外れてレースが動き出すタイミングで切り替わります。逆に言えば、それまでは意識的に落ち着かせている。周回中に力むと脚を使ってしまうので、リラックスするために笑うようにしたりしていますね。