明かされない秘密
今回の記事の執筆に際して様々な文献をあたったが、「ベロドローム」に関する建築資料や文献は多いものの、実際に選手が走行する「競技面」の詳細は公にされていなかった。
明確に開示されていないこともあってか、オリンピック開催時には実際に競技面に必要なデータの計測を行うチームの姿も見られた。「ベロドロームを制するものは、メダルを制する」……会場をよく知ることは、トラック競技における重要な要素の1つと言える。
ポイントは「標高」と「曲線」と「角度」
標高
大会 | 会場 | 標高 |
2000シドニーオリンピック | Dunc Gray Velodrome | 47m |
2004アテネオリンピック | Athens Olympic Sports Complex | 180m |
2008北京オリンピック | 老山自転車館 | 70m |
2012ロンドンオリンピック | Lee Valley Velopark | 26m |
2016リオオリンピック | Velódromo Municipal do Rio | 36m |
2020東京オリンピック | 伊豆ベロドローム | 333m |
標高はGoogleマップ参照
上記に、歴代オリンピック会場の標高を列記してみた。標高が高くなるにつれて空気は薄くなり、空気抵抗が低減される。「伊豆ベロドローム」は、近年のオリンピック会場としては類稀な標高であることがわかる。
オリンピック競技種目ではないが、「アワーレコード」などの新記録更新へチャレンジする際に重要とされる事に、会場選びが挙げられる。もちろん気圧や湿度などの環境が様々な変化をもたらすが、標高が1m高くなることで得られるアドバンテージを1時間あたり平均約0.8mと仮定(下記参照元参考)すると、標高0m地点と「伊豆ベロドローム」では同じ選手が全く同じ走りをしたとして、1時間につき266.6mの差が生まれることになる。
計算上では、伊豆ベロドロームは「標高からトラック約1周分のアドバンテージを得られる会場(※1時間走った場合)」ということになるのだ。
参考:WATTSHOP
曲線
競技面設計に用いられる緩和曲線は大きく分けて3つ存在するが、日本の多くの競技面には「マッコーネル緩和曲線」が用いられている。「マッコーネル緩和曲線」はカーブが滑らかな形状をしていることで、選手がハンドルを大きく切らずとも“直線を走り続けているかのような感覚”になるという特徴がある。
設計者のトラックへの思想が反映された、各ベロドローム競技面の違いを観察するのも観戦の楽しみ方の1つだ。
参考:ResearchGate
角度
「伊豆ベロドローム」の走路幅が7.5mとやや狭いことに対して、その最大傾斜角は最大45度と、斜度が高いことが特徴だ。
この斜度の高さがあるがゆえに、スプリントやケイリンなどで相手選手との駆け引きの際、外側から猛烈な加速で前に出ていくことができる。また、カーブで滑らないために時速35km以上の速度が必要とされるため、レースではハイスピードな展開が繰り広げられたと考えられる。