BMXレーシングで過去2回オリンピックに出場し、2024パリではトラックの選手として3回のオリンピックを経験している長迫吉拓。
パリでの最終結果は5位だったものの世界トップの走りを見せてメダル獲得の可能性を披露、BMXで培ったスタートのダッシュ力を武器に“チームスプリント第1走のスペシャリスト”として君臨している。
8月22日から開催の『全日本選手権トラック』では、スプリントに出場を予定。
「来年にも選手人生が終わる可能性がある」
“最後のオリンピック”に向けてすでに始まっている戦いと、確かな手応えを語ってもらった。
チームスプリントの職人がスプリントに出場
Q:全日本選手権トラックが近づいてきましたが、今回はどの種目に出場予定ですか?
個人種目でスプリントにだけ出るつもりです。2022年の『ジャパントラックカップ』で出場したことがあって、確か予選は10秒台でした*。
編注:ジャパントラックカップ Iで10.432、ジャパントラックカップ IIで10.331。IIでは対戦ラウンドに進出するも、1回戦で太田海也に敗れている
2022年『ジャパントラックカップⅡ,』のスプリント 後ろが長迫
Q:ハロン(予選の200mフライングタイムトライアル)の目標タイムはどうでしょう?
9秒9は出したい。あわよくば9秒8を狙っています。9秒台を出せば1桁台の順位以内に収まるんじゃないかなと。今回はナショナルのAチームとBチームを合わせて10人程度です。Bチームの選手もそれぞれ9秒9あたりの数字を出しているので、誰かを抑えてトップ10入りを狙っています。
Bチームのメンバーにとっては、全日本トラックが来年以降に向けてナショナルチームに残れるのか、という意味もあると思います。一方で、Aチームのメンバーも絶対に負けられないというプライドやプレッシャーがある。世界選手権のセレクションという部分も含めて、レベルが高い争いになると感じています。
オリンピックは出場回数じゃない メダルを獲れるかどうか
Q:長迫選手の立場、つまりチームスプリントの目線で言えば『全日本選手権トラック』での結果は直接的には影響が少ないのではないかと思います。しかし一方で、以前お話しを伺った際、自身のポジションに危機感を感じている様子でした。あらためて、現在の心境はいかがでしょうか?
大きな目標としては、チームスプリントの1走としてオリンピックに行き、メダルを獲得すること。それは変わっていませんが「果たして自分が代表に選ばれる可能性ってどれくらいあるのだろうか」ということは考えています。
チームスプリントのメンバーで言えば、たとえば高橋奏多が1走に入る可能性もあると思います。
メンバー構成を考えた時に様々なパターンがあり得ますが、まずは自分が速くなくてはならない。(チームスプリント1走の専門という立場は)1番最初にメンバーから削られてしまうところなので、危機感を感じています。
今更ながら、“やっと”ですけど(笑)。
Q:ロサンゼルスオリンピックでのメダル獲得を実現するために、すでに戦いは始まっているということですね。
パリの時に「今回が最後」と言っておきながら今も続けているので信用されないかもしれませんが(笑)、次のオリンピックが本当に最後だと思っています。個人的には、オリンピックは何回出たからすごいというものではなく、1つのメダルの方が価値があると思っています。だから、メダルを取って締めたいなって。
見据える1年後 そして3年後 明確な指針
早ければ、2026年の秋頃にはジェイソン(・ニブレット短距離ヘッドコーチ)が選手を絞る段階に入ると思っています。そう考えると、僕の選手人生は、最短で言えばあと1年で終わってしまう。長く考えても3年です。なので今はもう一つギアを上げて取り組んでいくべき時期だと思っています。
Q:選手人生の終わり、というところも今の段階で現実的に考えているのですね。
僕は競輪選手ではないですし、ナショナルに選ばれないのならば、競技を続けることに意味はないと思っています。じつは1度、ジェイソンに「もし僕の立場だったら、いつ選手を辞める?」って聞いたことがあるんです。
ジェイソンは「辞めるのか」ってショックな顔をしていましたが(笑)、別に辞めようと思って聞いたわけではなく「チーム全体のことも考えると、どのタイミングで区切りをつけるのがスマートなのか」という話をしたんです。そしたら、「そんなことを考える必要はない。とにかく、文句なしの1走のタイムを出してくれればそれで良い」と言ってくれて、すごくスッキリしました。