あの熱狂は、もう二度と味わえない

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世界を知ることで広がった視野

Q:『パリオリンピック』の時に、次の世代に繋げたいというお話をされていました。あらためてですが、これから競技をやっていくという人に伝えたいこと、ナショナルチームで得られたものはありますか?

いろんな国に行って、いろんな国の選手や人と話したことで、世界観はすごく広がりました。

競輪選手は、自分でお金を稼いで、その使い方をある程度自由に決められますよね。でも海外では、スポンサーを集めて競技をしている選手がほとんどで、価値観が全く違います。日本のナショナルチームでも長迫(吉拓)さんが同じ状況ですが、そういう環境を知れたのは、本当に大きかったです。

Q:そういった経験は、若い世代にも伝えたい?

伝えたいですね。競輪選手って、高校や大学を卒業してすぐになる人が多いじゃないですか。急にお金を手にしたときに、どうなるか。いろんな世界を知っていれば、そういう部分でも違ってくるんじゃないかなと思います。

世界大会に行けなかったとしても、HPD(※競輪選手養成所の特別クラス)やナショナルのアカデミーに入れば、世界で戦ってきた選手たちと同じコミュニティに身を置ける。そういった環境で練習することで、自分が限界だと思った事が実は限界じゃないと知る事が出来るんです。チームにいる人達は世界一を目標にしているので、1人1人のモチベーションがすごく高い。例え自分が辛くて休みたくなる時も、そのモチベーションを感じるだけで疲れの限界はここじゃない、まだ頑張れるという気持ちになります。その人たちの話を聞いたり、私生活を見たり、刺激を受けることで得られるものは多いと思います。コミュニティを広げるという意味でも、競技に取り組む価値は大きいと感じています。

「この練習で合っている」確信を持てた瞬間

Q:そういった文化的な部分だけでなく、海外大会を経験したことで得たものは?

自分の実力が世界に通じると分かったことで、「これまでやってきた練習は間違っていなかった」と思えたことが大きかったです。「この練習で合っているのかな?」と迷いながらだと、なかなか力にならない。でも、確信が持てることで、1本1本の練習により集中できるようになる。それが結果にも繋がっていくのだと思います。

自分の中で大きな転機になったのが、2023年ジャカルタでの『ネーションズカップ』でした。チームスプリントで42秒742の日本記録を出して、世界の舞台でしっかり戦えた(最終結果は4位)。ケイリンでも、手応えを感じる走りができていました(準決勝で3位に入線するも失格。最終結果は10位)。あの時、「これで良いんだ」と初めて思えたんです。

後を継ぐ選手を育てられなかった

Q:ナショナルチームで、心残りはありますか?

正直に言うと、チームスプリントで3走を務める選手を育てられなかったことは心残りです。海也と長迫さんには、申し訳ない気持ちが大きいです。たとえば慎詞はスピードは十分ですが、スタートにはまだ課題がある。一方で中石はスタートは良いけど、トップスピードがまだ足りない。もう少しナショナルを続けて、出場機会を作りながら、自分がサポートに回れる状況を作れたら良かったな、という思いはあります。

Q:そこは、ジェイソンヘッドコーチに頑張ってもらいましょう。今後、ナショナルチームに関わる予定は?

大会のときなど、何か自分にできることがあれば関わっていきたいと思っています。

Q:競輪選手としての今後は? 冬季移動の拠点は静岡ですか?

そのつもりです。練習拠点も、伊豆ベロドロームのすぐ近くになりますね。

Q:気持ちとしては、人生の再スタートでしょうか?

そうですね。12月19日でナショナルチームの練習が終わったので、来週からはもう、再スタートのつもりで練習に取り組もうと思っています。

 

2024パリ大会を支えた小原佑太。また一人、ナショナルチームを支えた選手の一人が競技という舞台を去っていく。チームの新陳代謝は速く、結果が出なければ去る、それは当然のことかもしれない。改めて世界を目指すということの厳しさ、そして競輪選手としての人生を語ってくれた。

近い将来、競輪での小原が導く“北日本”勢の活躍に期待して、新たな道のりへと歩みを進める小原を応援したい。

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