2025年10月30日、日本自転車競技連盟は『2025UCI世界選手権トラック』でメダルを獲得した佐藤水菜と窪木一茂、そしてジェイソン・ニブレットとダニエル・ギジガー両コーチによる帰国記者会見を実施した。

佐藤は2024年に続くケイリンの連覇に加えてスプリントでは銅から銀への成長を見せ、窪木は自身初のオリンピック採用種目での銀メダル獲得という見事な成績を収めた。

およそ40社が集まり、様々な質問が飛び交った内容をレポートする。

気負い過ぎずにレースを走った

Q:女子ケイリンの決勝、仕掛けていった時の気持ちと、フィニッシュラインを切った時の気持ちを聞かせてください。

佐藤:行くしかなかった、という気持ちでした。エマ・フィヌカン選手(イギリス:2位)の横についた時に、合わせられるような形になったら嫌だなと思いましたが、自分がスピードで上回れば問題ないので、そこだけは意識していました。バックストレッチでウィリアム選手を抜いた時は、後ろにコロンビアの選手がいることはわかっていたので、危機感は持っていました。ゴール線を切るまでは、誰が優勝するかわからない、と思いながら、とにかく精一杯走っていた記憶があります。

Q:ケイリンは昨年に続く連覇。どのような思い出臨みましたか?

佐藤:本当に優勝できるとは思っていませんでした。大会最終日だったこともあり、コンディションや気持ちの部分でも、勝ち上がりのラウンドはうまく乗っていけてない感覚だったのですが、それでもなんとか決勝に上がることができた。決勝前は、「ここまで来たからには絶対取りたい……ではなく、優勝できたら良いな」という感じで(笑)。あまり気負いすぎずに、レースを楽しむことを大事に挑みました。

ただ、ジェイソンコーチは「コミットしろ」とずっと言っていました。「コミットってなんだろう?」と思いながら「OK」と答えてレースを走り、表彰した後に「コミットってなに?」と聞きました(笑)。「覚悟しろ」ってことだったみたいで、コミットできて良かったです(笑)。

Q:今回の大会がお披露目となった、TCM-3の感想を教えてください。

女子ケイリン, WOMEN’S KEIRIN,2025世界選手権トラック サンティアゴ, 2025 UCI CYCLING WORLD CHAMPIONSHIPS TRACK

佐藤:重量がとても軽くなったというのは大きな変化のひとつなのですが、乗り心地としては、TCM-1に近いような感じで、操作性やスタートのリアクションがクイックになったと感じます。TCM-1、2それぞれの良いとこ取りという感じです。あとは、デザインがとても可愛いので、海外の方にもすごく人気でした。練習している時に「写真撮らせて」と声をかけてもらうことも多くて、友好的な関係を築くのに役立ちました(笑)。

窪木:自分はまだ乗っていないのですが、海外の選手から「どうなの?」とすごくたくさん聞かれました(笑)。そのくらい、多くの国の選手が気にかけているバイクなので、自分も早く乗ってみたいですね。

オムニアムには本当の強さが必要

Q:オムニアムでのアルカンシェルは、悲願のタイトルだと思います。今回はあと2ポイント、あと一歩届かなかったのですが、その要因はどこにあると考えていますか?

窪木:TCM-3に乗っていたら、僕も金メダルが取れたんじゃないかなと思います(笑)。というのは冗談ですが、今回、練習をしっかり積んで大会を迎えることはできた一方で、直前で体調を崩してしまったり、日本で落車してしまったりといくつかアクシデントがありました。その中で、4種目目のポイントレースでは、いつもの自分の走りは全くできなかった。ずっと人の後ろを走っていて、「ズルく勝った」という印象です。やっぱり本当の強さを持った選手が優勝すると思うので、「2位でしょうがない」という気持ちがあります。

窪木一茂, KUBOKI Kazushige,男子オムニアム, MEN'S Omnium,2025世界選手権トラック サンティアゴ, 2025 UCI CYCLING WORLD CHAMPIONSHIPS TRACK

今回の経験を活かして、直前の調整に気を配った上で、今回と同じパフォーマンスを発揮できれば、金メダルは近いと思います。4大会連続でメダルを取れていて、世界選手権は相性の良い大会だと感じていますし、来年が楽しみです。ただ、日本のレベルが上がってきているので、来年の世界選手権に選ばれることを目指して、まずは国内の大会を頑張っていきたいです。

オリンピックは別物

Q:次のオリンピックに向けて、今大会での結果がどのようにつながっていくでしょうか?

佐藤:オリンピックの後の世界選手権は、メダルが取りやすい大会であると言われています。ここ2大会は、もちろん各国しっかりと準備をしてきていますが、オリンピックには直結しないというイメージを持つようにしています。私たちはいつもベストパフォーマンスを出していますが、オリンピックの舞台では、強豪国は人が変わったようなパフォーマンスを出してくるというのは昨年目の当たりにしました。

その意味では、来年や再来年、オリンピックポイント争いが絡んできた時に、今大会と同じようにメダル争いに入れるかと言えば、現時点では難しいだろう、という危機感しかありません。今回のメダルを受けて、さらに気が引き締まって、もっと強くならないといけないと感じています。あと2年でどれだけ仕上げられるか、しっかりと築き上げていきたいと考えています。

窪木:ロスに向けて何ができるか、ということをずっと考えていて、それを体現するのがすごく楽しみです。オリンピックまで順調にいければ良いですが、1年1年勝負ですし、競輪も走っていきます。怪我もつきものなので、そのリスクを背負いながらも、勝負の世界で戦いで、海外のトップアスリートたちと戦いたいという気持ちが消えない限りは、このまま成長を続けていけるんじゃないかと思っています。

去年はラッキー、今年は自分で獲れた

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Q:女子ケイリンについて、去年手にした最初の金メダルと今回の金メダル、ご自身の中で違いはありますでしょうか?

佐藤:昨年の金メダルは、「ラッキー」だったということは自分に言い聞かせてきました。先程のとおり、オリンピック直後で強豪選手も少なかったですし、展開も向いたことで、運良く取ることができたメダル。だからこそ、もっと成長し続けなければならないと考えて、この1年を過ごしてきました。

佐藤水菜,女子ケイリン 決勝, Women's Keirin, 2024世界選手権トラック バレラップ, 2024 UCI CYCLING WORLD CHAMPIONSHIPS TRACK

2024世界選手権トラック

自分が考える理想の金メダルの取り方は、自分で前を駆けて、ゴール線を切ること。それをオリンピックや世界選手で成し遂げたのがエレッセ・アンドリューズ選手(ニュージーランド:パリオリンピック金)で、その背中を追いかけてきました。去年はエマ・フィヌカン選手を差しての優勝でしたが、今回はその理想に近い形で手にすることができた。嬉しさ、という意味では初めてだった去年の方が大きかったですが、自分の成長などを踏まえた満足感は今年の方が高かったです。

今の環境に感謝

Q:男子中距離では、これが最後の大会であったエリア・ビビアーニ選手がエリミネーションで優勝しました。ビビアーニ選手の引退に、感じることはありますか?

窪木:ビビアーニ選手は、僕が自転車競技を始めたときから世界のトップクラスにいた選手で、僕の携帯電話にも彼の写真や動画がたくさんあります。ですので、引退はすごく残念に思いますが、アスリートはいずれ引退するものです。

男子エリミネーション,MEN'S Elimination Race, 2025世界選手権トラック サンティアゴ, 2025 UCI CYCLING WORLD CHAMPIONSHIPS TRACK

エリア・ビビアーニ

その意味では、続けられる環境にあらためて感謝の気持ちが湧き上がりました。日本の自転車を取り巻く環境はすごく良くなっていて、競輪の補助であったり、機材やスタッフの方のサポートなど、オリンピックに向けてしっかりと取り組める環境にあるということをあらためて実感しました。それに感謝しなくてはならないと思いますし、この年齢でも続けられているということに対しての感謝を表していきたいです。

一方で、同世代で頑張っている選手は、ほかの競技を含めてのたくさんいると思います。そういう人にとっても良い刺激になれば、頑張っている意味がある。気持ちが続く限りは、まだまだ続けていきたいです。

Q:窪木選手は、地元である福島・古殿町ふるさと応援大使を務めてらっしゃいます。地元の方からの反応はありましたか?

窪木:レース前、そして優勝した直後にも、町役場の方からご連絡をいただきました。この後、リカバリーのシーズンに入るので、この機会に地元に帰って報告したいです。たくさんの方から応援をしていただいて本当に嬉しく思いますし、福島県は自転車競技をすごく大きく取り上げてくれる県で、新聞などでも報じていただいています。福島県出身で自転車で活躍している選手はたくさんいますので、自分も活用して盛り上げていければと思います。

スプリントは目標達成ならず

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Q:佐藤選手はスプリントでも銀メダルを手にしました。スプリントの振り返りとともに、ケイリンに向けてどのような影響を与えたかを教えてください。

佐藤:今大会は、スプリントの予選の200mフライングタイムトライアル(ハロンと呼ばれる)でシード権を得ることができるトップ4入りを目標に掲げていたのですが、5位での予選通過となり、目標を達成できなかったという悔しさはありました。昨年も5位だったので、あと一歩が届かない悔しさとともに、ハロンの難しさはあらためて感じました。

対戦ラウンドに関しては、これまで準々決勝で敗退してしまうか、逆に準々決勝され超えられればメダルまでいける、という状態だったので、準々決勝がひとつのポイントになると感じていました。その準々決勝は、格上選手(予選4位)であるロリアンヌ・ジェネスト選手(カナダ)との対戦で、ヒリヒリ、ヒヤヒヤしていました。でも1本目を走って、良い手応えを得ることができた。2本目は取られてしまったのですが、すぐに修正して勝ち上がることができたので、テクニックも脚力もすごく成長を感じました。

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翌日の準決勝、1日の最初の1本目で良いパフォーマンスを発揮できないという課題があった中、直近で2度も敗れているアリナ・リシェンコ選手(AIN:個人枠での出場)との対戦となり緊張もありましたが、「どうやったら倒せるか」という楽しく前向きな気持ちで挑むことができました。1本目を取った時にすごく感触があって、2本目もしっかりと自分のプロセスをこなして勝つことができてすごく嬉しかったです。

決勝の発走前は、この場に立てたということがすごく嬉しくて、いろんなことが頭をよぎったのを覚えています。決勝の舞台に立てていることへの感謝、コーチを信じてきたからこそ、この場に来られたんだなということだったり、「相手選手がすごく強そうだな」とか(笑)。

勝ちたいという気持ちはもちろん持っていましたが、対戦したヘッティ・ファンデヴォウ選手(オランダ:2025大会では女子ケイリン以外の短距離3冠を達成)は、自分が目標にしている選手の1人。この舞台で、こんな選手と戦えてすごく幸せだな、という想いが大きかったです。

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ただ、結果的に2本とも負けてしまったあとは悔しさを感じている自分がいたので、自分はまだまだ伸び代があるし、高みを目指したいと思えているんだと気づけました。そういうこともあって、その日の夜、コーチと乾杯を交わしました。大会期間中には初めての経験で、「これを飲むのであれば、お前はケイリンで金メダルを取らなきゃいけないぞ」と冗談でプレッシャーをかけられましたけど(笑)、本当に金メダルを取ることができたのですごく良かったです。

ジェイソン・ニブレット、ダニエル・ギジガーコーチ会見

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