UCIの新規定により、変更を余儀なくされた「TCM-2」。
すでに開発が始まっている「TCM-3」は、その新ルールへの対応だけでなく、さらなる高みを目指したさまざまな変更が施されているという。
さらに、その先に見据えるのは「TCM-4」
東レ・カーボンマジックの間宮健プロジェクトマネージャーと、(株)SYNSETECH代表(元ムーンクラフト空力開発担当)の神瀬太亮氏に行なったロングインタビューの後編。止まることを知らない、開発に携わるお二人の想いをご覧いただきたい。
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軽量化に成功!
Q:新たに開発がスタートした「TCM-3」に関して聞かせてください。最大のコンセプトはどのようなものなのでしょうか?
間宮:「TCM-3」の開発コンセプトは軽量化です。
Q:〇〇〇(秘密)g!それは大きい変化ですね。
間宮:乗って分かるくらいの変化だと思います。
Q:ダウンチューブの形状を見ると、TCM-2では尖っている感じでしたが、今回は角張っているように見えます。

神瀬:軽量化を実現するために、まずはダウンチューブを太くすることに着手しました。しかし、太くするとドラッグ(空気抵抗)が悪くなってしまう。専門的な話になりますが、断面形状の圧力分布を何度も何度もテストして最適化を行い、この形状になりました。
軽量化だけではない革新
Q:軽量化以外のところでは主にどのような修正を?
神瀬:タイヤ幅のトレンドが25cになる、という前提で進めています。(資料を)見てもらうとわかりますが、25cに合わせて、このシートチューブの幅を広げています。もちろん、幅を広げただけだとドラッグ(空気抵抗)に悪影響が出るので、いろいろなパターンをテストしています。シートチューブが変わると、BB(ボトムブラケット=クランクの根本にあるパーツ)との繋がりも変わってくるので、それもまた変えました。ここは整備の部分にも大きく影響する場所なので、実際に工具を入れて作業をしてもらいながら調整しています。
あとは、シートステー(後輪の中心とサドルを結ぶパイプ)に関しても、TCM-2では太くしていたのですが、薄く戻していることもトピックかもしれません。薄くしても、ヤグラ(サドルとシートポストを固定する金具)を工夫することで、よりドラッグが減らせることが判明しました。

空力開発の難しさ
Q:少し聞いただけでもかなりの変更がなされていることがわかりますが、パッと見の外観にはそこまでの変化は感じないですよね。
神瀬:そうですね。横平面で見た時のプロポーションは、全く変わっていないです。
Q:重量以外に、空力の数値でいうとどのくらいの変化が?
神瀬:いろいろな部分を積み重ねて、理論上の最大値5パーセントくらい改善されています。ただ、実際の空力ってそう単純ではなくて、お互いに阻害し合ったりする。1+1+1で3パーセントマイナスになるわけではなくて、2.5パーとか2パーセント減とかになります。それが、空力開発の面白いところですね。
神瀬:これから風洞実験にかけていくことになりますが、CFD(抵抗を測る数値)でやると、〇(秘密)パーセントくらいの数値が出ると見込んでいます。
軽くすることが正義ではないが、ギリギリを目指す
Q:今回のメインコンセプトである軽量化。軽さがもたらす影響は、どのようにお考えでしょうか?
神瀬:短距離における加速に関しては、重量が運動方程式の中に入っているので、すごく大きな、支配的といえる問題になります。
間宮:ケイリンにおいては、軽量化したことで良い方向に大きな影響があると思います。
神瀬:一方で、たとえば200mFTT(助走ありのタイムトライアル)はすでに加速した状態から始まるので、重量の影響は関係なくなります。むしろ重量があった方が運動エネルギーが増える。必ずしも、軽量化が最重要にならない種目もあると思います。
間宮:ただ、レギュレーションでは自転車全体で6.8kgと定められています。
世界選手権での「TCM-3」デビューに向けて

Q:TCM-3のデビューはいつを予定しているのでしょうか?
間宮:10月の世界選手権です。そこに向けて、更にハンドルの改良を考えています。これまではハンドルは市販のものを使用していましたが、空力に影響を与える、足の前(進行方向)にあるものというのはフォークかハンドルしかない。
神瀬:今のフォークは幅を広くして、フォークと膝の間の空間の空気をわざと乱すようにしています。その考え方を取り入れて、ハンドルにちょっと突起物をつけて太ももに当たる風をコントロールしようと考えています。
間宮:ホイールにも手をつけていく必要がありますし、フォークの形状もレギュレーションに沿ったものにしなくてはならない。世界選手権に向けて、やるべきことはたくさんあります。