女子200mFTT、新時代の幕が上がった。

2025年3月14日から開催されていた『2025ネーションズカップ(トルコ・コンヤ)』の大会2日目、女子スプリントの予選種目である200mFTT(助走付きの200mタイムトライアル)にて、中国の若手選手ユアン・リイン(Yuan Liying)が9秒976を記録。女子選手として初めての「9秒台」を記録した。

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参考として、2024年インカレ(全日本学生選手権トラック自転車競技大会)における男子200mFTTのトップ記録は10秒066であることを提示しておこう。男子学生を軽々と乗り越える記録が、19歳女子から生み出されたのだ。

では、女子200mFTTはどうやってこの「9秒台」まで辿り着いたのか?

この記事では過去の200mFTTの記録を振り返りつつ、日本選手の足跡も辿っていく。

1993年、女子200mFTTで初の10秒台を記録

遡ること37年。1988年のソウルオリンピックで初めて自転車トラック競技に女子種目が追加され、スプリント種目が初開催された。続く1992年のバルセロナオリンピックでは、スプリントに加え個人パシュートが開催され、女子種目は2つとなった。

そのような時代背景の中、女子200mFTTが初めて10秒台を記録したのは、1993年。

モスクワで10秒831を記録したのはロシア籍の選手であるオルガ・スリュサレヴァ(Olga Slyusareva)だったが、この選手は2004年のアテネオリンピック ポイントレースで金メダルを獲得しているなど、中長距離種目が主戦場の選手であることが面白いところ。女子種目の発展期だっただけに、あまり種目タイプの垣根がはっきりしていなかったのかもしれない。

新記録が続いた2010年代前半

その後しばらくスリュサレヴァの記録を破る選手は現れなかったが、次に記録を樹立したのは、リトアニアのシモーナ・クルペツカイテ(Simona Krupeckaitė)。2010年に、同じくモスクワの地で10秒793を記録した。

シモーナ・クルペツカイテ Simona Krupeckaite (LTU), Women's Sprint Qualifying AUGUST 6, 2021 - Cycling : during the Tokyo 2020 Olympic Games at the Izu Velodrome in Shizuoka, Japan. (Photo by Shutaro Mochizuki/AFLO)

シモーナ・クルペツカイテ

しばらく世界記録更新が連続したものの、2013年7月にクリスティーナ・フォーゲル(Kristina Vogel:ドイツ)が記録した10秒384で一度記録がストップしてしまう。

これはフォーゲルの強さが頭一つ抜けていたこともあるが、記録地がメキシコのアグアスカリエンテスであったことも関係する。

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2023年に同地で1kmTT世界新記録チャレンジが行われたように、この地は自転車トラック競技にとって「世界記録の聖地」。標高が高く、空気抵抗が少ないため、ここで樹立された世界記録は数多くある。

地理的な好条件も味方して記録されたフォーゲルの10秒384は、その後6年にわたって破られることがなかった。

一方その頃、日本では

一方その頃、日本でも新たな動きが生まれていた。

2012年2月のトラックワールドカップにて、当時大学生だった前田佳代乃が9年ぶりに日本記録を更新。この時の記録は11秒469で、世界記録とのタイム差はあったものの、長く更新がなかった日本の女子200mFTTに新たな風が吹いていたことは間違いない。

前田佳代乃

前田佳代乃

この後前田は2012年12月、そして2013年にも記録を更新するが(最終的に11秒014)、そこで記録は止まってしまう。この次の新記録は日本トラック競技における「大改革」を待たねばならない。

日本トラック競技の「大改革」

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