『2024世界選手権トラック』(デンマーク・バレラップ)におけるメダル獲得の偉業を、過去の挑戦の歴史とともに掘り下げる連続企画の第5弾。
今回は、女子ケイリンで金メダルを獲得した佐藤水菜が大会3日目に手にした「もうひとつの史上初」、女子スプリントを取り上げる。
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日本開催の90年大会に3選手が出場
1958年からプロ種目として実施され、1993年よりプロとアマチュアが一緒に走る“オープン化”した女子スプリント。
記録として残っている最初の挑戦は、競輪の『寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント』開催のきっかけにもなった1990年の日本・前橋開催。オープン化前の本大会に出場した初の女子選手は大家千枝子、鈴木裕美子、三井由香だった。
その後、90年代半ばにかけて黒木美香、橋本聖子らが挑むも、表彰台には及ばなかった。
95年大会後、再びこの舞台に日本人選手が挑戦したのは2008年の佃咲江。
前年の『世界選手権B』(「Bクラス」の大会)で優勝し挑むも予選敗退。
壁に跳ね返され続ける2010年代
2012年には、前田佳代乃と石井寛子が出場。
前田は予選で当時の日本新となる「11秒402」を記録し予選を突破するも、1回戦で敗れ22位となった。
以降、石井寛子、石井貴子、小林優香らが出場するも、なかなか世界の壁は高く、予選〜1回戦を突破できない時期が続く。
この種目では、予選で実施される「200mFTT(助走ありの200mタイムトライアル)」のタイムによって、1回戦以降の対戦相手が決まる。
予選を下位で突破すると、次に待ち構えるのはメダル候補の強豪となってしまうことも、なかなか次のステージに進めない一因だったと考えられる。
扉の先に光が見えた2020年
前進の兆しを見せたのは2020年のドイツ大会。
太田りゆと小林優香が出場し、両者共に予選を突破。
小林は1回戦も勝ち抜き、最終結果は太田が26位、小林が16位。
翌2021年、『ネーションズカップ第2戦』にて小林優香が銀メダルを獲得。国際大会デビューとなった梅川風子と佐藤水菜はそれぞれ3、4位、そして太田りゆが5位を獲得するなど、世界の舞台でもしっかりと存在感を放ち迎えた同年フランス・ルーベ大会には、太田りゆと梅川風子が出場。
上位24人が次のステージへ進める予選をそれぞれ10位、17位で突破すると、太田は2回戦まで進出。
東京オリンピック金メダリストのシェーン・ブラスペニンクスに敗れるも、10位という結果を得た。
タイムが物語る、快挙への予感
光明が見えたとはいえ、この種目でいかに厳しい戦いを強いられてきたか、おわかりいただけたかもしれない。
事実、2022・23年には佐藤水菜、太田りゆ、梅川風子の3人が挑むも、2回戦を突破することができなかった。
しかし、着実に世界との差は縮まっていた。
その証拠に、予選で実施される200mFTTの日本記録は2023年以降何度も更新。
特に佐藤水菜に関しては、パリオリンピックで出した現日本記録「10秒257」を含め、2024年だけで3度日本記録を更新している。
そんな中で迎えたのが、2024年の世界選手権だった。
佐藤水菜は5位、梅川風子は10位で予選を通過。
佐藤水菜は準々決勝で2022年の世界王者マチルド・グロを下して準決勝進出。
準決勝では敗れるも、迎えた運命の3位決定戦。
ソフィー・ケープウェルをストレートで下し、ついに初のメダル獲得の瞬間が訪れた。
じつは最大級のインパクト?
あらためて振り返ってみると、この偉業の凄まじさが実感できるのではないだろうか。
なにせ準決勝に進んだことからして、史上初のことだったのだ。
日本・前橋開催での大会から30年以上の時を経て手に入れた、悲願のメダル。
戦いの歴史から受けるインパクトという意味では、じつはこの種目のでメダル獲得が最大級だったのかもしれない。
参照:
2023年版 競輪年間記録集(PDF)
Tissot Timing | World Championships Result
UCI TRACK CYCLING WORLD CHAMPIONSHIPS – PALMARES – ELITE
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