経験ゼロから日本代表へ 太田海也

学生時代から自転車競技で名を馳せてきた中野と対照的に、まったく違った道を歩んできた、いわゆる「他競技からの転向組」なのが太田海也だ。高校時代はボート競技でインターハイ優勝の成績を残すも、大学時代にボートの道を離れ一念発起、自転車の道へ。競輪選手養成所に入所すると第1回の記録会でいきなりゴールデンキャップ*を獲得する。
※養成所で行われる「記録会」にて、特に優秀な成績を残した候補生に授与されるもの
中野と同じく早期卒業選手として同期より早くデビューした太田は、同時期にナショナルチームにも加入。自転車未経験だった青年が一転、あれよあれよと日本代表選手になってしまったのだ。

太田の競技での初の個人タイトルは、2022年7月に開催された『ジャパントラックカップⅠ/Ⅱ』。この時は大会最終日、4日目のレースで優勝したが「気持ち的にはもう走れないけど、体的にはまだいけますね。このまま大会が永遠に続けば、他の選手がどんどん疲れてくるから自分はどんどん良くなりそう」と話したように、体力おばけな一面がある。
同じく体力おばけエピソードといえば、2023年3月には自身初の出場となった『ネーションズカップ第1戦(ジャカルタ)』のスプリント。このレースでネーションズカップにおける自身初の銀メダルを獲得したが、全9本走ったうち、「7本(予選〜準決勝)を上がりタイム*9秒台で走る」という体力おばけっぷりを見せつけた。
※フィニッシュまでの最終200mのタイム
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続くエジプトでの第2戦ではケイリン・スプリント・チームスプリントの3種目で銅メダルを獲得。世界の舞台で合計4つものメダルを獲得した。期待がかかった『2023世界選手権トラック』ではメダルには届かなかったものの、チームスプリントとスプリントで6位と、2023シーズンを通じて評価に値する成績を残してきた。
改めて思えば、太田海也がナショナルチームに参加し始めたのは日本競輪選手養成所の早期卒業後、2022年1月から。競技歴は2年に満たない。ここから2024年8月のパリオリンピックまでの間でどれだけの成長を見せてくれるのか、期待してしまうところだ。
だがそんな太田も、何もかも順調だったわけではない。
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2021年12月、日本競輪選手養成所所属として出場した『2021全日本選手権トラック』。ボートからの転向者である太田にとってはもちろん自身初の競技大会だったが、経験不足が祟ったのか、このレースで落車してしまう。
この落車が12月13日。この翌月、1月1日に中野は早期卒業生としてプロデビューできた一方で、太田は怪我の影響もあり、デビュー戦は2月まで先送りとなった。
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待ち望んだデビュー戦では見事完全優勝。そのまま9連勝してA級2班への特別昇班はクリアできたものの、ここでもまた壁が立ち塞がる。
3月のレースで失格を取られて連勝がストップしてしまったのだ。連勝カウントは一旦リセットされ、中野に遅れを取ること4ヶ月、8月にようやくS級へ上がることができた。
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そこから1年が経った、2023年8月。『2023世界選手権トラック』から帰国して4日後にスタートした『オールスター競輪(G1)』にて初めてG1に出場した太田は、3日目の一次予選②で1着、G1初勝利を挙げる。
初日 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | 最終日 | |
太田海也 | – | 一次予選①2着 | 一次予選②1着 | 二次予選1着 | 準決勝4着 | 特別優秀1着 |
終わってみれば初のG1で準決勝まで勝ち上がり、6日間のうち3レースで1着という成績。
「世界選手権で悔しい思いをした分を晴らすような今開催でした。日本の競輪は自分にとって課題だったのですが、先輩たちにひとつひとつ教えていただきながら、自分の成長が少しずつ実感できる開催になったと思います。すべてのレースで手応えを感じられました」
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太田は続く自身2度目のG1『寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント』でも初日に1着のレースを見せる。未経験からのスタート、落車、連勝ストップと、真っ直ぐに駆け上がってこれたわけではなかった太田だが、2023年12月28日、ヤンググランプリの舞台に立つ権利を得るまでに至った。
ジャパントラックカップ、競輪祭、そしてヤンググランプリ
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日本代表として、そして競輪界としても、期待のエースである中野慎詞と太田海也。2023年11月から12月にかけて、この2人が出場するレースが競技・競輪ともに予定されている。
ジャパントラックカップ
11月16日(木)〜18日(土)
3日間で開催されるトラック競技大会。日本で行われる国際大会で、海外選手も出場予定となっている。場所は東京2020オリンピックの会場となった伊豆ベロドローム。
競輪祭
11月21日(火)〜26日(日)
6日間で開催される競輪のG1開催。G1は年に6回あるが、競輪祭は年間ラストのG1であり、この結果を持って年末の大一番『KEIRINグランプリ2023』の出場選手が決定するため、他のG1とは別の緊張感のある開催だ。会場は北九州、小倉競輪場。
中野・太田の両選手ほかナショナルチームの選手は、ジャパントラックカップ終了後19日に移動し、20日に小倉競輪場で実施される前日検査に入らなければならないため、少々大変なスケジュールとなっている。
ヤンググランプリ
12月28日(木)
競輪界最大のレースシリーズ『KEIRINグランプリシリーズ』の初日に実施されるレース。「若手No.1」を決めるもので、デビュー3年以内の選手のうち特に秀でた者しか出ることができない。28日はヤンググランプリ、29日はガールズグランプリ、30日はKEIRINグランプリが実施される。ナショナルチーム所属選手としては佐藤水菜がガールズグランプリに出ることが決定している。