「パシュートバー・ドロップバー」とは?

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なぜドロップバーを使用?

パシュート種目や中長距離のタイムトライアル種目において、比較的不利となるドロップバー。2022年4月に開催された『2022オセアニア選手権トラック』では、当大会の男子1kmTTにパシュートバーで挑んだトーマス・コーニッシュが優勝している。

ではなぜ今回のコモンウェルスゲームズでは、オーストラリアの選手だけパシュートバーを使用しなかったのだろうか。

先述したが、「男子1kmTTでオーストラリアの選手がドロップバーを使用すること」を決定したのは同国の自転車競技連盟。レース当日の8月1日に、この決定に関する声明を発表した。

安全を優先するためにドロップバーを使用

声明には以下のように記載されている。

「広範囲の分野に渡るテストを行い、代替案についても徹底的に考え抜いた結果、本日(8月1日)行われる『2022コモンウェルスゲームズ』の男子1kmでは、当初使用を予定していたパシュートバーは安全に使用できない、という結論に至りました。

わずかに選手たちのタイムが遅くなることが予想されますが、以上の決定により、競技中に掛かる負荷に耐え得るドロップバーを選手たちは使用することになります」

マシュー・リチャードソン RICHARDSON Matthew, AUS, Qualifying, Men's Sprint, 2022 Track Nations Cup, Milton, Canada

また、当国自転車競技連盟のJosse Korf氏は、以下のように述べている。

「包括的なテストを行った結果、当該種目にてオーストラリアチームの選手たちが発揮し得るパワーは、パシュートバーの耐久性を大きく上回りかねない、ということが明らかとなり、本決定に至りました。

この決定に対し、ある程度の不満や失望が生じることは認めています。しかし選手やチームは、安全を最優先したことによる決定であることを理解してくれました。

私たちは東京オリンピック以降、チームの組織的な構造や各プロセスの大幅な見直しを行ってきました。この決断も、技術的な側面や競争力の向上、そして選手たちの福利に対する長期的なアプローチを行っていく、新たな枠組みが反映されたものなのです」

参照:AUSCYCLING「Statement on Men’s 1000m Time Trial at Birmingham 2022」

「安全のために」ドロップバーの使用を決定したオーストラリア自転車競技連盟。オーストラリアチームは東京2020オリンピック 男子チームパシュートにて、走行中にハンドルが外れてしまうアクシデントを発生させていた。今回の判断はこの時の反省が活かされた結果とも言えるだろう。

東京オリンピックで起きたアクシデントの要因 オーストラリア自転車競技連盟が調査結果を発表

マシュー・グレーツァー優勝コメント

「選手の安全を優先することで、タイムが遅くなってしまう可能性がある」というオーストラリア自転車競技連盟の発表があった数時間後に、男子1kmTTが実施された。

しかし結果は、ドロップバーを使用したオーストラリア選手が金・銀メダルを獲得。さらに、優勝を果たしたマシュー・グレーツァーは1分を切る好タイムを叩き出した。

以下、マシュー・グレーツァーによる優勝後のコメント(8月2日のコメント)

「タフな1日だった。あんなに速く走れた自分に正直驚いたよ。ラスト2周に突入した時は『もう……』って感じで苦しかったけど、これが(大会)最後の走りだと言い聞かせて気持ちを保った。

前回優勝(2018)した時も逆境を乗り越えての優勝だったし、何があっても、もう一度挑戦できるということを証明できたと思う。

でも簡単なことでないことは確かだよ。打ちのめされた時はいつだって苦しい。

優勝で大会を終えることができて、本当に嬉しく思うよ。

実は、僕の目標は59秒を切ることだったんだ。でもパシュートバーが使用できなくなって、ドロップバーで1分を切ることを目標にしたんだ。

結果、目標を達成することができて本当に嬉しいし、最高のかたちで大会を終えることができた」

参照:AUSCYCLING「What a way to finish’: Glaetzer difies setbacks to win 1000m TT gold」

10月の世界選手権では?

マシュー・グレーツァー GLAETZER Matthew, AUS, Qualifying, Men's Sprint, 2022 Track Nations Cup, Milton, Canada

『2022コモンウェルスゲームズ』の男子1kmTTにて、通常使用されるパシュートバーではなくドロップバーを使用したオーストラリアチーム。

オーストラリア自転車連盟によると、安全を最優先としたこの決定に対しイギリスのThe Guardian紙などは、「トラック競技での安全性を促進していくための議論を、より進めていくきっかけになった」と評しているとのこと。

ただしこの決定はあくまで、オーストラリアチームが当初使用を予定していたパシュートバーが、同国の「選手のパワーに耐えられない可能性」があると判断されれたことによるもの。

従って、「パシュートバーの使用自体を危険視した」訳ではないことにご留意いただきたい。

オーストラリア自転車競技連盟は、トラック競技の機材パートナーである「Argon 18」社とともに、10月に控える世界選手権でのパシュートバーの使用についてもテスト・検討していきたいと述べている。

ドロップバーで1分切りを成し遂げたマシュー・グレーツァーをはじめとするオーストラリア選手たちが、1kmTTにてパシュートバーとともに戻ってくることも十分あり得る。