スピードを競う自転車競技の中で、トラック競技は唯一「世界基準が設けられた競技場*」内で行われる。同じ条件下でレースが実施されることから、「世界記録」が計測される唯一の自転車競技でもある。
そこで本記事では2022年に樹立された「新記録」を、トラック競技と競輪からピックアップ。「最多タイトル獲得記録」や「最年長出走記録」など様々な記録があるが、今回はタイムに関する「最速記録」についてご紹介していく。
世界新記録
ではまず、2022年に樹立された世界新記録から。その多くが『2022世界選手権トラック』で更新されたもの。各選手が1年の集大成を発揮する舞台であることが窺える。
男子エリート
個人パシュート(4km)「3分59秒636」
『2022世界選手権トラック』にてフィリポ・ガンナ(イタリア)が樹立した記録。
松田祥位との対戦となった予選では、「4分0秒693」を記録し1位で通過。そして同国のジョナサン・ミランと対戦した決勝では、前半では遅れを取るものの後半2kmでペースアップ。結果史上2人目の4分切りとなる「3分59秒636」でフィニッシュし、世界新記録を打ち出した。
2021年に史上初の4分切りを果たした、アシュトン・ランビー(アメリカ)は自身のSNSにて「”4分切りクラブ”に新メンバーを迎えられてとても嬉しいよ」と祝福した。
選手名 | 国 | 記録 | 記録 | |
新記録 | フィリポ・ガンナ | イタリア | 3分59秒636 | 2022年10月14日 |
前記録 | アシュトン・ランビー | アメリカ | 3分59秒930 | 2021年8月18日 |
女子エリート
チームスプリント(750m)「45秒967」
女子チームスプリントの世界新記録を更新したのは、前記録保持者のドイツチーム。
予選を首位で勝ち進んだ『2022世界選手権トラック』の1回戦にて「45秒983」を出し、その後の決勝でさらに速い「45秒967」を記録。1日で世界記録を2度も更新し、世界選手権2連覇を達成した。
国 | 選手名 | 記録 | 実施日 | |
新記録 | ドイツ | リー ソフィー・フリードリッヒ エマ・ヒンツェ ポーリン・グラボッシュ |
45秒967 | 2022年10月12日 |
45秒983 | 2022年10月12日 | |||
前記録 | 46秒064 | 2021年10月20日 |
男子ジュニア
個人パシュート(3km)「3分9秒682」
エリートより1km少ない「3km」で実施されるジュニアの個人パシュート。しかし世界新記録が樹立されたのは、エリートカテゴリーの『2022世界選手権トラック』。
4kmを走らなければならないエリートのレースに混じって出場したカルソン・マターン(カナダ)は、3km地点での途中計測で「3分9秒682」を記録。普段より1km多く走るレースにも関わらず、ジュニアの世界新記録を樹立してみせた。
その他カルソン・マターンは、8月に開催された『2022ジュニア世界選手権トラック』にて個人パシュートとオムニアムの2冠を達成している、今後も要注目の若手選手だ。
選手名 | 国 | 記録 | 実施日 | |
新記録 | カルソン・マターン | カナダ | 3分9秒682 | 2022年10月14日 |
前記録 | フィン・フィッシャーブラック | ニュージーランド | 3分9秒710 | 2019年2月9日 |
UCIアワーレコード
「1時間でどれだけ長い距離を走破できるか」を競うUCIアワーレコード。UCIによる正式な申請許可や監督の下、計測が行われる。
1時間で漕いだ距離を計るため、計測記録(アワーレコード )をそのまま「平均時速」として参照できる。世界一の速さと持久力を可視化できる、分かりやすい記録でもある。
このアワーレコードの世界記録を2022年に更新したのは男女計3人。
エレン・ファンダイク「49.254km」
主に女子ロードで活躍するオランダのエレン・ファンダイク。5月23日に挑戦し、「49.254km」を走破。前記録を850m上回り、新記録を樹立した。
選手名 | 国 | 記録 | 実施日 | 会場 | |
新記録 | エレン・ファンダイク | オランダ | 49.254km | 2022年5月23日 | グレンヘン (スイス) |
前記録 | ジョセリン・ラウデン | イギリス | 48.405km | 2021年9月日 | グレンヘン (スイス) |
ダニエル・ビッガム「55.548km」
男子トラック競技パシュート種目に加え、ロードTT種目でも活躍するイギリスのダニエル・ビッガム。8月19日に挑戦し、「55.548km」を走破。前記録を459m上回り、3年ぶりの新記録を打ち立てた。
そしてこのダニエル・ビッガムは、選手でありながらUCIワールドチーム(ロード)「INEOS Grenadiers(以下イネオス)」のエンジニアスタッフとしても勤務している珍しい人物。イネオスの研究チームとともに算出したデータを駆使し、自らがライダーとして挑んだ戦いで見事「1時間を世界一速く走る選手」となった。
その他『2022世界選手権トラック』ではチームパシュートにて優勝に貢献するなど、選手・スタッフの”両職”で活躍している選手でもある。
選手名 | 国 | 記録 | 実施日 | 会場 | |
新記録 | ダニエル・ビッガム | イギリス | 55.548km | 2022年8月19日 | グレンヘン (スイス) |
前記録 | ビクター・カンペナールツ | ベルギー | 55.089km | 2019年9月16日 | アグアスカリエンテス (メキシコ) |
フィリポ・ガンナ「56.792km」
トラック競技パシュート種目、ロードTT種目で世界トップレベルの成績を収めているフィリポ・ガンナ。ロードではイネオスに所属しており、ダニエル・ビッガムとは”チームメイト”。
そのチームメイトによる挑戦から約2ヶ月後の10月8日に計測を実施すると、1.244kmをも上回る「56.792km」を走破し世界記録を見事更新。
そして本挑戦に伴い、ダニエル・ビッガムのアワーレコード挑戦は、フィリポ・ガンナによる記録更新のために計画されたプロジェクトの一環だったことが明かされた。
チームメイトが”体を張って”収集したデータを活用し、新たな世界一に輝いたフィリポ・ガンナ。インタビューではイネオスのスタッフに感謝を述べつつ「僕らならまた更新できる」と、再挑戦を期待させるコメントを残した。
選手名 | 国 | 記録 | 実施日 | 会場 | |
新記録 | フィリポ・ガンナ | イタリア | 56.792km | 2022年10月8日 | グレンヘン (スイス) |
前記録 | ダニエル・ビッガム | イギリス | 55.548km | 2022年8月19日 | グレンヘン (スイス) |