予想外の自分の未来 日本の可能性

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決定スピード、日本の組織に大事なこと

Q:日本と関わり始めて4年が経ちますが、これまでの日本での活動は予想より厳しい経験でしたか?

予想よりも厳しかったです(笑)理由としては、この様な大プロジェクトを始動させ、活性化させることはそもそも難しいことだからです。

2016年に話をし始めて動き出すまで、2017年の半ばまで掛かりました。2018年に私が日本に引っ越してきてから、アクセル全開となりましたね。

本気で取り組み始めて2年間でここまで来た、そう考えると上手くは行っていると思います。しかし、もっと早くに今の状態まで持っていくべきだったとも思っています。

ただ、2年も経たない内から結果が付いてきたことには本当に驚いています。同じことをして、同じような才能の選手たちが揃っていても結果が出ない事はあります。その中で我々は多くの国際大会でメダルを獲得してきました。特に女子オムニアムでは世界選手権で優勝し、男子ケイリンでは世界選手権で3年間連続の銀メダル獲得をしています。これは本当に嬉しいことです。

Q:その成功理由は分かっていますか?

まず潜在能力が高かったことです。そして選手たちの努力ですね。

彼らは生活の全てを変える必要がありました。これまでとは異なり、人によっては家族から離れ、今まで以上に自転車競技に対し時間を費やしました。

コーチも理由の大部分を占めます。ブノワコーチは選手たちに高いモチベーションをもたらす事が出来るコーチですし、選手たちに何をすれば良いのか示し続けてきました。

そして、チームとしての一体感です。直近の世界選手権では勝った種目も負けた種目もチームとして喜び、チームとして悔しがることが出来ました。そのようなチームを作れた事が成功の鍵であったと思います。

今語ったような要素は今後も持ち続けなければならない要素ですし、世界と比べても特別な環境を作り上げたと思っています。ですからサポートしてくれている皆さんに知ってもらいたいのは、このような変革が今起きているということ、そしてこれが歴史的な変革だということです。

Q:苦労した点は?

たくさんあり過ぎます(笑)一つ挙げるとしたら、物事の決定までに時間が掛かり過ぎるというところでしょうか。物事には素早く決めなければならないとこと、じっくりでも良いこと、それぞれがあると思います。日本の場合はその全てに時間が掛かってしまう点が難しいと感じました。

関わっている人全てが責任感を持ち、失敗を恐れずに物事を進めることが出来ればと思います。ここで働くスタッフには全ての部署で責任を持ち、選手たちがより速く、より強くなるために解決策を見つけるために努力する、そのような姿勢を求めています。私が思いもよらないアイデアを実行するようになってくれれば嬉しいです。そして、同時に責任を持ってその仕事には取り組んでもらいます。言葉にするのは簡単ですが、実行は難しいと思います。これは私にとっても難しいことでもありますから。

東京オリンピック後こそが“重要”

Q:この様に大きなプロジェクトへ、今のような立場で関わるのは初めてなんですよね?

元々コーチでしたから、初めてですね。ただしマネージメント側には常に興味を持っていました。そして自分が元コーチということで、現場のコーチや選手が何を求めているのかは理解出来ますし、必要な物は用意しようと努力できます。まあ、大体必要な時よりも遅い対応となってしまってはいますが(笑)

でも何もしないわけでもないし、それでも以前と比べたら大きな進歩を遂げていると思います。我々の仕事は選手やコーチが必要とする物や環境を整えることです。現状はトラック競技のハイパフォーマンスセンターとしての基本的な部分は構築出来たかと思います。

また競技だけでなく、自転車産業も同時に牽引しなくてはなりません。オリンピックに向けてブリヂストン、デサントなどと協力してきた結果、世界でもトップレベルの機材やウェアの開発をしています。各社と協力して日本の自転車産業にも貢献していきたいと思っています。

オリンピックでのメダル獲得に向けて各選手たち、コーチ、スタッフ、サポートしてくれている会社など、とてもたくさんの人たちが同じ方向を向いて試行錯誤を重ねる事が出来た結果、今我々はオリンピックのメダル候補国に挙げられています。

ただ、オリンピックが終わって我々の仕事が終わりというわけではありません。オリンピック後こそが大事で、この体制を残していき、日本が言葉通り自転車競技の大国となることが必要です。東京オリンピックのメダル獲得も大事ですが、メダルを獲得出来るシステムを残すこと、それが私の仕事であり、今後更に求めていかなければならない部分です。

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