「函館大谷だからここまで来れた」
Q:北海道での高校生活はどうでしたか?
函館大谷の自転車競技部だったからここまで来れたなと感じます。大森さんのお父さんにコーチとして指導いただきましたが「先を見据えて教える」という指導方針でした。指導者の中には「その時を強くすればいい」と考えている人もいると思いますが、そうではなかったです。
例えば高1で重ギアを踏むようなところもあると思うのですが、自分は最初すごく軽いギアだったんです。「基礎はまずは軽いので」と言われていて、高2の選抜で声をかけてもらえた時、全国大会に出ている高校生の中では一番ギアが軽かったと思います。
でも、それでインターハイも優勝できました。「ここからギアを上げれば、タイムも自動的に上がる」と言われていましたが、ナショナルチームに呼んでいただいて重いギアを踏めるようになり、そうするとあの言葉通りタイムも出てきました。初めから重いギアだったらこうはならなかっただろうなと思います。
Q:高校で必要な技術は一通り身につけられた、ということでしょうか。
ただケイリンやスプリントは全然出場してないんです(笑)戦法面はまだまだですね、ずっと1kmTTばっかりやってきました。
Q:基礎体力と真っすぐ走る能力はバッチリ、と(笑)
基礎をしっかりやって、変な癖なども付けずにこれたことは良かったと思います。
高1・高2の頃は他と比較する機会もなかったから、みんな軽いギアを使ってるものだと思っていました。全国大会で初めて「自分だけめっちゃ足回ってる!」って(笑)知らなかったからこそ「基礎をやらされている」とも思わなかったので、それはそれで良かったのだと思います。
Q:そういった練習を積んできて、改めていかがですか?
自分は1kmTTばかりやってきましたが、始めたばかりの頃は600mくらいで脚がパンパンになっていました。北海道は冬は雪で自転車に乗れないので、室内でのワットバイクの練習がメインになります。1kmTTのペダリングはワットバイクのペダリングと似てるので、その辺りも活きていると感じます。
200mだと気持ち良くなっちゃうんですよね。ガツガツいっちゃう。それと比べると、1kmTTの時の方がペダリングが綺麗になっていると思います。
Q:北海道だとそういう事情もあるんですね。ワットバイクをやっている間って黙々と考えてしまいませんか?
はい。でも考えながら、意識しながら乗るのって大事だなと思っています。函館大谷は部活中に携帯を使っても大丈夫だったので、ワットバイクとデータを連動させて、内容を大森さんやコーチに見てもらっていました。3ヶ月くらい毎日、練習のペダリングを見てもらって「ここがこうで、こうで……」とやってもらっていました。部員数が少なかったので、それも良い要素だったなと思います。
新田祐大に声をかけられた高校選抜から
Q:声をかけられた2年生の終わりの高校選抜は、「新田祐大選手が声をかけた」というやつでしょうか?
そうです。それまでは「春の選抜が終わって、3年のインターハイまで試合ないんやなあ」と思ってました。
Q:その大会には筆者も伺っていましたが、関係者の方から「中石、ヤバいぞ」と聞いていたんです。「そんなにヤバいやつがいるのか」と思ったら、ヤバかったですね。
いえいえ……あの時は雨があってタイムがそんなに良くなかったんですが、最初のつっこみは良かったと言われました。
Q:「競輪選手になろう」と思った時「自転車競技の選手になろう」と考えたわけではない、ですよね?
そうですね。競輪選手になるための手順、という感じでした。1kmTTが好きになり始めて、自分のタイムが出るようになって、タイムで争いたくなって……それでもまだナショナルにいくようなレベルではないと思っていたんです。高2くらいまでは、サッカーを見てるような気持ちで全日本選手権をLIVEで見ていました。「よく250mバンクで走れるな」と思っていましたね。
Q:その頃ですと、脇本雄太選手や深谷知広選手、新田祐大選手あたりがメインメンバーだった頃ですね。
はい。「自分がこれに出たら……」という気持ちが全くなかったわけじゃないですが、ほぼ「全然関係ないスポーツを見ている」ような感覚でした。ここに関わることはないだろうなあと思っていました。
Q:新田さんのプッシュ、ハンパないらしいですね。
はい。それはもう凄いです。ジャパントラックカップの時は新田さんが怪我をされていて片手で押されたのですが、それでも他の人より有利になります。バンクを駆け上がる力を使わないのでジュニア記録を更新出来ました。新田さんのお陰ですね。片手であの力が出るので、両手だとどうなるのか……
Q:(笑)。やっぱりプッシュは大事なんですね。
さて、競技に関わってみてどうですか。インドまで来ましたよ。
※インタビューはアジア選手権(インド)にて実施
毎日がより面白くなったと感じます。高校生の時は年に2回の大会があって、それに優勝するための1年間でした。今はジュニアの世界選手権に出させていただいたり、こうやってアジア選手権に行かせていただいたり……
インターハイでは2年の時に優勝しましたが、こうやってナショナルで活動することで「もっと強い人がいる」ということを知れました。練習にも意欲が出ますし、「勝つ」ために考えたり、いろんな方法を試してみたりするようになりました。自転車競技の面白みがやっとわかってきたような気がします。
Q:「職業としての競輪選手」が自転車を始めたきっかけですが、今はスポーツとしての自転車競技の魅力、アスリートとしての感覚が強まっている感じでしょうか。
そうですね。今はスポーツ選手の方に気持ちが寄っていると思います。自分としても、こういう感覚になるとは思っていませんでした。
戦うなら勝ちたい。部活を始めた頃の先輩や、全国大会で会う他校の選手や、強い人はたくさんいましたが、ずっと「倒したる」という気持ちでいました。範囲が世界まで広がって思うのは「強い人は自分より努力していて、だから強い」ということ。自分の甘さを実感すると同時に、世界で勝ちたいという気持ちも強くなります。
国際大会を経験したからこそ「次はどこまでいけるのか」というリベンジの気持ちも強くなりました。今回のアジア選手権では、以前ジュニアのアジア選手権で負けた相手に勝てたんです。次はもっと差をつけて勝ちたいし、もっと強くなりたいです。
目標はひとつじゃない
Q:競輪と競技の、それぞれの目標を聞かせてください。
日本の競輪では、まずラインを大切にできる選手になりたいです。自分はレース勘がある方でもないし、難しいことだと思いますが、北日本の先頭に立っていずれG1も獲りたいと思っています。
Q:グランプリやグランドスラムなど、挙げようと思えばたくさんの「大きな目標」がありますが。
それでいうと、やっぱりグランプリは目標ですね。観に行ったことがあるのですが、世界選手権のケイリン決勝戦くらいの迫力でした。9人しかいないのに、バンクに闘争心が溢れてる感じ。あの舞台には上がってみたいなと思いました。
Q:では、競技での目標は?
そこが結構難しいです……1kmTTはオリンピック種目じゃないですから。
とはいえオリンピックに出たいという夢はあって、オリンピックで優勝するのが1つの目標です。そして、目標が2個って変な感じですけれど、1kmTTで世界チャンピオンにもなりたいです。1kmTTは好きですし、自分が楽しいと思う種目、ずっと取り組んできた種目でチャンピオンになれたらと思います。
Q:1kmTTの世界チャンピオン、いいですね。世界一のマゾですね。
(笑)