中日スポーツ・東京中日スポーツの八手亦記者による、寄稿記事をMore CADENCEに特別掲載。オリンピック トラック競技期間中、いつもと異なる視点から見る「自転車トラック競技」をお届けする。
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女子オムニアムの梶原悠未(24)=筑波大大学院=が銀メダルを獲得した。自転車競技での日本女子のメダルは初めて。男女を通じた自転車のメダルは、2008年北京オリンピックのケイリンで銅メダルとなった永井清史以来3大会ぶりとなった。
「金じゃなくてごめん」
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公私にわたり全身全霊でサポートしてくれた母に金メダルをかけてあげることはできなかった。レースを終えた梶原が真っ先に向かったのは観客席の最前列で応援を続けた、その母・有里さん。「『金じゃなくてごめん』と言ったら、『おめでとう』と言ってくれた」。ネイルを金色にしてまで欲しかった金メダル。銀のメダルでも母の笑顔を見た瞬間に全てが救われた。
2020年世界選手権の女王ながら、苦しい戦いを強いられた。最初のスクラッチこそ2位でまとめたが「体力を消耗していた」2種目目のテンポレースで獲得したのは1ポイントのみ。「スクラッチが終わって20分後のレース。心拍が上がったままで、他選手に譲ってしまった。もっと強気にレースをするべきでした」と順位は伸び悩んだ。
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しかし、女王の真骨頂は3種目目のエリミネーション。研究のテーマでもある種目で2位と大きくポイントの上積みに成功した。「1種目目のように、もう一度笑顔を作って楽しもうと考えた」と、自分が動きをとりやすいよう、右側には選手を置かない巧みな走りを見せた。
そして最終のポイントレース。後手に回って攻撃できないままでいたが、2位を守るためがむしゃらにペダルを踏み続けた。残り9周では落車のアクシデント。観客席からは悲鳴が上がったが「そこで気持ちを落ち着かせ、ゴールに向けて立て直せた」と、決してくじけることはない真の強さを見せた。
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次の目標はもちろんひとつ。将来についてはオリンピック後に自分の気持ちと話し合って決める予定だったが「ゴールしてみて、やはり悔しいと思った。次のパリオリンピックで金メダルを目指します」と早くも宣言した。
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Text:八手亦和人
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【コラム】「これがレース、これがケイリン」トラック短距離チーム旅の終わり、そして未来/八手亦記者の見た、東京オリンピック自転車トラック競技