中日スポーツ・東京中日スポーツの八手亦記者による、寄稿記事をMore CADENCEに特別掲載。オリンピック トラック競技期間中、いつもと異なる視点から見る「自転車トラック競技」をお届けする。
悲願はパリへ
脇本雄太(32)=日本競輪選手会=は準決勝2組5着で決勝進出を逃し、新田祐大(35)=同=は準々決勝で敗退した。
競輪界悲願の金メダルは次のパリオリンピックに持ち越された。脇本は準々決勝こそ逃げ切り勝ちを収めたが、準決勝は2番手追走中にトリニダード・トバゴの選手に内に入られて勝負圏内を去った。
「最高の状態と精神状態で戦った。全力を出した中で上をいかれてしまったが、最高に恵まれた位置が取れた。でも自分は空けてないのに内に入られてしまった。何が起こるか分からないのがオリンピックなのでしょう」。その内をすくった選手は失格。やるせない思いが残った。
それでも、前回のリオデジャネイロオリンピックと比べ「成績が良くなっている。最高の結果がこれ。集大成を見せられて満足しています」ときっぱり。そして「(競技からは)現役引退しますが、後世にしっかり伝えてレベルの向上のためにサポートしたい」と、自分の経験の全てを後輩にささげることを誓った。
一方、新田は準決勝進出4着条件の準々決勝で6着に終わり、早々と終戦。後手に回って不発に終わった。
「積極的に動いたラブレイセンが先行してくれるのではないかと甘い気持ちを持ってしまった。スピードが緩んだ瞬間、マズいと思ったけど、みんなが仕掛けてきて終わった。後ろになること自体は問題ないが、後ろになるタイミングが遅すぎ。巻き返しの利かない展開になってしまった」。本来の力を発揮できず、完全な展開負けだった。
それでも新田は前を向いた。厳しい競技の経験は、かけがえのないものとなったからだ。「結果は残せなかったが、スポーツとオリンピックのすごさを実感できた。ただ、緊張感に対して自分の中の葛藤と戦って勝ち切ることができなかった。また明日(9日前検日)からレースが始まる。この経験を何かに生かしていきたい」。
悔しさを残した競技ラストレース。だがこれも自転車人生。地元いわき平競輪でのオールスター(G1)でオリンピアンの誇りあふれる走りを期待したい。
そして、最後にブノワ短距離ヘッドコーチは取材に応じた。表情は硬く重い。新田の敗因については「残り2周で内に入ってラブレイセンの後ろを取ろうとしたところで終わった」と指摘。脇本に関しては「レビと無理やり並走して脚を使ってしまった。行かせて車間を空けてコントロールすればフタされることも内を入られることもなかった」と説明した。
メダル請負人だけに、選手本人よりこの結果は受け入れがたかったのかもしれない。「自転車に乗っている時の判断はすごく難しい。これがレース、これがケイリンなのでしょう。優勝するために私はここに来て、優勝できるレベルにあったができなかったということ。でも日本は大きな一歩を踏み出せたと思う」と少しだけ誇ってみせた。
Text:八手亦和人