ワールドカップが開幕して早1ヶ月。世界選手権や2020東京オリンピックへ向けた各国の争いが熱を帯び、トラック競技シーズンの訪れをひしひしと感じている事だろう。そんな中、深谷知広が成し遂げた『ワールドカップ男子スプリントにおける14年ぶりのメダル獲得』は我々日本のファンにとってセンセーショナルな知らせとなった。
しかし、同じく短距離種目のケイリンでも、近年は日本人選手が国際大会で多くのメダルを獲得している事もあり、深谷のメダル獲得の凄さがしっかりと伝わっていないのでは?とMore CADENCE編集部は懸念していた。
もちろんケイリンでメダルを獲得する事も歴史的な偉業であるが、スプリントでメダルを獲得した意味についてフォーカスし「深谷知広の銅メダル獲得が如何に凄い事か」を徹底的に解説していく。
【予選】9秒694の価値
ワールドカップ第2戦スプリント予選にて深谷は9秒694を記録し、4位で予選を通過。また1回戦のシード権を獲得する事となり、直接2回戦へと駒を進めた。
この9秒694という数字がどれほどのものであるのか。先ずは予選タイムから紐解いて行く。
深谷の進化
ワールドカップ第2戦のスプリント予選でシードを獲得した4人の選手の、2019世界選手権におけるスプリント予選と、今大会の予選結果の比較は下記の通り。
選手名 | 2019世界選 | タイム | ワールドカップ2戦 | タイム |
---|---|---|---|---|
ジェフリー・ホーフラント | 1位 | 9秒572 | 3位 | 9秒589(+0.017) |
ハリー・ラブレイセン | 2位 | 9秒584 | 1位 | 9秒535(-0.049) |
マテウス・ルディク | 3位 | 9秒584 | 2位 | 9秒558(-0.026) |
深谷知広 | 21位 | 9秒916 | 4位 | 9秒694(-0.222) |
これを見るだけでも、2019世界選手権から僅か9ヶ月程で世界トップクラスとの距離を急速に縮めている事が伝わるだろう。
日本記録はロシア・モスクワで2018年に河端朋之が記録した9秒627だが、高速バンクとは呼べないグラスゴーで、またオリンピック直前で世界の強豪もコンディションを上げて来ている中での9秒694、4位のタイムを記録したこと。これは日本記録とはまた異なる価値を持つ。
モスクワはタイムが出やすいバンクである。深谷は2019モスクワGPにて200mの自己ベストを出した際のインタビューにて「タイムは河端選手にも負けているし、このバンクだし、最低でも日本でトップになっていないとなので、良いタイムではないと思います。」と語っている。
誤魔化しの効かない「タイムと自分自身との勝負」であるスプリント予選におけるタイムトライアル。この予選で世界トップに引けを取らないタイムを出すことが如何に難しいのか、それは走っている本人たちにしか分からない部分でもあるのだろう。
インフレが止まらない世界のレベル
今大会と同じ、グラスゴーのバンクで開催された2016年ワールドカップのスプリント予選タイムがこちら。
それに対し、2019年に行われた今回のリザルトがこちら。
「恐ろしいほどに全体のレベルが上がっている」とお分かりいただけるだろうか。
今大会で深谷が出した9秒694という記録は、2-3年前であれば文句なしでトップを獲れるタイムなのである。また、2016年当時の1位のタイムである9秒871は、今年では18位相当のタイムになっているから驚きだ。10秒2程度であった予選のボーダーラインも、今や9.7秒あたりが予選を勝ち上がる条件になってきた。
世界トップのレベルも飛躍的に向上する中、他選手を凌駕するスピードで成長し、世界での順位を上げていることの凄さが伺い知れるだろう。