8月22日から25日にかけて伊豆ベロドロームで開催された『2025全日本選手権トラック』。
日本一を決める戦いであると同時に、世界選手権への選考大会としても位置づけられるこの舞台では、多くの注目レースが繰り広げられた。

その中でも特に光を放った選手たちを紹介していく。

圧巻の7冠 内野艶和

内野艶和, 女子スクラッチ, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

海外での“武者修行”を終えた内野艶和は、今大会出場全種目で優勝し「7冠」を達成(スクラッチ、エリミネーション、個人パシュート、ポイントレース、オムニアム、チームパシュート、マディソン)。

特に印象的だったのは、初日に行われたエリミネーション。

ケイリン世界女王である佐藤水菜のエントリーでも注目されたこの種目だが、周囲の期待通りにラスト2人に残った内野と佐藤。

佐藤水菜, 内野艶和, エリート, 女子エリミネーション, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

写真左が内野、右が佐藤

圧倒的なスピードを持つ佐藤に対し「後ろから進めても勝ち目がないとは思っていた」とレース後に語った内野。最後まで待つのではなく、ロングスパートに持ち込むために早めに仕掛け、佐藤の体力を削るレースで優勝。持ち前のスプリント力に、海外仕込みの持久力も加わった走りで金メダルを手にした。

さらに圧巻だったのは、最終日の個人パシュート。

女子個人パシュート, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

帰国後すぐの大会ということもあり難しいコンディションのなかで迎えた最終日。ダニエル・ギジガーコーチからも「(記録は)難しいだろう」とレース前に声をかけられたというが、終盤にタイムを落とさず、日本記録を更新(4分41秒227)する快走を披露した。

女子個人パシュート, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

今回の7種目は、いずれも少人数のレースとはなってしまったが、相手は垣田真穂や池田瑞紀、水谷彩奈といったナショナルチーム所属のメンバーがメイン。

「後輩達はみんなすごく強いので、勝って当たり前という感覚はない」とは本人の談だが、安定して力の違いを見せ続けた今大会のレースぶりは、“エース”の風格すら感じさせるほど。

7冠達成直後も「世界選手権に向けてすごく良い経験になった」と次を見据えており、さらなる上積みを見せてくれそうだ。

恐るべき進化 兒島直樹

エリート, 男子ポイントレース, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

窪木一茂、橋本英也をはじめ強力なメンバーがそろった男子中長距離種目だが、2025大会で最も存在感を発揮したのは、日本競輪選手養成所の青いジャージをまとった兒島直樹と言えるのではないだろうか。

松田祥位との“養成所コンビ”で制覇したマディソンだけでなく、ポイントレース、そして総合力を問われるオムニアムでも優勝。エリミネーションでも銀メダルを手にする活躍を見せた。

兒島直樹, 松田祥位, 男子マディソン, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

特筆すべきは、「競輪選手になる訓練が主である養成所に在所中である」ということ。中長距離のトレーニング/レース機会は確実に減っており、本人も「不安な部分も大きかった」と語る中で迎えた大会だが、出色のパフォーマンスを見せた。

その強さを特に感じたのは、オムニアムの最終種目として走ったポイントレース。

兒島直樹, 男子オムニアム, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

ラップ合戦となる目まぐるしい展開でも冷静に動きを見極め上位をキープすると、苦しい終盤の勝負どころで着実にポイントを得るレース運びで優勝を飾った。

なお、最終日のポイントレースでも、最後は橋本英也との激しい競り合いを制して4連覇を達成。

エリート, 男子ポイントレース, 2025全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

「場数の多さ」で身につけた戦術眼だけでなく、養成所で身につけたスプリント力や精神力も感じさせる走りで、「養成所のトレーニングが活きている」と語っていた。

見事に進化の証を刻んだこの大会だが、「目指すところは、世界の舞台で勝つこと。その意味では、今は過程でしかない」と言い切る兒島。その進化は、まだまだ止まらないだろう。

強さを見せた太田海也・佐藤水菜

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