オリンピックでは、「金メダルを取ります」と言えなかった

2/2 Page

真っ先にメンバーから削られるのは自分

Q:アジア選手権では中野慎詞選手が3走を務めました。今現在、1走・長迫選手、2走・太田海也選手という布陣は固まっていますが、メンバーはまだ固定されていない?

長迫吉拓, NAGASAKO Yoshitaku, 中野慎詞,Nakano Shinji,,JPN, 男子チームスプリント, MEN'S Team Sprint, 2025アジア選手権トラック, 2025 ASIAN TRACK CYCLING CHAMPIONSHIPS, Nilai, Malaysia

誰もレギュラーに固定されていない、そういった状態です。高橋奏多をはじめ、すごく力のある、これからももっと伸びる若い選手が入ってきました。覚悟を持ってやらないと、誰がいつ落とされるかわからないと思います。

僕は複数の種目をこなせる他の選手と異なり、チームスプリントの1走という役割しかありません。もしチームスプリントでメダルが獲れないとなったら、最初にメンバーから外されるのは僕だと思います。「チームスプリントでメダルを獲るんだ」と周りに思わせるためにも、自分の立場を確立するためにも、タイムを出すことが僕の仕事です。

Q:「チームスプリント=タイム系の種目で強い」ということは、全体の強化にもつながりますよね。

実際、オリンピックでメダル獲っている国は、もれなくチームスプリントが強いです。チームスプリントを強くすることは、個人種目でメダルを狙うための理由、そして要素でもあると思います。

長迫吉拓, NAGASAKO Yoshitaku, 太田海也, OTA Kaiya, 小原佑太 ,Yuta Obara,JPN, 男子チームスプリント,MEN'S Team Sprint Qualification,2025トラックネーションズカップ トルコ・コンヤ, 2024 UCI TRACK NATIONS CUP Konya, TUR,

努力が少し報われた瞬間

Q:パリを終えて、また4年後のロサンゼルスを目指すにあたって、葛藤はなかったですか?

パリのチームスプリントの予選が終わった時、「めちゃくちゃ気持ち良い」ってなったんですよ(笑)。これで辞めるのは勿体ないなと思いました。

長迫吉拓, Olympic Games Paris 2024, Saint-Quentin-en-Yvelines Velodrome, August 10, 2024 in Paris, France

Q:その気持ち良さの要因はなんだったのでしょう?

初めて、「全部出せたな」と思ったんです。
トレーニングだけでなく、それ以外の食事とか睡眠とか、休みの日の使い方とか。そういった努力が少し報われた瞬間というか、妥協もなかったです。一般的には、休みの日って遊びに行ったりリフレッシュに当てるものだと思いますが、スポーツ選手は、休み明けの練習に向けて「どれだけ体を休められるか」というのが仕事です。恥ずかしながら、そうやって挑むのが初めてのオリンピック、それがパリ大会だったんですよ。

Q:3回目のオリンピックで(笑)

自分も含めて、みんなで作り上げたというプロセスも含めてすごく楽しかった。だから、また4年間頑張るという気持ちになりました。

長迫吉拓, NAGASAKO Yoshitaku, PN, 男子チームスプリント,MEN'S Team Sprint Qualification,2025トラックネーションズカップ トルコ・コンヤ, 2024 UCI TRACK NATIONS CUP Konya, TUR,

楽しいことをするためにたくさん犠牲を

Q:4年後に向けては、「短距離のリーダーとして引っ張っていく」という考えですか?

リーダーなのかはわからないですけど、自分がしっかりしていれば、周りもついてきてくれるとは思います。
特にチームスプリントという種目は、仲間の人生もかかっています。自分の失敗だけで終わらせることができない。だからこそ、日々の生活から妥協できないなと思います。

もちろん人間なので失敗することもありますが、日頃の生活をおろそかにしていたら、「そりゃそうだよな」と周りに言われてしまう。チームメイトから信じてもらわなくてはいけないですし、そういう姿を仲間にも見てもらわなくてはいけないと思います。

長迫吉拓, NAGASAKO Yoshitaku, 太田海也, OTA Kaiya, 小原佑太 ,Yuta Obara,JPN, 男子チームスプリント,MEN'S Team Sprint Qualification,2025トラックネーションズカップ トルコ・コンヤ, 2024 UCI TRACK NATIONS CUP Konya, TUR,

Q:自分としてやることをやったうえで、競技にもしっかりと向き合い、結果を出す。

人生、楽しいことをしたいじゃないですか。でも「楽しいことをするためにはたくさん犠牲を払わないといけない」というのは、今回の大会を通じてすごく感じました。

新たな長迫吉拓物語、はじめます

Q:サラリーマンだと、長迫選手と同じ32歳はまだまだ若手というか「これから経験を積んでいくぞ!」みたいな段階だと思います。でも長迫選手がこの年でここまで経験豊富というのは、今後の強みになりますよね。

実は、あらためてトラック競技をやっていくにあたって、自分でスポンサーさんも探しているところです。そのなかで、僕の「選手としての価値」ってどれだけあるのだろうか、ということを考えるようになりました。速く走ることはできるけど、スポンサードしてもらう以上の利益を、しっかり返すことができるのか。4年後に向けて、スポーツ選手としての価値を上げていきたいと考えています。

長迫吉拓, JAPAN CYCLING AWARD 2024

Q:スポーツ選手としての価値。今は競技力だけでは足りないということですね?

BMXをやっていた時、応援して下さったスポンサーさんに「ビジネス書を読みなさい」と言われていたことがありました。当時20歳くらいだった僕は、「なぜスポーツ選手がこんな本を読まなきゃいけないのかな」と思っていたんです。

でも、オリンピックが終わった後、なにかの分野でトップに立つ人たちって、ベースとなる人間性はみんな同じなんじゃないかと考えるようになりました。だから当時、そういう本を読めって言っていただけたのかなって。人間性を磨いていかないかぎり、競技力も上がらないんだろうな、って。

長迫吉拓, NAGASAKO Yoshitaku, JPN, 男子チームスプリント, MEN'S Team Sprint, 2025アジア選手権トラック, 2025 ASIAN TRACK CYCLING CHAMPIONSHIPS, Nilai, Malaysia

Q:そういう気づきは、すごく重要ですね。

人間としてのベースをしっかりと作り上げられれば、スポーツというものをそこに乗せるだけで、価値を生むことができるんじゃないかと考えています。次の物語の準備は、できているのかなって。言うのは簡単ですけどね(笑)。

そういうことで、新たな長迫吉拓物語、第何章かわからないですけど、始めます。

Q:第7章くらいな気がします。

銀メダル&日本新を記録 男子チームスプリント/2025ネーションズカップ トルコ・コンヤ

新たな挑戦 苦しみの末に金メダル獲得 男子チームスプリント/アジア選手権トラック2025

いざ、人生最後(仮)の世界選手権へ。チームスプリント第1走・長迫吉拓インタビュー/2023世界選手権トラック直前企画