BMXレーシングでリオ、そして東京2020オリンピックに出場。その後トラック競技に「チームスプリント第1走のスペシャリスト」として挑戦を続ける長迫吉拓。

BMXレーシングとトラックの境界線を軽やかに超え続け、エリートクラスで過ごした年数は約10年。そして8月の世界選手権はパリオリンピック前最後の世界選手権であり、パリを最後に活動に区切りをつける場合、これが「人生最後の世界選手権」となる。

チームの中では唯一”2回”のオリンピックを経験したベテランとして、後輩たちをどのように見ているのか、そして世界選手権を前にどのようなことを考えているのか。長迫吉拓の「今」を改めて伺った。

世界選手権歴、意外に少ない

長迫吉拓, チームスプリント1走対談

Q:競技歴の長い長迫選手ですが、トラック競技での世界選手権出場は、次(2023大会)で3回目なんですね。

2017年から活動してますが、BMXに専念していた時期を挟むので、次で3回目ですね。ワールドカップはたくさん出場しているのですが、トラックは意外に少ないです。

Q:とはいえ、会場の雰囲気に戸惑うということもなく?

そうですね。会場やレースの雰囲気にどうこうなることはほぼありません。

Q:新田祐大選手、深谷知広選手とのチームで目指した東京オリンピック。そして今度は新世代を迎えて活動しています。ここまで過ごして、新しいチームをどう感じていますか?

正直ネーションズカップの1戦目では、あそこまでいけると思っていなかったです。昨年(2022)の世界選手権は失格になって順位がつきませんでしたが、あの時の非公式記録は43秒0。それを踏まえると「今シーズン中に日本記録の更新はできるだろう」とは思っていました。

でもそれが1戦目で出るとは思ってなかったし、自分自身のベストタイムも更新できた。「勢いづいたのかな」と感じました。

チームスプリント 長迫・太田・小原が4年ぶりに日本記録を更新 女子は9位/2023 UCIネーションズカップ第1戦(ジャカルタ)

世界選手権からの新ルール、どう影響する?

長迫吉拓, 太田海也, 小原佑太, 男子チームスプリント予選, MEN'S TEAM Sprint Qualifying 2023トラックネーションズカップ ジャカルタ, 2023 TRACK NATIONS CUP Jakarta, Indonesia

Q:今の日本記録である42秒後半というのは、世界の中でどのようなポジションだと捉えていますか?

ネーションズカップ第1戦で3位だったフランスは42秒5くらい出していす。だからそれより早いタイムでなければメダルは厳しいですね。

でも一方で、今度の世界選手権から細かいルールが変更になるんです。1走が失敗しても再スタートできないし、2・3走のフライングも一発退場になる。そうなると、どの国もちょっとおっかなびっくりになる。だから「今から一気にタイムが上がる」ってこともないと思うんです。それはもちろん日本も一緒ですが。

次の世界選手権では、今までと違う緊張感があると思います。

Q:それは緊張感がヤバそうです……

でも、それに合わせた準備をしてきています。

これまではスタート地点から3つくらいパッドが置いてあったんですが、それがなくなるんです。だから少しだけバンクの内側を使えるようになります。

長迫吉拓, 太田海也, 小原佑太, 男子チームスプリント3位決定戦, MEN'S TEAM Sprint Final for Bronze 2023トラックネーションズカップ ジャカルタ, 2023 TRACK NATIONS CUP Jakarta, Indonesia

写真の右下、JAKARTAと記載されている赤いパッドのこと

そうすれば、1周の最短距離が短くなる。実際タイムも良くなっています。

この話が出たのは僕らがアジア選手権(6月)に行くちょっと前くらいだったのですが、でもこの時、すでに他の地域は従来のルールで大陸選手権をし終えていました。だから「大陸選手権までは旧ルールで、世界選手権から新ルール」ってことになったらしいです。

Q:そうなると、本番では先に走り終えてしまった方がプレッシャーが少なそうですね

たぶんそうだと思いますよ。予選では、日本は残り4番目か5番目くらいのところで走ることになると思うんですが、そこで暫定1位を取っておくと残りのチームにもプレッシャーがかかるし、良いと思います。

3つの「手応え」をひとつに束ねて

長迫吉拓, 太田海也, 小原佑太, 男子チームスプリント予選, MEN'S TEAM Sprint Qualifying 2023トラックネーションズカップ ジャカルタ, 2023 TRACK NATIONS CUP Jakarta, Indonesia

Q:もちろんタイムが出たレースは特別かと思いますが、それはそれとして、今シーズンで一番手応えを感じたレースはどれですか?

今年は3回ほど国際大会を走っていますが、正直全部で手応えを感じています。

ネーションズカップ第1戦は自己ベストを更新。

第2戦は半屋外のバンクというイレギュラー環境でしたが、「勝ち上がる練習」を改めてできたなと思います。タイムとかよりは、「3本を集中して走り切る、集中を切らさない」といったことが実戦でやれたかなと。

そして先日のマレーシアでのアジア選手権。タイムとしては速くはなかったのですが、自分が苦手だった後半のタイムが改善されました。前半が速くなれば、その勢いを使えるので、後半も速くなりやすいんです。でも今回は前半がかなり遅かったのに、後半を上げることができた。これは僕の中で大きなプラスポイントです。

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1つ1つのレースで掴んできたものを、次の世界選手権でひとつにまとめることができたら、良いタイムが期待できると思っています。

Q:目標タイムはどれくらいなんでしょう?

ジェイソン(・ニブレット短距離ヘッドコーチ)と話してるのは17秒3です。欲を言えば17秒2も出したいけれど、17秒3は最低でも出したいですね。

Q:なるほど。でもそれを出しても「1走のタイム」として日本記録に残るわけではないところがちょっと寂しいですね。

確かに(笑)。でも世界的に案外注目されるポイントでもあるので、17秒2台に行けたらやっと「世界のトップスターター」の枠に入れると思うんです。

やっぱりチームスプリントをやってる以上、トップスターターになりたい思いはありますよね。成果として「やり切った」と思えるだろうし。

ゆっくりゆっくり、トラックレーサーになる

長迫吉拓, 太田海也, 小原佑太, グォ・シュアー, GUO Shuai, チョウ・ユー, ZHOU Yu, シュエ・チェンシー, XUE Chenxi, CHN, ムハンマド・ゾニス, MOHD ZONIS Muhammad Fadhil, ムハマド・シャローム, SAHROM Muhammad Ridwan, ウマー・ハスバラ, HASBULLAH Umar, MAS, 男子チームスプリント決勝, MEN'S Team Sprint Final for Gold, 2023アジア選手権トラック, 2023 Asian Track Championships Nilai, Malaysia

Q:見ていて体格が変わったなと思うのですが、自分としてはどうですか?

実は、正直よくわからないです。体重もBMXの時とそんなに変わっていません。東京2020オリンピックの時は80キロちょっとあったんですが、今は80キロないし……たぶん絞れてきたのかなと思います。バキバキではないけど、ゆっくりゆっくりトラック競技の選手になっている感がありますね。

Q:バキバキになる予定なんでしょうか?

それが目標ってわけではないですよ。極端なことを言えば、体重が重くても速ければ良いと思っていますから。でも普段の生活から食事を変えていくだけで、必然的に体が変わっていくんです。今の生活を続けていけばそのうちバキバキになりますよ。

Q:食事は結構気を使ってます?

そんなに厳密にやっている方ではないですが……例えば普段のお米を雑穀米や麦入りにするとか、食事の時は最初に野菜を食べるとか。栄養士さんと相談しながら「そこまで変えるわけじゃないけど、ちょっと変える」をしています。

Q:なるほど。では来年の夏は、ビーチでシックスパックを晒してる長迫選手の写真が撮れるってことですね。

そうですね!

Q:(笑)

チームのお兄さんとして

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