2025シーズンの始まりとなる『アジア選手権トラック』チームスプリントにおいて、太田海也・中野慎詞とのチームで見事金メダル、そして直後の『ネーションズカップ』でも銀メダルを手にした長迫吉拓。
世界選手権、そして4年後のロサンゼルスオリンピックに向けて、個人としてもチームとしても好スタートとなった。
本稿では、アジア選手権の会場で実施されたインタビューを掲載。
あらためて『2024パリオリンピック』を振り返りながら、目指す頂への思いを聞いた。

オリンピックでは、「金メダルを取ります」と言えなかった
Q:もう既に半年以上が経過していますが、改めてパリオリンピックを振り返らせてください。これまでBMX代表としてオリンピックに2度出場しており、パリオリンピックで3度目でしたが、なにか変わったことはありましたか?
BMXとトラックを比べると、トラックの方が「世界との距離が近い」と感じました。さまざまな理由がありますが、単純に、特にチームスプリントに関して言えば、オリンピックに出場した時点ですでに世界8位なんです(出場は8チームのみが可能)。もちろん、勝ち上がることは難しいのですが、まずスタート位置が高いなとは思いました。

BMXは決勝8人のメンバーに勝ち上がるだけでもかなり難しく、その中でメダルを取るというのは宝くじに当たるぐらい難しいと感じます。でもトラックのチームスプリントでオリンピックに出場すると最低8位が決まっているじゃないですか。
オリンピックは8位までが入賞扱いになるので、そういったところを見ても「世界が近い」と感じました。
Q:実際、パリオリンピックのチームスプリントは、メダルへの期待値がすごく高かったです。
自信を持って、メダルを獲りに行くと言えたのは今回が初めてでした。……でも、「金メダルを取ります」とは言えなかったんです。
もしかしたら、自分たち選手よりも、周りのスタッフやコーチたちの方が、金メダルを信じる気持ちが強かったように思います。

今回パリに出場したチームのほとんどは、東京オリンピックでもメダルを獲りにいったメンバーを揃えたチームでした。
その中で僕たちは、本番1年前くらいにようやく「行けるかも」と可能性を見出したチームだった。もちろん、当時は「メダルを狙える」と本気で思っていましたが、振り返ってみれば、自分たちを信じきれていなかったのかもしれません。トップを狙わない限り、メダルは獲れないんだろうなと思いました。

2023ネーションズカップ 第1戦。当時の日本記録を更新する42秒790で4位となった
世界一への道は見えた
Q:「金メダル」とご自身で言い切れなかったのは、どういった要因が大きいのでしょうか?
41秒台〜42秒前半を出さないと、オリンピックでのメダルはないと考えていました。僕たちは42秒7以上のタイムで走ったことがなく、「持ちタイムから約1秒速く走る」という感覚がわかっていなかったと思います。
パリの女子チームスプリントで銀メダルを獲得したのはニュージーランドチームでしたが、大会前の立ち位置や実績は、日本の男子チームスプリントと似ていたと思います。でも、蓋を開けたらすごく強くて、1回戦では世界新記録を出していました(同日のレースでイギリスが更新)。
なぜ、そんなことができたのか。後から聞いたら、オリンピック前の練習で世界記録となるタイムを出し続けていたんだそうです。そのタイムを出したことがあるから、出せることがわかっていたから、自信を持つことできた。
そこが大きな違いだったのかなと思います。その一方で大会前にピークを作ってしまうと、本番まで保たない可能性もある。難しい部分ではありますけどね。

Q:長迫選手個人のタイムで言えば、オリンピックでの最高タイムは17秒07。全体で2番目の記録でしたね。
オリンピックまでのベストが17秒38だったので、オリンピックでは17秒1〜2くらいを出せたらとは思っていました。自分のタイムにビックリしたというのが正直なところです。一方で、「この記録をまた出せるんだろうか」という不安はあります。
Q:最終的な目標タイムは?
16秒台です。世界を見渡しても、公式記録として16秒台を出しているのはイーサン・ミッチェル(ニュージーランド/リオオリンピック)と、レイ・ホフマン(オーストラリア/パリオリンピック)だけだと思います。世界のトップスターターになりたいです。

レイ・ホフマン
チームスプリントでは、スタートゲートが開いてからタイム測定が始まります。パリでは動き出しまでにロスがあったので、実際に自分が動いたところから計測すると僕のオリンピックでのタイムは16秒9だったと聞きました。
オーストラリアの選手はゲートを引きずるような感じで出ているのですが、僕は同じ形で出ると後輪が滑っちゃうんですよね。ただ、世界一への道は見えたと思います。
世界の舞台でも勝つのが当たり前、そしてタイムを狙う
Q:その世界一へ向けた、「新たな4年の始まり」ともいえる2月の『アジア選手権』。レースを終えてみて、いかがでしたか?
どんな大会であれ、優勝するのは気持ち良いなとは思いました。そして何よりも、オランダやオーストラリアといった強豪国は、ネーションズカップやオリンピックでもこういう気持ちでレースをしてるのかなと思いました。勝つのは大前提で、その中でどうやってタイム出すか。そういうところで戦っているんだろうなって。

僕たちも、今回のアジア選手権の感覚のまま、「勝つということが大前提」として世界の舞台で戦っていかなくてはならないと思います。そのためには、もう1つ2つ、ステップを上げていかないとなとは感じました。オリンピックまでに世界選手権で1回は勝つ必要があると思います。
Q:世界選手権よりも難しいオリンピックでメダルを獲るのであれば、世界選手権ではトップを取らないといけない、そういうことですね。
タイム面も含めて本番までに自信を持っておきたい。そのための場所が、オリンピック前の世界選手権やネーションズカップなのかなと思います。

アジア選手権での最高タイムは1回戦の「42秒735」。これは2023年2月のジャカルタ(ネーションズカップ第1戦)で出した、オリンピック前までのベストタイム(1回戦/42秒742)とほぼ同じです。今回はオリンピックの3年前に良いタイムを出したことになるので、次のオリンピックに向けて良いスタートが切れたと思います。
※このインタビューの後、3月のネーションズカップにて42秒007で更に日本記録を更新した
これをベースとして考えて、42秒前半をコンスタントに出し続けることができるようになれば、世界選手権で41秒台というのも見えてくる。ようやく積み重ねが実を結んできたと思います。