年始の沖縄合宿にて、窪木一茂に話を聞いたインタビューの後編。
世界選手権でアルカンシェルを獲得するなど素晴らしい結果を残しながら、「悔しさが上回る」と語った2024年を振り返りながら、「もっと強くなりたい」という思いの根底に迫っていく。
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悔しさが上回る2024年
Q:あらためて、2024年を振り返るとどんな年でしたか?
オリンピックは、メダルを取ることはできなかったのですが勝負をできたという実感はありました。
オムニアムでは消極的なレースが3つ続いてしまいましたが、最後のポイントレースでは最初から暴れることができました。エリミネーションでも、テンポレースでも、もっと“暴君なレース”ができれば良かったです。最初のチームパシュートで他の国がすごいスピードを出していて、オリンピックの凄さを、“化け物”たちの凄さを感じてしまいました。
Q:それが原因で、悪い考え方に陥ってしまったということでしょうか?
あとは、慢心ですね。ネーションズカップでイーサン・ヘイターやトマ・ブダがいるなか銀メダルを獲ることができたことで、オリンピック本番ではトマ(金メダル獲得)のことなんてほとんど意識していなかった。強い選手であることはわかっていたし、自国開催の選手なのに……。
Q:話を伺っていると、“世界選手権でアルカンシェルを得た喜び”よりも、“オリンピックの悔しさ”のほうが大きいように感じます。
力はあったのに出しきれなかった、ということがものすごく悔しかったです。その反省を活かして、世界選手権では積極的なレース運びで良い成績を残すことができましたが、そのことで、よりオリンピックの失敗が際立つような形でした。
Q:たしかに、オリンピックでもオムニアムの後のマディソンは素晴らしいレースでしたが、逆に、ここまでやれるのであれば……ということは観てる側も思うくらいでした。
マディソンも、ラスト11周でニュージーランドと絡まなければメダルのチャンスはありました。あそこで5点とって、そこから今村と10周逃げ切って……そうなっていたら3位はあったはずです。
Q:ニュージーランドとの接触は、よく落車しなかったというくらいでしたね。
あそこでバックを踏んで、そこから必死に追いかけて6位。あと2周あれば前に追いつくことができたと思います。でも、今までで一番良いマディソンでした。
だからこそ掲げる、根本的な能力アップ
Q:今村選手とのコンビネーションにおいても、手応えを感じていた?
はい。ギアも上げて、ハイスピードの展開の中であそこまでやれたというのは、すごく自信になりました。
でも、誰と走っても強くなければいけない、という気持ちです。誰と組んでもサポートできるくらい強くなりたいです。
Q:そこで、今年の目標につながるわけですね。
その通りです。特に今年は練習に時間を使って、根本的な能力アップに時間を割けると思っています。
Q:そのアプローチとして、パワーとスピードを掲げるというのが面白いです。
でも、ベルギーやオランダ、ドイツ、オーストラリアとかの強豪選手たちは、序盤に何度ももがける強さがある。それも、1枚上のスピードで。やっぱりすごいです。ロードレースでのヨーロッパのステージレースも、やっぱり速い。ロードレースの選手がトラックにもっと来たら、エグいと思います。
タイムトライアルが強いことが条件
Q:今年からロードで所属する愛三工業レーシングチームでは、スプリンターとしてエースで走ることになるのでしょうか?
いえ、岡本(隼)選手とか草場(啓吾)選手もスプリントができますし、僕よりも登れると思うので、平坦じゃないレースは彼らの方が前に残る可能性は高いです。僕が全部勝ちたい、と思っているわけではないですね。
Q:そうなると、クリテリウムなどのレースで窪木選手が前に行く形となる?
そうですね。あとは、全日本選手権ロードタイムトライアルとか。今年は、TT(タイムトライアル)を頑張ろうと思っています。トラックにしろ団抜きにしろ、TTが強い選手はなんでも強い。
Q:精神的にも鍛えられそうですよね。
ベースとしてTTで走れる力があるうえで、スプリント力とか平坦力という話になると思っています。タデイ・ポガチャルをはじめ、ロードで強い選手はオールラウンダーではありますが、それはそもそもTTが強いというのが条件。TTが強ければ、誰にアタックされようが削られない。キャパが違うようなイメージです。
Q:キャパが違う。つまり、「最大HPが多い」というようなイメージですよね!
そうですね。ダニエルから今年はアワーレコードに挑戦しようって言われたのですが、キャパを上げるという意味で、それも良い経験になると思います。
そういったチャレンジも含め、アルカンシェルをとったことで、自由に強くなる環境ができたと思います。そのうえで、まずは下地づくりですね。
下半身をもっと鍛えます!
Q:スクラッチのタイトルは、今年も守りたい?
連覇はそこまで意識しているわけではありません。去年も、スクラッチで絶対に出たいと思っていたわけではありませんでした。
あくまで狙うはオリンピック
Q:あくまで狙っているのは、オリンピック種目。
はい。これまで、アジア選手権とか世界選手権では、若い選手に経験を与えた方が良いと思って、少し遠慮している部分もありました。でも、今後は狙っていきたい。しっかりと自分の強さを見せつけて、周りからの同意も得て走ることができたらと思っています。
もちろん、若い選手に経験を与えることも使命であり、そういう立場だとは思いますが、あくまで僕はオリンピックでのメダルを目指しているので。
Q:ターゲットは、4年後。
もちろんメンバーに選ばれない可能性はありますが、一生懸命やりたいです。
Q:若手に経験を積ませたうえで、それを上回る力を見せつける、というのはカッコいいですね。
団抜きも頑張りたいですし、そのためにも若手も育てないといけない。そうやってレベルがどんどん上がっていくなかで、たとえば団抜きでは固定された4人のレギュラーではなく、6人のなかでの4人という形になれば、もっと良いタイムが狙えると思います。