2024年8月10日、パリオリンピックの自転車トラック競技種目の6日目には男子マディソンが開催。日本からは窪木一茂&今村駿介ペアが出場し世界へ挑んだ。日本男子としては初出場となったこの種目、平均速度は60km超えとなったレースで戦い抜いた日本チームは5位という結果を残した。レースは一体どのような展開だったのか。この6位にはどのような意味があるのか。
マディソン
ルールはポイントレースと同様で、10周ごとのスプリント周回で
1着:5ポイント
2着:3ポイント
3着:2ポイント
4着:1ポイント
が与えられ、最終的な合計ポイントが多いチームが勝利となる、というもの。1周追い抜き(ラップ)をすれば+20ポイントも可能。
ポイントレースと異なるのは「2人1チーム」で行う点。交代で走ることで、疲れのないフレッシュな脚で仕掛けていくことが可能となる。交代は相手にタッチすれば良いが、多くの場合は「ハンドスリング」と呼ばれる手を繋いで相手を投げ、スピードを渡すような交代方法を取る。
決勝 アベレージ60km超えの1時間
レースはトラック200周回。10周ごとのポイント周回は計20回となる。出場は15チーム30人。この種目はヨーロッパで人気の種目で日本ではまだまだ馴染みが深くない種目。年間のレース数や始める年齢など、欧州の選手たちが得意とする種目でもある。
イギリス、ドイツ、オランダ、ポルトガル、イタリア、開催国のフランス、東京2020大会優勝のデンマークなどはいずれも強豪国。日本からは窪木一茂と今村駿介が高き世界の壁に挑む形になった。
意外なスタート
レーススタートの号砲と共に全員が駆け出すかと思われたが、オープニングアタックを決めたのはオーストリアチーム。スタートと同時にアタックし、およそ15周回を単独で走破してメイン集団を1周追い抜き(※ラップと記載)することに成功する。いきなりオーストリアが最初のポイント周回とラップすることによる20ポイントを得て、合計25ポイントと大量のリードを得て、長いレースのスタートとなった。
さらに、序盤でニュージーランドとドイツが落車(残り180周)。レースには復帰したがオリンピックの緊張感からか、それとも高速すぎるレースだからなのか、通常ではミスをしないような強豪国に落車が発生する。
イタリア、デンマークがポイントを量産 逃げ切れるか?
ポルトガル、スペイン、イタリアなどがアタックするが、集団から抜け出すには至らずに、高速スピードでポイントを積み重ねていく。日本は集団の前方でレースを展開するものの、ポイント周回毎に良い位置にいられず、50周を経過してもポイントを獲得できずにいた。
一方でレースのスタート時に大量ポイントを獲得したオーストリアは徐々に遅れを見せて、集団に1周、また1周と追い越されていき、-60ポイントが付いたところで途中棄権に。
序盤から中盤のレースにかけて大きな動きをしたのはイタリア。残りはおよそ125周となったところでアタックすると、残り120周と110周のポイント周回で1着5ポイント×2回を得て、更にラップして+20ポイント。合計30ポイントを一気に加算して、暫定トップとしてレースを展開する。イタリアの積極的なアタックの間に、日本は残り120周のポイント周回で2着3ポイントを獲得。
残り108周ではデンマークもアタックし、10周回程度で集団をラップしてイタリアを追い上げていく。
レースは半分ほど(残り95周)が過ぎ、暫定順位は以下の通りとなり後半戦へ。
順位 | 国 | ポイント |
1 | イタリア | 40 |
2 | デンマーク | 32 |
3 | ニュージーランド | 13 |
11 | 日本 | 3 |
いきなり窪木一茂 そしてメダル争いへ
デンマークのラップから一旦展開が落ちつき、残り90周のポイント周回ではドイツが1着となる。その後、集団が固まっていたチャンスを逃さなかったのは日本の窪木一茂。
後方からスルスルと位置を上げていくと、一気にアタックして単独で抜け出すことに成功する。今村と力を合わせて逃げていく日本チームは、残り80周のポイント周回を1着として5ポイントを加算。そして残り77周でメイン集団を捕まえて+20ポイントを獲得。このアタックで合計25ポイントを得て一気に暫定3位までランクアップし、メダル争いへの権利を手にした。
残り60周を切った時点の暫定順位:
順位 | 国 | ポイント |
1 | イタリア | 42 |
2 | デンマーク | 37 |
3 | 日本 | 28 |
4 | ニュージーランド | 20 |
ここからは未知なるカオスの世界
チェコがアタックして抜け出すと、残り45周でラップに成功し、日本を追い抜き暫定3位、そして日本は4位へと後退してしまう。
そしてチェコが集団に追いついたタイミングでニュージーランドがアタックをすると、追いかけた国とそうでない国に分かれてしまう。トラック上から事実上「集団」が消えてしまうようなバラバラな状態で、選手たちは走ることになってしまった(その中でチェコは力尽きていき、結局-20ポイントとなる周回遅れになってしまった)。
日本はラップをしてから苦しい展開で、ポイントを加算できない時間が続く。カナダはマイナスポイントが付きすぎて強制除外されDNF。
イギリス、ベルギー、スペインが落車し、審判団もどこが先頭なのか、どこを集団と位置付けるのか悩むような状態となった。
猛チャージのポルトガル、イタリアは最悪のタイミングで落車
日本は最後の力をふり絞る
そんな中で、残り40周を切ってポルトガルがアタック。そして残り30周のポイント周回を1着で通過し、ラップを成功させて+20ポイントを加算。持ち点を35ポイントとして一気に暫定3位になる。日本は残り30周で3着2ポイントを獲得。この結果、4位をキープする形となった。
終盤に入って底なしの体力を見せるポルトガルが追い上げていくと、最悪のタイミングで暫定トップのイタリアに落車が発生。交代時にバランスを崩したような形だったが、相手に突っ込むような形ではなかったため、すぐに復帰する。
一方で残り20周のポイント周回で1着5ポイントを加算したポルトガルはイタリアに3ポイント差まで迫り、そして日本は再び3着2ポイントを獲得し、逆転を目指してを追い上げていく。
2回のポイント周回を残しての暫定順位:
順位 | 国 | ポイント |
1 | イタリア | 43 |
2 | ポルトガル | 40 |
3 | デンマーク | 38 |
4 | 日本 | 32 |
5 | ニュージーランド | 29 |
まだメダル獲得の可能性がある日本チーム。しかし長時間の高速走行による疲れか、残り10周のポイント周回を前にニュージーランドチームと接触してしまい、スピードが落ちてしまう。
追い上げたいところだが日本はポイントが取れずに、ポルトガル、デンマーク、ニュージーランド、ドイツの順でポイントを得て、残すは最後のポイント周回となってしまった。日本チームにとっては銅メダル獲得の可能性を残すも難しいポイント差、そしてイタリアチームは落車の影響でポイント争いに参加できずに暫定順位を3位にまで落としてしまう。
最後のポイント周回前の暫定順位:
順位 | 国 | ポイント |
1 | ポルトガル | 45 |
2 | デンマーク | 41 |
3 | イタリア | 40 |
4 | 日本 | 32 |
5 | ニュージーランド | 31 |
底なしの体力を見せたポルトガル、イタリアの意地
無念の日本
最後のスプリント勝負に向けて、先頭集団にはポルトガル、イタリア、ドイツ、デンマーク、ニュージーランドと、ドイツ以外の上位陣が揃いレースを進めていく。日本は残り10周のスプリント周回時に遅れてしまい、何とか追いつこうと単独で先頭集団を追っていく。
窪木と今村の最後の努力は届くかと思われたが、残り2周になると先頭集団のペースが一気にアップ。最後の勝負に向けてスプリント合戦が始まってしまった。この加速に日本は付いていけず、メダル獲得を成すことはできなかった。
最後の周回で得られるポイントは通常の2倍。前の集団ではドイツが先行するが、ポルトガルが200周を走ったとは思えないスピードでドイツをかわして1着10ポイントを獲得。ドイツが2着6ポイント、そしてデンマークとイタリアでデッドヒートを繰り広げ、先着したのはイタリアで3着4ポイントを獲得。デンマークは力尽きたが、その後ろからニュージーランドが追い越して4着2ポイントを獲得した。
イタリアはデンマークを逆転して銀メダルを獲得。そしてニュージーランドも最後の2ポイントで日本を追い抜き、合計33ポイントを獲得。1ポイント差で4位。日本はニュージーランドに逆転されてしまい5位という最終結果となった。
しかしレース翌日の8月11日、日本チームがラップダウンされていた旨が発表され、リザルトが変更に。最終獲得ポイントは12、順位は6位となった。
最終リザルト
順位 | 選手名 | 所属 | ポイント | |
1位 | ユリ・レイタオ ルイ・オリベイラ |
LEITAO Iuri OLIVEIRA Rui |
ポルトガル | 55 |
2位 | シモーネ・コンソーニ エリア・ビビアーニ |
CONSONNI Simone VIVIANI Elia |
イタリア | 47 |
3位 | ニクラス・ラースン ミカエル・モルコフ |
LARSEN Niklas MOERKOEV Michael |
デンマーク | 41 |
6位 | 窪木一茂 今村駿介 |
日本 | 12 |