2022年7月28日より伊豆ベロドロームで開幕した『2022ジャパントラックカップ I / II』。
日本から多くのメダリストが出たこの国際大会に、新人編集部員の筆者は、人生で初めてトラック競技のレースを見に行った。
今回は、自転車競技に関してまだ初心者である筆者だからこその視点で、現地でレースを観戦した様子をレポートしていく。
トラック競技に興味があるが、まだレースを見に行ったことがない方、8月末に行われる全日本トラックに行く予定の方など、ぜひ参考にしてみてほしい。
初めてのベロドローム!
三島駅近くから車で約1時間。長い山道を登り、伊豆ベロドロームに到着した。標高333mのところにあるとは聞いていたが、思ったより山道は長かった。クネクネした山道により、着いた時には車酔いでヘロヘロに。次からは酔い止めを持って行こうと心に誓った。
さて、筆者初めてのベロドローム拝見だ。既にレース開始の30分ほど前であったが、ほとんど駐車場は空いていた。開始2時間前から会場が開くのを待っていたという観客もいたようだが、絶対に狙いの席がない限り、ゆっくり来ても大丈夫そう。
伊豆ベロドロームの隣には日本サイクルスポーツセンターがある。サイクリングはもちろん、アトラクションなどもあり、夏休みの子どもたちが遊びに来ていた。
ちなみに、「ここのプールは無料だけど、バブルの出るマシーンもあって、有料級の楽しさだ」と深谷知広選手もお勧めしていた。
会場の扉を開けると、聞こえてくる選手やコーチたちの声。学生時代の部活の試合が思い出されて、なんだかちょっと懐かしく感じた(筆者は自転車とは全く関係ない部活だったが)。
競技場の真ん中(ピットと言う)では、既に選手がレースの準備をしていた。
筆者はメディア席から眺めていたが、観客席からもピットの様子を見ることができる。ローラーでトレーニングする選手、自転車に乗りながら他選手と話をしている選手など、日頃はなかなか見ることの出来ない貴重な様子を見られる。
レース前は選手同士ピリピリしているのかと思いきや、他国の選手とにこやかに挨拶を交わしたり、リラックスしている人が多いように見えた。
シレッと始まる試合
その日のレーススケジュールは、女子スプリント予選から始まり、男子オムニアムや男子ケイリン、女子マディソンが行われる予定だった。
レースが始まるまで時間があったので、タイムスケジュールを確認しながら、円形のトラックをみつめていた。予想していたよりも、随分と斜面が急だ。
気づいたら何人かの選手がトラックを走っていた。急な斜面をものすごいスピードでかけていく選手たち。下から見ると、選手が急な斜面にピッタリと沿って走っているようで、垂直の崖を散歩するヤギに見えなくもない。
なんて呑気に考えていたら、アナウンスから「〜選手・・秒!」と威勢よく聞こえてきた。
あれ、これ始まってるな!?
この日最初の種目、スプリントの予選が始まっていたのだ。スポーツ観戦アルアルかもしれないが、試合というものはシレッと始まる。なんとなく「さぁ、始まるよ!」みたいなアナウンスでもあるのかと思っていたのだが、そんなものはない。
レース開始時間近くは、気を抜いてはいけないのだ。
垣間見える選手とコーチの関係
筆者はトラック競技観戦は初心者ということもあり、どの種目のルールもほとんど分からなかったため、こちらのリンク集を見ながら観戦した。
スプリント・ケイリン・オムニアム・マディソンのルールを簡単に紹介!/『2022ジャパントラックカップ』7月28日〜31日
前々から競技のルールは予習していたが、やはり実際にレースを見ながらだと理解度が全然違う。
トラックの斜面が急だという話はしたが、自転車に乗った選手をスタートラインまで運ぶのは、主にコーチの役割のようだ。スプリント予選では、プッシュと言い、スタートの発送時に選手を押し出すこともする。
コーチも体力がいるのだろう。よくよく見ると、コーチのふくらはぎも筋肉がすごい。
スタート合図の直前まで、コーチは選手に何かアドバイスしてるのか、それともただ静かに見守ってるのか…。
上の写真を見てもらえば分かる通り、観客席最前列からだと、スタート前の選手との距離がかなり近い。そのため、コーチと選手、2人の様子を間近で観察することができる。
静かに何かを語りかけるコーチと、まっすぐにこれから走るレーンを見つめ、その言葉を聞いている選手。日々辛い訓練を乗り越えている2人の、強い信頼関係を覗ける貴重な瞬間だ。
レース前の緊張感も相まり、その様子に思わず引き込まれてしまった。
親しみやすいケイリン、駆け引きが魅力のスプリント
ケイリンは、1レース6〜7人程で戦う。ケイリンのルールは比較的簡単で、理解がしやすい。
着順で順位が決まるので、シンプルに速さを競う感じがして、1番気軽に楽しめた。
本当はどのタイミングで前に出ると良いとか、風よけがどうといった駆け引きがあるみたいなのだが、そういう頭の体操を抜きにしても全然楽しめる。
一方で、スプリントは単純な”早さ勝負”という訳ではないようだ。
スプリントは準々決勝以上になると、1対1のレースとなる。正直、トラック競技初観戦の筆者が1番引き込まれたのは、スプリントの1対1レースだ。やはり花形というだけあって面白い。
スタート合図直後。先着したもの勝ちなのだから、すぐに走り出すのかと思いきや、なかなか動かない両選手。
ジリジリと見合って、何か駆け引きをしている。
2人で見合って徐々に間を詰める様子は、まるで何かの決闘が始まったようだ。まさに、嵐の前の静けさという感じがして緊迫感がある。
そして、どちらかが仕掛けると、堰を切ったように両者が走り出す。
スプリントでは、同じラインからのスタートではなく、2人の選手が前後になってスタートする。前の選手の方が有利なのでは?と思うが、そうではないようだ。
それは開始直後から選手が爆走しないことからも分かる。お互い1番良い位置取りや、トラック3周分を走る体力などを考えながら駆け引きして走っているのだろう。
途中、大きく旋回する選手もいて、不利になるのでは?と思う場面もあったが、そこから猛スピードで降りてきて勝ったりしちゃうから、最後まで結果が分からない。
序盤で相手選手より前に出て差をつけても、後で追い抜かれたり、内側に入られて良い位置を取られてしまったり、単純にスピード勝負だけではない駆け引き戦に最後までハラハラさせられた。
オムニアムとマディソン
オムニアムとマディソンの周回の多さを知った時は、正直面食らった。
ゴール付近にある、残り周回数を表示する電子盤に「100」と数字が見えた時には、どんだけ時間かかるんだっ!と驚愕したが、実際にはそうでもなかった。
オムニアムは、4種目の合計得点を競う競技だが、中には加点のルールが初心者には分かりにくいものがある。
そんな中でも、エリミネーションは割と分かりやすく、個人的には1番楽しめた。
最下位からどんどんアウトしていくというルールは、レースを見ていても明快で分かりやすく、後ろを走る選手を思わず応援してしまった。
一方マディソンは、2人1組で交代して走る。
どこで交代するかは明確には決まっていないのだろうか。交代時には声を掛け合い、他の選手の合間を縫って2人の選手が合流しているようだった。
交代の時にチームの選手と手を繋ぎ、力一杯に送り出す。そうやってチームメイトを送り出す姿には、何か心動かされるものがあった。
しかし、選手と手を取るときは、あの急斜面で片手操縦してるのだから、選手たちの体幹はえげつない!
現地でのレース観戦はやはり胸熱だ!
今回初めて現地で競技を観戦して、自転車に関してほぼ知らなかった筆者も、ちゃんとハマって来てしまった。
何より、猛スピードで目の前を駆け抜ける選手は純粋にカッコよく見えた。
会場のど真ん中にピットがあるため、待機中やレース直後の選手をずっと見ていられるというのも、現地だからこそできる貴重な体験だろう。
レース直前に精神を集中している様子、負けた後の悔しさを抑えている様子。選手たちのいろんな顔を見ることができる。
また、レース中に落車する選手がいたりと、アクシデントも多い。そんな時は正直痛々しくて、思わず目を瞑ってしまう。
だが、その緊迫感やレース中の激しい競り合いからは、選手たちが心身を削って戦っていることがひしひしと感じられ、思わず胸が熱くなった。
8月26日からは、このジャパンカップが行われた伊豆ベロドロームにて「全日本トラック競技大会」が開催される。
この夏、胸熱体験をしたい方はぜひぜひ足を運んでみてほしい。