「どうしよう」と思いながら走った
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Q:そうそうたる面々の中でメダルを獲得したということで、やはり喜びもひとしおかと思います。
嬉しかったっですね。これまでやってきたことが報われたというか……じわじわと喜びが来ました。
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でもラスト20周は「どうしようどうしよう」と思いながら走っていました。「今2位だけど、1位もあるぞ」という部分と「でも下にイタリアとか強いチームがいて、覆される可能性は全然ある」と現実と。
攻めようとは思っていましたが、状況整理ができていませんでした。
あのクラスの大会で上位にいることなんて経験がないじゃないですか。だから、最後は体と頭がバラバラだった感じがします。
Q:走る前の目標はどんなところだったんでしょう?
具体的な順位の目標は、ありませんでした。ただ今村(駿介)とペアを組むと決まった時から、以前このペアで出た時は9位・10位あたりだったので「一桁の結果は残したいね」という話はしていました。
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今村駿介
Q:2回ラップ(1周追い抜き)しましたけど、2回目はもう勝つつもりで行きましたか?
元々、「行けたら行こうか」という感じでした。クレイグ(・グリフィン)コーチからも「仕掛けるのは100周過ぎてからが良い」と助言をもらっていたので、それに従って動いた部分もあります。100周過ぎたところからプッシュし始めたのが、そのままレースに出た形ですね。
「前で走る」から見えたもの
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Q:あのレベル、あの人数でレースを積極的に展開することは多分初めてだったと思いますが、景色は違って見えましたか?
はい、初体験でした。でも途中で逃げてる時は、伊豆での練習風景が見えていました。
僕たちのやってきた練習が場面場面で出ていて、2位に躍り出た時には会場も盛り上がっていました。僕たちは勢いに乗っていたし、後半のスプリントは点数も取れていて、走っていて楽しかったです。
Q:前で走っていると怖さとかもない?というのも、後ろだと渋滞しているから落車のリスクも高いわけですし。
前を走るって責任重大なことなんです。他の国からの「コケんなよ」「変な走りすんなよ」みたいな目があります。そういう部分で緊張はしていました。またどこかの国がアタックを仕掛けた時、一番前で走る人がそれに反応しなければいけない雰囲気があります。
Q:一番反応しやすい位置なんだから、ということですね。
はい。でも前で長く走らせてくれたりすると、集団から容認されている、認められているようでちょっと気持ち良さが出ますね。
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スタートして80周くらいまではずっと後ろにいました。集団の一番後ろかもしれないくらいの位置にいながら「ここから何個か前だと楽だよなあ」と思いながら走っていました。
Q:レース後のインタビューで「前半は後ろで脚を溜められたので」とお話ししていました。後ろって実はキツいと認識していたんですが、どうなんでしょう?
ドイツのような強いチームが僕たちと同じくらいの場所にいたんです。ドイツチームに従って動いていたので、脚は消耗せずに済みました。
また僕たちの体力が上がっている、というのもあります。だから後ろでも休むことが出来たのだと思います。
レースも終盤に差し掛かり……
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Q:そして最終的な順位は2位。途中では2回ラップしてトップに並んだわけですが、そのあたりから逐一ポイント差を認識しながら走っていたんでしょうか?
逐一認識……していましたね。下からの追い上げも怖かったから、そっちの方を気にしていました。今村とは交代時に「欲張らないように」と声掛けをしていました。欲張って最後に逆転されたら意味がないので、冷静に冷静に、と。
Q:ラストに近づくにつれプレッシャーもかかってきますよね。
ドキドキしていました。フランスとの僅差で……本当にフランスは強いし、イタリアも3位にいるし、他の国だって強いし。
Q:レース後にライバルたちと話はしましたか?
はい、表彰の時にイタリアやフランスと話しました。二言三言でしたけど「強かった」って言ってくれましたね。
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他のメンバーの多くがロードレース上がりでトラックの経験が少ないとしても、彼らのレベルはとても高いものでした。その彼らとやり合えました。加えてマディソンで後半にラップするのはお決まりの展開です。でも他のチームは体力が残っていなかったのか、そこまで攻めてなかった中で、僕らは積極的に動けていた。そこは嬉しいポイントです。嬉しいと同時に、不思議な感覚ですね。