いつ着用できる?

それぞれの世界選手権で優勝した全選手には、アルカンシェルが授与される。チーム種目の場合は優勝したチームの選手全員に授与される。
では授与されたアルカンシェルは、どんなレースでも着用することができるのだろうか。答えはNOだ。
アルカンシェルの着用には、いくつか条件が存在する。
条件その1:「世界一」になった種目・カテゴリーのみ
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アルカンシェルで出場する梶原悠未/女子オムニアム, 2020全日本トラック
獲得したアルカンシェルは、獲得した(世界一になった)種目・カテゴリーでのみ着用することができる。
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梶原悠未/女子エリミネーション, 2020全日本トラック
例えば、世界選手権の「トラック競技 ケイリン・女子ジュニアカテゴリー」にて優勝し、その際に獲得したアルカンシェルは、全く同じ種目・カテゴリーのレースに出場した時のみ、着用することができる。同じ選手がロードなどの異なる競技のレースに出場した際はもちろん、「スプリント・女子ジュニアカテゴリー」などのトラック競技の異なる種目に出場した場合や、同じケイリン種目でも女子U23や女子エリートなど、別カテゴリーのレースに出場した際は着用できない。
そしてこれは権利ではなく義務。アルカンシェルを獲得した種目のレースで着用していない場合は、罰則が与えられる。従って同じ大会で、アルカンシェルを保持している種目とそうでない種目の複数種目に出場する場合は、その都度着替えなければならないのだ。
参考:UCI CYCLING REGULATIONS(1.3.063)
PART 1 GENERAL ORGANISATION OF CYCLING AS A SPORT(Rider not wearing)
条件その2:次の世界選手権までの1年間のみ
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また、同じ競技・種目・カテゴリーのレースであれば永遠に着用することができる、というわけではない。
着用期間にも期限がある。
1度獲得したアルカンシェルを着用できるのは、次回の世界選手権まで。ほとんどの場合、それぞれの世界選手権は毎年開催される。よって1度獲得したアルカンシェルをレースで着用できるのは約1年間のみとなる。
条件1と2を考慮すると、同じレースにアルカンシェルを着用した選手が2人以上出走することは、あり得ない、ということだ。
参考:UCI CYCLING REGULATIONS(1.3.063)
条件その3:世界選手権・大陸選手権・オリンピックでは着用不可
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さらに、1度獲得したアルカンシェルは、次回の世界選手権までの約1年間であればどんな大会でも着用できる、というわけではない。
どの競技においても、世界選手権と大陸選手権では、全ての選手にナショナルチームジャージの着用が義務付けられている。さらにUCIが直轄としないオリンピックでは、各国のオリンピック選手団としてのジャージが着用義務となっている。
参考:UCI CYCLING REGULATIONS(1.3.059)
この3つの大会は、各選手がこれまでに得たチャンピオンの称号を一度置いて、他でもない「一国の代表」として挑む舞台となっているのだ。(所属チーム / クラブのジャージも着用不可)
残り続ける「世界一」の証
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1度獲得したアルカンシェルを着用できる、言わば”チャンピオン期間”は、次回の世界選手権が開催されるまでの約1年間のみ、と上記でご紹介した。
もちろん、同じ種目・カテゴリーにて連覇を達成すれば、(新しいアルカンシェルが授与され)もう1年間の着用が認められる。
しかし、連覇が叶わなかったとしても、「世界一」の証がジャージから消えてしまうことはない。
参考:UCI CYCLING REGULATIONS(1.3.064)
↓マティエス・ブフリ(29歳・オランダ)が2021年に着用していたジャージ。
「トラック世界選手権」優勝3回:2018年チームスプリント、2019年ケイリン、2020年チームスプリント
一度アルカンシェルを獲得すると、”チャンピオン期間”が終了しても同種目・カテゴリーのレースであれば、自身のジャージの袖・襟などに5色のボーダー柄をデザインできるのだ。
しかしこちらは義務ではなくあくまで権利。”現役チャンピオン”がアルカンシェルの着用を義務付けられているのに対して、”歴代チャンピオン”は5色線を襟や袖にデザインしなくても、罰則を受けることはない。
そして、この歴代チャンピオンを表す5色線は、チーム / クラブジャージのみにデザインできるもの。ナショナルチームジャージへのデザインは禁止されている。
↓ペテル・サガン(スロバキア)が2022年シーズンのロードレースで着用するジャージ。
ロード優勝3回:2015年ロードレース、2016年ロードレース、2017年ロードレース
体全体に大きく5色線が入ったジャージを着用しているのが”現役チャンピオン”。ジャージの細かい所に5色線が入ったジャージを着用しているのが”歴代チャンピオン”たち、という見分け方ができる。
ぜひ探してみてほしい。
参照:UCI Regulations Part 1 P.78 「World Champion’s Jersey」