世界的企業との提携

2/3 Page

結果を残すも“試行錯誤”の毎日

2018年1月からプロトタイプの使用が早速スタートした。同時期に選手の強化を統括するHPCJCも立ち上がり、日本チームの歩みは急加速を見せていく。

2018年3月の世界選手権。河端朋之が男子ケイリンで銀メダルを獲得、次ぐ2019年には新田祐大、2020年には脇本雄太と3年連続同種目で世界選手権の銀メダルを得る。そして2020年の世界選手権では梶原悠未がオムニアムで史上初の金メダルを獲得した。

Final / Men's Keirin / 2020 Track Cycling World Championships, 脇本雄太 Wakimoto Yuta, ブノワ・ベトゥBenoit Vetu

2020年世界選手権 脇本雄太選手が男子ケイリンで銀メダルを獲得

ジェイソン・ニブレットコーチは語る。

「まず我々にとって幸運だったのは、機材開発に携わってくれた企業の方々がとても前向きでいてくれたこと。自転車をパッケージで提供してくれたブリヂストン、ヘルメットを開発してくれたKabutoなどが時間、労力、そして資金を投入し、本気になってくれました。それが我々のステップアップの大きなパートを占めています。

そしてHPCJCが培った専門性と企業とのコラボレーションによって、チームJAPANの機材はより良い物へと変わっていきました」

2018年のプロトタイプ以降も、自転車開発の細部を詰める作業が続いていた。妥協を許さないHPCJCのコーチ陣とサイエンスチームからの意見、その意見を受け止めていたブリヂストンサイクルの開発担当者は当時を振り返る。

「コーチ陣からの製品性能に対する要求事項を理解し、その根拠を把握するために、ディスカッションを重ねる必要がありました。

また急ぎの要求や変更オーダーに対し、タイトな納期設定で仕上げなければならないケースもあり、多くのパワーを使いましたが、我々の技術力とキャパシティーがあったからこそ対応できたと自負しています」

ブリヂストンで試作品を作っては、HPCJCでテストを実施。コーチ陣はテスト走行した感触などの感想を、そしてサイエンスチームは詳細に渡るデータを得ては、ブリヂストンにフィードバックする。気の遠くなるような作業は何度も何度も続いた。困難を極めたのは、自転車のバランスだという。

「難しかったのは、走行性能に関わる部分の指標の整合性、バランスを取ることです。

我々に求められた競技用自転車の“速さ”というのは、漕いだ力をロスなく進む力に変えることになります。この速さを生みだす要件に『剛性』や『空力』、『重量』といったものがありますが、これらは総じてトレードオフの関係。剛性を求め過ぎるとその分空力性能が悪くなったり重くなったり、空力を求めて形状を薄くし過ぎれば剛性が足りなくなったりします。

また、短距離や中距離といった競技の特性によっても求められるバランスは変わるので、そこの整合性を取る部分が難しい作業でした。100 分の 1 秒、1000 分の 1 秒を争う自転車競技において、より速く進むバイク開発の限界に挑戦しました」

そうして作られた東京2020オリンピック用の自転車、その完成度は『100%』だと開発担当者は答えた。

日本人向けの“夢”の1台

2/3 Page