2024年12月15日、『大磯クリテリウム2024-25 第3戦』が開催され、日本トラック競技ナショナルチームメンバーの佐藤水菜が出場した。
“異例”とも言える佐藤の出場をレポートすべく、編集部も現地に向かった
「海・山・空」絶景の下で走るクリテリウム
2013年に初開催された『大磯クリテリウム』。冬場に複数戦(2024-25シーズンは6戦)が実施されるアマチュアレースだ。
舞台は、大磯プリンスホテル敷地内にある大磯ロングビーチ 駐車場特設コース(1周約1km)。 湘南の海を目の前に望み、相模湾を囲う山々、そして一面に開けた空。
そんな気持ちの良い場所で開催されることもあり、選手だけでなく多くの観客も集まる人気レースとなっている。
世界チャンピオン 佐藤水菜が参戦
今回の『大磯クリテリウム』には超大物ライダーが参戦。『2024世界選手権トラック』にて日本史上初の女子ケイリンでアルカンシェルを獲得した佐藤水菜だ。「完全個人出場」としてエントリーしていたのだ。
試走にいきなり現れた本人に、早速話しを聞いてみた。
本人コメント(レース前)
「今日は計2時間のロードトレーニングが課されているんです。
せっかくトレーニングするなら楽しくやりたいと思って笑。今試走で15分走ったので、残り1時間45分です。超久々のロードのレースなので、ヘアピンコーナーが怖いですが、安全に楽しんできます!」
そうしてトレーニング中の世界チャンピオンは、招集エリアへと向かった。
1着フィニッシュ、しかし……
ついにレース直前。ライダーズミーティングを終えた佐藤の元へ行くと、その隣には世界選手権・ケイリンで共に決勝を戦った梅川風子が応援に駆けつけていた。
「ケイリン世界チャンピオン!」の紹介でスタートラインに登場した佐藤。コース傍にも多くの観客が集まり、レースがスタート。12周約12kmの戦いが幕を開けた。
笑顔を浮かべながらも様子を伺いつつ安全にレースを運ぶ序盤から、中盤では先頭で15人ほどの集団を引く周回も見せる佐藤。
他選手がアタックを仕掛ける場面が増え、徐々にスピードが増していく。
佐藤もコーナーの立ち上がりでは立ち漕ぎで加速していき、最終周回に先頭で突入。
そしてチェッカーフラッグの待つフィニッシュラインへ1番乗りで帰ってきたのはやはり佐藤。1着でフィニッシュし、ガッズポーズで声援に応えた。
「勝負には勝ったが、試合には…」まさかの失格
フィニッシュラインを真っ先に通過し戻ってきた佐藤の顔には、出場者と一緒に満面の笑み…と思いきや、1人になると何とも言えない表情を浮かべる佐藤。
「失格かも…」世界チャンピオンはそう呟いた。
というのも『大磯クリテリウム』には、
「競技者は、ゴール時およびゴール後安全に停車するまで片手・両手放しをしてはならない。違反者は失格とする」
というルールがあるのだ。
勝利のガッズポーズを決めていた佐藤は、この競技規則の審議対象となっていたのだ。そして発表された審議結果。悔しくも佐藤は失格となってしまい、「大磯制覇」の夢はお預けとなってしまった。
「ポガチャルにはなれなかった…」
レース後、本人にインタビューを試みた。
Q:残念ながら失格となってしまいました…
(タディ・)ポガチャルが(ガッズポーズ)やってたから、やりたかったんですよ!
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本当はゴールでポガチャルとかレムコ(・エヴェネプール)みたいに、自転車置いてポーズとかしたかったんですけど、それは流石にできないのでガッズポーズしたら「手挙げちゃダメ!」って言われてしまい…、慌てて下げたんですが、アウトでした。
ちゃんとライダーズミーティングには出席して、説明を全部聞いたんですがガッズポーズのことは言われず。でもルールブックにちゃんと書いてありました…
もし知らなかったという方は、気をつけてください…
ポガチャルにはなれませんでした…
でも会場がとても盛り上がっていたので、パフォーマンスしたくなるじゃないですか笑
Q:確かにとても盛り上がっていました。
クリテ、特に大磯クリテリウムは声援が近くて!
あと大磯クリテにはMCがいるんです。だから結構盛り上がって、走ってる方も楽しいんですよ。だからパフォーマンスしちゃうし…
MCが悪いってことですかね?笑
エイヤ・ハシモトを連れてきたら大変なことになる
Q:大磯クリテリウムは初めて?
2017年の初旬に出たのが最後で、それまでにも何度か出場していました。
(日本競輪選手)養成所に入る前ですね。同世代の友人が出ていたこともあって出場していました。今日も高校生の選手が出場していましたが、あんな感じでしたね。
実は競輪選手になる前に参加していた頃も、MCは今日と同じ方だったんです。いつも盛り上げてくれるんですよ。エンターテイナーとしてはやっぱり盛り上がりに応えたいじゃないですか笑
だからエイヤ・ハシモトを連れてきたら、大変なことになると思いますよ笑
Q:そもそも今回はどんな経緯でエントリーを?
パリ五輪後、色々な種目に挑戦したくて、『全日本トラック(2024)』では中長距離に挑戦しましたが、ロードにも出てみたくて。
Q:レースを振り返っていかがですか?
トラック競技・競輪選手として直線ばかり走っているので、ヘアピンカーブのコーナーが本当に怖かったですね。
ただ注目もしていただいたので、先頭も引きたいという気持ちもあり、冷静に頑張りました。先頭に出ることで、安全にコーナーを回れるというメリットもありますし。
先頭ではない時は、焦らず車間を開けて走りました。12周のレースでしたが、最初の3周で慣れも出てきたので、安全に楽しく走れました。
Q:トラック中長距離への挑戦後、トレーニングなどに変化はありますか?
ロードに乗る時間は増えました。来年2月の『2025ネーションズカップ第1戦』まで少し変則的な練習もしています。体力を付けて、来年は『ツール・ド・フランス・ファム』……、観ます!笑
「自転車競技の総人口が増えれば」
Q:ベロドロームや競輪場、普段とは違う場所でのレースでした。
トラックや競輪をあまり知らない方にも、声を掛けていただいて嬉しかったです。7年ぶりぐらいの大磯クリテでしたが、大会のレベルが上がっていること、自転車業界が盛り上がっていることを実感できた日でした。
ロードがさらに盛り上がって自転車競技の総人口が増えれば、おのずとトラックや競輪もさらに盛り上がり、日本のレベルも上がっていくと思います。
「女子スポーツクラス」に15人もエントリーされていて、盛り上がりを感じましたね。今後も日本の自転車競技がもっと発展していってほしいです
そう語り、駐車場に設置したローラーで1人、残り1時間のロードトレーニングに取り組む世界チャンピオンであった。
参加者インタビュー
イベント終了後、佐藤水菜と同じ「女子スポーツ」クラスに出場し、3位入賞を果たした廣瀬博子選手にも話しを伺った。
Q:3位おめでとうござます。
ありがとうございます。
Q:佐藤水菜選手が出場することはご存知でしたか?
直前にスタートリストを見て、そこで知りました!
私もマスターズカテゴリーでトラック競技をやっているので、「世界チャンピオンと一緒に走れるなんて」とワクワクしていました。
2024全日本自転車競技選手権大会トラックレース マスターズ
2km個人パーシュート 女子A
表彰式
1位 廣瀬博子(湾岸サイクリングユナイテッド)
2位 市村愛(ARAKAWA Pista stile) pic.twitter.com/aA225EvOAJ— JCF_event (@JCF_event) July 16, 2024
ワクワクしつつ、付いていけるのか不安でした。もちろん安全な走行を心掛けて走られるとは思っていましたが、とりあえず佐藤選手の後で出来るところまで走ってみました。
Q:実際に走ってみていかがでしたか?
全く本気では走っていないとは思うんですが、後を走ってみて安定感が全然違いました。
Q:レース後、何かにサインを貰っていましたね。
実は1年前に伊豆ベロドロームで行われていたトラックサイクリングキャンプに参加した時に、お土産として貰った競輪カレンダーなんです。
エントリーリストで佐藤選手の名前を見た時に、そのカレンダーを思い出して持って来ました!サインをいただけて良かったです!
元々ロードをやっていて、トラック競技は2年ほど前から始めました。
異なる競技ですが、「疾走感を味わえる」という同じ魅力があると思います。車では感じられない、自分で漕いで直接肌で感じられるスピード感がとても気持ち良いです。
大人になっても、色々なクラスやカテゴリーがあるので、自分に合ったレベルで挑戦して楽しめるのも気に入っています。
「エリート」に三浦一真も出場
なお大会最終種目には「エリート」クラスが実施され、ジュニア日本トラック競技ナショナルチームメンバーの三浦一真も出場していた。
次のページでレポートしていく。