2018年・総絞りのブルーの振袖
では2018年の前夜祭の写真を見てみよう。この年は4番車なのでそれに合わせた青・・・と思いきや、振袖を決めてしまった後に車番が発表されたとのことだった。
この振袖には「絞り」と呼ばれる染めの技法が使われている。
布の一部をつまみ、糸で硬く縛り、その状態で染め液につけることで、糸で縛ったところは白い元の色が残る。この着物では、その絞りが着物全体に施されているのだが・・・作業を想像してみてほしい。とっても細かくて、とっても時間がかかる!だからこのような「総絞り」の着物は、割と値が張る部類に入る。
でも実はこのような総絞りの着物には「値段は高いけど、格は高くない」という着物界トラップが発生する。お稽古事の発表会で絞りの着物を着ると、先生から「格がそぐわない」怒られてしまうこともあるそう。
「糸で縛ることで染め柄を作る」というのは比較的古い時代から行われていた技法で、それゆえ貴族階級ではない人々にも、古くから愛された技法だった。「貴族階級向けじゃない=高級じゃない」という意識が根っこにあり、現代まで「値段は高いけど格は高くない」という着物界トラップが生じている。
とはいえ振袖である時点で「正装」という部分は完全クリア。総絞りであろうと、格の面での問題はないだろう。
加えて言うと、帯締めや帯揚げに飾り結びを施さず、帯に扇子を挟んでいるあたりにも粋さを感じて、筆者は非常に好きである。
帯締め:帯の真ん中に締められている紐。帯留めと呼ばれる飾りをつけたり飾り結びをして華やかにすることもあるが、この年の石井貴子選手はシンプルな基本の結びをしている。
帯揚げ:帯の上部にちらりと見えている布。帯枕(帯の結びを補佐するもの)を包んで隠すと同時に、華やかさを加える役割も持つ。若い人ほど外から見えるようにし、大人の人ほど多く見えないようにするのが一般的。
2019年・シックさと賑やかさの共存
2019年は黒をベースとした振袖。主に帯より下に模様が集中しているが、振袖と同じく女性の正装である「黒留袖」を彷彿とさせる。
黒留袖・・・結婚式などで新郎新婦の親族がよく着るもので、既婚女性の着物としては最高格のもの。基本色が黒で、裾近くに絵羽柄(着物を広げた時に全体で1つの絵になっているもの、絵がずれないように縫い合わせるため技術が必要)が施される。
図案も松、竹、梅などの縁起のいいもので埋め尽くされており、留袖風からくるシックさ・大人っぽさと、華やかさ・縁起物の賑やかさが上手に共存している。
またこの年は伊達襟、帯揚げ、帯締め、しごきに赤が使われており、そのピリリとした色使いが全体を引き締め、良い効果をもたらしている。
伊達襟:重ね襟とも。この年の石井貴子選手でいえば、襟の合わせ目に沿って見えている赤い布のこと。15cm×1mくらいの布をうまく襟に添わせてちらりと見せる。十二単のように重ね着をした襟元を再現するもので、カジュアル着ではあまり使われない。
しごき:帯の下の方に結ばれている赤い布(梅川風子選手(右端)の写真の方がわかりやすい)。昔の女性が屋敷の中ではお引きずりの状態で着物を着ていたものを、外に出るときだけ裾を上げて布で縛った、その名残。現代では花嫁衣装や小さい子(七五三など)くらいにしか使われない。