競輪界最大のビッグレース、『KEIRINグランプリ2025』。
年末の風物詩として知られるこの一戦を前に、今年は近畿勢の動向が大きな注目を集めていた。
発端は、『寬仁親王牌』でのアクシデントによって、脇本雄太が大きな怪我を負ったことにあった。
その出来事を経て迎えるグランプリという大舞台で、「近畿4車の2番手」という責任の重いポジションを、誰が、どのように引き受けるのか。
通常であれば、事前に出走メンバーが確定するグランプリでは、各地区のライン構想も早い段階で見えてくる。
しかし今回、近畿勢の並びは直前まで明かされなかった。
12月28日に行われた共同会見。その場で示された並びは、
寺崎浩平―脇本雄太―古性優作―南修二
である。
「話し合い」の末に選ばれたその形が、何を意味するのか。
グランプリという舞台で「2番手」を引き受けるという選択に至った脇本雄太と、近畿ラインの覚悟に迫っていく。
近畿地区が中心にいた、2025年の競輪界
思い返せば、2025年の競輪界の中心は「近畿地区」であったといえるだろう。
それは、脇本雄太がG1を2勝(『全日本選抜競輪』『高松宮記念杯競輪』)、寺崎浩平がG1初優勝(『オールスター競輪』)、古性優作と南修二がそれぞれG2を1勝ずつ挙げ、『KEIRINグランプリ2025』に4車が出場する、という事実からも明らかである。
そして、それは単にビッグレースを席巻したというだけでなく、「近畿の競輪」が常に問われ続けた1年でもあった。
近畿の競輪と、ラインの重み
特に印象的だったのは、『オールスター競輪』と『共同通信社杯』。
『オールスター競輪』では、これまで近畿ラインの先頭を駆けてきた寺崎浩平が2番手を務め、悲願のG1初優勝を遂げた。
そして『共同通信社杯』では、決勝に近畿勢が5車進出。別線での戦いも予想される中、結果的には5車が結束して、南修二がビッグレース初制覇。5車結束に関して、古性優作が「これが近畿の厳しい競輪。正解は分からないですし、難しい判断でした」と語っていたように、さまざまな想いが去来していたことは想像に難くない。
『KEIRINグランプリ2025』に向けて平塚競輪のYouTubeで公開された出場選手のインタビュー動画では、グランプリへの想いを表す漢字をそれぞれが語るシーンがあったが、寺崎浩平は「絆」、古性優作は「仲間」という言葉を掲げていたことも、近畿ラインの競輪と、その重みを物語っている。
脇本雄太が掲げた、覚悟という言葉
そのインタビュー動画で、脇本雄太が掲げた言葉は“覚悟”だった。
この動画が収録されたのは、おそらく『寬仁親王牌』前だと思われるが、その中で以下のような言葉を残している。
「グランプリは、特別という枠を超えている。自分にとっては、オリンピックと同じものと思っている」
「寺崎くんの後ろを回る覚悟はあるのか」
ご存知のとおり、『寬仁親王牌』開催中、脇本雄太はアクシデントにより左肘関節の脱臼骨折という大怪我を負った。その結果、近畿ラインの並びが直前まで発表されなかったわけだが、奇しくも脇本雄太はより覚悟を問われることとなったのは間違いないだろう。
近畿4車の並びが表わすもの
前述のとおり、近畿4車は寺崎浩平―脇本雄太―古性優作―南修二という並びになることが決まった。
脇本雄太は、12月28日の会見で「4人でしっかりと話し合いました。寺崎(浩平)くんの番手で頑張らせてもらいます」と語った。
この「2番手」という位置は、単に先頭の後ろを走るというだけではない。展開の成否を左右し、勝負どころでの判断も背負う、ラインの中枢とも言えるポジションだ。
その責任あるポジションを、「オリンピックと同等」と語るグランプリで引き受ける。短い言葉の裏には、仲間との絆や信頼と同時に、結果も過程も背負うという脇本雄太の覚悟が、確かに滲んでいる。
その覚悟、しかと見届けよ
ここまで綴ってきたのは、事実と選手たちの言葉を軸にしながら、その行間を読み取ろうとした一つの解釈である。しかしながら、そういったストーリーに思いを馳せるのが、競輪の大きな魅力のひとつであることは間違いだろう。
いよいよ目前に迫った大一番。寺崎浩平の後ろを、近畿ラインの2番手として走ることになった脇本雄太。その覚悟を、しかと見届けていただきたい。