13年ぶりの復活、KEIRINグランプリ2019
Q:そこから復帰して競輪界最大のタイトル(KEIRINグランプリ2019)を獲得するわけですが、その要因ってなんだったんでしょうか?
休んでる間に「競輪選手はすごく良い仕事だな」と再確認しましたし、自転車でトレーニングして自分が強くなっていく、その過程が好きなんだな、ということも再発見しました。怪我を治して、どんどん良くなっていると感じた時に、その変化もまた楽しいと思いました。
「こんな感じで終わっちゃうのかな」と思いつつも、「うまくやっていけば、すっかり元通りとはいかないにしても、ある程度までは戻れるんじゃないかな」とも思いました。トップレベル帯でちょっとずつ成長していくことと、怪我から回復していくこと。この2つの要素の楽しさは、自分の中で近いものでした。
ちょっとずつでも変化していくことを楽しめる、そういうことが好きな人間なんだと思います。怪我したことによって、そういうことを再確認できました。
Q:では、もし怪我をしていなかったら今はS級S班の成績ではなかったかもしれませんか?
その確率は高いと思います。
落車に本来、「プラス」はありません。体の面ではね。でも精神的な面、気持ちの部分における成長は確実にあったと思います。自分が競輪が好きであることや、応援してくれる人たちの温かさも再確認することができました。今思えば良い経験だったと思います。
ファンの人が手紙をくれたりしたんですよ。当時、KEIRINグランプリに連続して乗っていた少し後の時期だったので、応援してくれていた方もたくさんいました。「早く復帰してくれ」「またグランプリに乗ってくれ」といった手紙が、1人2人どころじゃなく、本当に何通もきました。「こんなに応援してくれてる人がいるんだ」と実感することで、「ここで諦めちゃいけない」とも思えましたね。
Q:それは競輪の良さですね。
本当にそうです。お客さんと選手の距離が近いことが、競輪の良いところだと思うんです。お客さんからしたらお金を賭けてるんだから、そうは思っていないかもしれませんが、自分からしたら「友達」みたいなものです。場内で「慎太郎」と呼び捨てで呼ばれても、ネガティブなことは思わない。親父とか兄貴から呼ばれてるみたいなもんだと感じますね。
逆に、変にカッコつけずに、そういう選手で居たいなとも思っています。ありのままで居られたら良いなと。
ヤジに愛を込めて
Q:年齢を経るにつれて佐藤選手自身もアップデートを重ねていると思うのですが、そういう考えは昔からあったものなんでしょうか?
若い頃からですね。お客さんと選手の距離感に関しては、あまり考えは変わっていないです。
若い頃も練習中にお客さんに声をかけてもらって、金網に捕まっておしゃべりしたりしていましたよ。昔からスタイルは変わっていません。ヤジられても、腹が立つよりは「なるほどな」と思うことが多かったです。
Q:今の若手って、そういう考えができる選手が少ないと思うんですが……。
昔と比べて、お客さんが変化しているという面もあると思います。ヤジの内容も深みがないというか……。
今は単に1着に入ったかどうかのヤジが多いですが、以前はもっと踏み込んだ内容のヤジが多かったんです。「そっか、だから俺負けたのか」と教えられるようなヤジが、以前はありました。
Q:ちゃんとブロックしろ、みたいな感じですね?
そうそう。だから若手がどうこうというよりは、競輪界全体の流れかもしれませんね。どんな形であれ、1着を獲れば褒められる。レーススタイルが先か、お客さんが先か、どちらかはわかりませんけれど……。
子どもの頃から競輪を見ているイチ競輪ファンからすると、深みのあるヤジは心に沁みます。そういうヤジを受ければ、若い子たちも「うるさいな」とは思わないんじゃないでしょうか。「なるほど!」と若いやつらを納得させるようなヤジをいただけたら嬉しいですね。
Q:KEIRINグランプリでそのようなヤジをもらえたら嬉しいですか?
嬉しいですね!走る前に言って欲しいね(笑)アドバイス受付中です。