考慮すべき外的要因
空気抵抗を減らす事が最大スピードを伸ばす事に繋がる。しかし、単に空気抵抗を減らすと言っても、選手とバイクに工夫を凝らせば良いと言う訳ではない。
室内競技で外的要因にあまり左右されないと思われがちなトラック競技だが、気温と気圧、そしてベロドロームによってもタイムが変わると言われている。
2015年6月にブラッドリー・ウィギンス(イギリス)がアワーレコード(単独で1時間の間にどれだけバンクを周回出来たのかを競う)に挑戦した際、記者へのインタビューに対して「アワーレコードの多くは気温と気圧に左右される。僕は気象予報士ではないけど、1000hPa以下の低気圧だったら、同じパワーでも1km遠くへ行ける」と答えたほど、気温と気圧は重要だ。
また、暖かい空気は冷たい空気よりも密度が低い為、その分生じる空気抵抗も少ない。ウィギンスがアワーレコードに挑戦したロンドンのリーバレー・ベロドロームは、28℃にコントロールされていた。
現在55.089kmの最高記録を持つベルギーのビクター・カンペーナルによる2019年4月の挑戦の際は、トラック競技の世界記録が多く生まれるメキシコのアグアスカリエンテスにあるビセンテナリオ・ベロドロームで行われた。ビセンテナリオ・ベロドロームは標高1800mの高地に位置する為、アワーレコードを行うにはうってつけの場所※1だろう。
※1…標高が高い場所は空気の密度が低く、空気抵抗が減るためタイムが出やすい
また、ベロドロームの設計も速度に影響を及ぼす。
もしトラック選手が陸上競技の様な平坦で円形のトラックを高速で走行すれば、遠心力でコースから外れてしまうだろう。そのため自転車の競走路「バンク」は、すり鉢状に設計されている。
例えば、250mバンクの場合のカント(傾斜)最大角は45°前後だが、333.33mの場合は32°前後がカントの最大角となる。スプリンターなどはより速いスピードを出す為に角度が急なカントを、中・長距離種目のサイクリストはエネルギー温存の為に緩やかな角度を好む傾向がある。ベロドロームの設計者はそれぞれの都合を考慮し、両者のバランスを取ってカントを決定する。