東レ・カーボンマジックとHPCJCで世界一を目指すバイク”V-IZU”ブランドで制作する「TCM-1」と「TCM-2」。
前回の記事ではバイクの特徴や開発秘話に迫ったが、今回は値段や今後について深堀りしていく。今回話を聞いたのは開発初期から携わっている東レ・カーボンマジック(株)間宮 健プロジェクトマネージャー。
空力性能を求めると脛(スネ)は「悪」
試行錯誤して作った「TCM-1」「TCM-2」で学んだのは、足の脛は空力性能上『悪』だということ。ベンチマークとなったTCM-1から、TCM-2は更にヒントを得て洗練された。
空力的には「丸型」が一番だめです。しかし残念ながら足の脛は丸い断面。そこにもろに空気を当てないよう、特異な断面のフロントフォークを足の前に置いて、わざと空気の渦を作ります。今回のバイクでは「綺麗な空気を直接足に当てない」という考え方をしています。
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新フレーム(TCM-2)を利用した空気の流れ(水色⇒黄色⇒赤の順に抵抗値が高くなっていく)
今回の空力開発では、少しでも効果が確認できたアイデアはすべて採用しました。
フロントフォーク以外の前面投影面積を最小化したかったので、ホイールの車軸幅も可能な限り細くしました。このため市販のホイールは使えず、ハンドル・シート・クランク・チェーンリング・チェーン・タイヤ以外はすべて専用品です。自転車のメーカーだったら普通やらないことですよね。
あとで分かったのですが、左クランクにしたことで、リアコグひとつとっても専用品を作らなければならず大変でした。普通なら数千円で買えるリアコグに、数万円かかっています(笑)。
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今回は間に合わなかったのがハンドル。真っ先に風の影響を受けるハンドルは、各選手に最適化した専用品を作らなければいけない部分です。
また、次に開発していくときには、風洞実験の際に「マネキンがペダルを回す」ことを取り入れる必要があると思っています。現在はマネキンの足を各クランク位置に固定した数パターンの状態で風洞実験をしていますが、やはり実際の動きを考えると「回す」を取り入れなければならない。おそらくこれは世界を見てもまだどこもやっていないことだと思います。
ペダルを回すマネキンが完成するまでは、またブノワ(・ベトゥ)さんにお願いするしかないですね(笑)
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ブノワ・べトゥ テクニカルディレクター
販売価格2183万円 でも原価と開発費を考えたら高くない
開発を進める上で様々なバイクを見てきた東レ・カーボンマジックの開発陣。求めたのは「更なる速さ」。時間もお金も度外視し、ただただ速くなる、それだけを考えてきた。
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風洞実験場
現状、空力性能に優れているのはLOTUSの自転車でしょうね。一般流通している自転車メーカーで言うなら……SPECIALIZED、TREK、CANYONはお金をかけている印象があります。その中で、東レ・カーボンマジックは自転車メーカーが絶対やらないことをやっていると思いますよ。TCM-2はゼロベースで開発ができましたし、その結果、すべてが専用設計になりました。
この開発にはトータルで億単位の費用がかかっています。特に空力開発と風洞実験にその多くを投入しました。風洞実験は平均月2回、1年以上やりました。
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3Dブノワも登場した
TCM-1とTCM-2は、材料、形状など設計自由度が高く、CFRP(炭素繊維複合材料)の特長や性能を最も引き出すことのできるプリプレグ、オートクレーブ製法を用いて製造しています。
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最高性能の材料だけを使用していますし、製造はすべて職人の手作業。1台作るのに複数人がかりで1ヶ月ほどかかります。
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ホイールを作っていく様子
一般販売ではTCM-1が1903万円(税込み)、TCM-2が2183万円(税込み)なんですが、開発費や人件費を考えると、そこまで無茶苦茶な値段でもないでしょう(笑)
シンプルに 速さへの挑戦
自転車を作るということは、販売して利益を上げることが会社として求められる。作った物が売れなければ採算が合わないからだ。しかし……
この「作品」は注文があれば売りますが、値段を下げて量産化するという考えはありません。
弊社はタイに工場があるので、値段を抑えて量産するのならそこで作ることになるのだと思います。でもこれだけ手間のかかることをタイの職人に教えられるかというと、それは現実的ではない。もしたくさん注文が来るようだったらそういうこともあり得るでしょうが、今のところはなさそうですね。これは売れる売れないではなく、シンプルに速さへの挑戦なんです。
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TCM-1(奥)、TCM-2(手前)