人生逆転、オリンピック効果

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いつしか遅れていった日本

Q:それがいつの間にか世界の国々がどんどん先にいってしまったというイメージはありますか?

あります。他の国は予算を集めて、研究、分析を重ねてどんどん前に進んでいく中で、日本はそうしてこなかった面があります。他のメダルを獲っているような国内の競技団体は、きちんと対策をしてきたと思います。自転車競技もそのようにしてこなければいけなかったですね。2008年の北京オリンピックの後辺りから本格的にやっておくべきでした。

Q:でも今はその遅れていた部分を取り戻して、HPCJCも立ち上がり、更に先を行こうとしているように外部からは見えますが、そういった点はどう思いますか?

実は、自分がヘッドコーチだった頃(2014年~2016年)は、選手たちに保障もなく、バックアップ体制も無かったので、今のような状況が必要だといつも希望をして、訴えていました。「海外の体制が凄いのだから、日本も同じようにしないと追いつかない」と。

実際、日本でも強い競技はナショナルトレセン(※東京都北区)の近くに若い才能を集めてトレーニングしていますし、そのような体制が自転車にも必要だと訴えていたのです。

ですので「監督になってくれ」と言われた時、一度は断りました。「やるのであれば、知識が豊富な外国人のコーチが欲しい」とも伝えました。絶対にそれが必要でしたが、予算がなくそれも叶わずでした。ですから、今は素晴らしいですよね。

ブノワが当時来てくれていたのであれば、その下で4年間勉強して・・・・・などということも面白かったのでは、と思っています。

Q:坂本さんとしても、ブノワたちから勉強したいと思うのですか?

競技に関しては”別格”だと思うので、答えはイエスですね。勉強したいなあと。だから今の体制は羨ましいです。

将来的には日本人のコーチを置いて、チームを引っ張っていけるような人材を育成してもらいたいですね。

体制的にはやっとスタートラインに立ったところだと思います。折角良い指導者がいるので、次世代のコーチとなる日本人も出てきてくれたらと思っています。

そういえば競輪選手養成所も、練習から全て変わってきましたね。自分たちが学校(当時:日本競輪学校)に入った時は重いギア、ウェイトトレーニングなんて一切やらせてもらえませんでした。前のことを知っている人から見たら、今は大きく違いますね。

Q:体育館にウェイトルームがありますが、使用はせず、でしたか?

一応、一通りのやり方は教わります。でもやらなかったですね。昔は競走倍数を踏めるまでに時間が掛かり、そこが強くなるかどうかに違いが出ていました。今はもう、学校で競走倍数以上のギアで練習させているので関係ないですよね。だから強い子たちが出てきて特昇となっています。良い流れです。

オリンピックの意味、勝つために必要なこと

Q:競技で結果を出しているからこそ、競輪にも響いてくるということでしょうか。では、東京でメダルを獲ったら、競技人口は増えると思いますか?

増えると思います。しかも健康志向で自転車がブームになっているじゃないですか。それに乗っかる形で、小さい子たちがやってくれれば嬉しいですよね。競技人口をいかに増やすかが大事だと思います。そうなるためにもメダルは絶対に獲ってもらいたいですね。

Q:坂本さんにとって、オリンピックとはどういった存在でしょうか?

夢の舞台です。誰しも「出られるのであれば一度は出てみたい」と思うものでしょう。よく「出ることが大事」と言われますが、確かに大事だと思います。出ること、そしてそこまでの過程が大事なんです。メダルはその次ですね。

Q:メダルを獲った坂本さんですが、メダル獲得に必要なことはなんでしょうか?

メダルを獲る人は、それが運なのかはわかりませんが、何か他の人と違う物を持っていなければ獲れないと思います。与えられた、なんというか宇宙人みたいな人じゃないとダメなんじゃないかと。

それとオリンピックには魔物が居ます。フランソワ・ぺルビス(フランス:2014年世界選手権短距離3冠、2015年同大会短距離2冠)がそうだったじゃないですか?ロンドン後の世界選手権は無敵状態でしたよね?でも丁度リオの1年前くらいに怪我か何かをして、リオオリンピックには出たものの、ダメでした。

やっぱりオリンピックは4年に一度というのがポイントで、そういった意味でイギリスチームは流石だなと思います。オリンピックに向けて選手をピークに持っていくのがとても上手いです。

ジェイソン・ケニーもロンドンで出し尽くしたのか、リオに向けては調子が良いと思っていませんでした。でも蓋を開けてみれば、リオの短距離で3冠。あれを見て流石だなと。チームの歴史が成せる業だと思います。

Q:ということは、坂本さんも宇宙人ですね。

いや自分はたまたまそうなっただけです(笑)本当に、4年に1度の調子を持ってくるのは大変なんですよ。

そして運と言えばですが、自国開催のオリンピックで選手に選ばれるなんて、有り得ない運の持ち主です。これも凄いことだと思います。選ばれる、出ること事態が凄いことなのに、自国開催でメダルを獲ったらもっと凄いことになりますよ。

競輪選手だからこその期待

Q:坂本さんから見て、今の日本の選手は?

短距離だけ見れば、全員メダルの可能性があると思います。テストイベントを見ても実力十分です。

注目は地元開催をプレッシャーに感じるのか、それとも追い風にするのかですね。競輪選手はよく「地元開催の時は力が2割増し」と言います。その地元開催に毎回選ばれるわけではないし、そこに選ばれるつもりでやっているという部分があり、本当に選ばれると頑張って力以上の物を発揮できるといった感じです。

そういった意味では、競輪選手は特に地元開催について意識改革が出来ると思うので、大丈夫だと思います。期待したいですね。

次回、アテネ銀の伏見選手

1984年のロサンザルスオリンピックから続くメダルの系譜。次は2004年、アテネオリンピックで銀メダルを獲った男子チームスプリントメンバーの1人、伏見俊昭選手を訪ねる。坂本勉さんが渡したバトンを受け取り輝いたアテネ大会とは。