自転車トラック競技日本ナショナルチームを支え、かつ次世代選手の育成にも力を入れるために日本自転車競技連盟が立ち上げたHPCJC(High Performance Center of Japan Cycling、以下「HPCJC」)。ここにはコーチ、メカニック、メディカル、トレーナー、科学分析班といった様々なスタッフが揃っている。選手を多角的な視点から分析し、支え、さらなる高みへと引き上げるためのプロフェッショナル集団だ。
今回は科学班(Science Team)の役割の一部を担い、今後科学班を引っ張っていくであろう橋本直さん(職種はPerformance Analyst)にインタビューを実施。この聞きなれない役職や、日本チームを世界で輝かせるための試行錯誤・・・様々なことに答えていただいた。日本チームの頭脳を司る、科学班の仕事についてお伝えする。
Performance Analyst(パフォーマンス分析)橋本直 プロフィール
大学受験時にツール・ド・フランスを観て、自転車競技に魅せられる。自転車競技未経験ながらも鹿屋体育大学に入学し、橋本英也(東京オリンピック男子オムニアム代表内定)の同期として大学時代を過ごす。卒業後は運動生理学を専攻とした研究の道へ進み、大学院博士後期課程途中で橋本英也所属のHPCJCに出会い、現在に至る。
空力テストの完成が至上命題
自転車トラック競技は1000分の1秒を競う緻密な競技。選手たちはトラックを走り、タイムや順位を競う。自転車競技の最大の難敵は「風」。時速70kmをも超えるスピードを、人力で生み出す選手たちに立ちはだかる風は難敵極まりない。その「風」による抵抗を最小限に抑えるため、科学班は日々努力している。
「基本的には中長距離の日常的な練習に帯同し、パワーデータの管理や動画を撮ってチームと共有、そしてそれらのデータを基にパフォーマンスを分析するのが仕事です。現在は『トラックを使って空力を評価するテスト(エアロテスト)を完成させる』のが、最重要タスクのひとつ。基本的にはトラック上を走ってもらって、各種データをリアルタイムで受け取り、そのデータを基に空力を計算していきます。
一定の条件をこちらで設け、その条件下で計算します。詳細は公表出来ませんが、既存の機材でいろいろとやっています。風洞実験が国内で存分に出来ない情勢ですので、工夫して同じような結果を得なければいけません」
日本には自転車競技の空力性能を測る専門の”風洞実験(Wind Tunnel testing)”が出来る施設が存在しない。世界中でその施設を擁するのはイギリスやアメリカ、オーストラリアなど、自転車競技の強豪国に限られる。
Testing, Testing! We've been hard at work in the wind tunnel with @SwissSide and our riders @EddieDunbar and @GannaFilippo. Stay tuned for a video – coming soon! pic.twitter.com/efCGzOuXDf
— INEOS Grenadiers (@INEOSGrenadiers) June 19, 2019
必然的にテストをするにはその場所に行かなければならないが、ライバルでもある国で実験をするということは、自分たちのデータをそのまま敵に提供することにもなってしまう。
そこでHPCJCでは、今後の成長に大事な要素のひとつを独自に構築しようとしている。それを実施するのが橋本さんの所属するサイエンスチームだ。このチームでは、選手たちのパフォーマンスの分析、研究はもちろん、世界のトップを知る短距離、中長距離、両ヘッドコーチが行いたいことをいかに実現するのか、その点を重視している。風洞実験と同じような効果を得ることは、コーチ達が喉から手が出るほど望んでいることでもある。