情熱を持ち、信頼される
Q:そもそもS&Cコーチという言葉を聞いたのは初めてでした。多くの人がやっている仕事なのでしょうか?
S&Cコーチは世界でも新しい分野です。以前はコーチの仕事の一部でしたが、現在ではS&Cは別の仕事として考えた方が望ましいと言われています(※これまで短距離チーム全体のS&Cの部分はジェイソン・ニブレットコーチが行っていた※)。ただ自転車競技の場合は人材を見つけることが困難で、HPCJCの要求はS&Cコーチの経験があり、かつ自転車競技を深く知る人材でした。
おそらく自転車競技を知らないS&Cコーチでも肉体の強化を行うことは出来ます。しかし自転車競技に必要な強化となるかどうかは、経験を基に考えていかなければなりません。
私は教え子に五輪(BMX)で金メダルを獲った選手もいますし、多くはないもののノウハウがあります。そしてまだここに来て期間は短いものの、朝選手たちの顔を見れば体調が良いのか悪いのかが分かります。そのような時には「この選手は今日体調が良くないから気をつけて」など他のコーチ陣に話しています。これはとても大事なことで、スタッフ全員に同じレベルでアスリートの状態を把握してもらうことも仕事のひとつです。
時には選手たちの意見を尊重し、時には厳しくするためにも、現状の把握は必要なのです。経験豊富なコーチは、選手の顔を見れば今日は厳しくしても大丈夫か、それとも優しくいくべきなのか判断が出来るものです。
Q:誰かに教えてもらう仕事ではなく、経験から正解を導き出すような仕事ですね。
そうですね。この仕事の難しいところは学校で学べるような物ではないということです。選手が私を、コーチたちを信頼できなければ、我々コーチ陣が伝えたいことの真意は伝わりませんし、質の高いトレーニングを行うことも出来なくなります。仕事の大部分を占めるのは、そういう意味では選手から信頼される関係性を作ることですね。そのためには時間と情熱が必要になります。情熱がなければ、選手たちはそれに気付きます。
Q:ファブリースさんにとっても毎日が学び、そういうことでしょうか?
はい。HPCJCにいて、毎日が大きなチャンスですし、伊豆ベロドームがある山の上には小さな世界が広がっています。フランスからブノワコーチと通訳のアリスと私、オーストラリアからはジェイソン(ニブレット)コーチ、アメリカからクレイグ(グリフィン)、スペインからはミゲル統括ディレクターが。そのような環境で、選手たちが育っていく姿を見るのは刺激的で嬉しいことです。
私のゴールは、日本の選手たちが五輪でたくさんの金メダルを獲得することですね。
※クレイグ・グリフィン中長距離ヘッドコーチの出身はニュージーランドだが、日本以外の生活拠点はアメリカ
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