「競技と競輪の両立」は可能か?

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これは最も美しいプロジェクト

Final / Men's Team Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, ブノワ・ベトゥ

Q:ブノワコーチにとって、日本のプロジェクトは難しいものですか?

「一番難しいプロジェクト」ではありません。ロシアや中国でのプロジェクトの方が難しかったです。ただ、目標を一番高く持つことが出来るのは、このプロジェクトだと言えます。

Q:ロシアや中国ではどのような経緯があったのでしょうか。

ロシアでは、リオ・オリンピックまではデニス・ドミトリエフや、女子ではアナスタシア・ボイノワ、ダリア・シュメレワを指導していました。私のアシスタントだった監督が女子2人の監督だったんですが、その人との反りが合わなかった。それで女子の指導からは離れ、ドミトリエフの指導のみを継続しました。パーソナルコーチという形でしたが、ほとんど無償で行っていましたね。それは彼の人柄が素晴らしかったからです。

中国ではベロドロームの中にアパートがあって、そこで生活していました。中国の時は、私がチームを離れたらすぐに組織が立ち行かなくなってしまったんです。私の後任のコーチとして相次いで4人が来ていたようですが、困ったと思います。だからこそ、日本ではそうならないようにしたいと思っています。

中国とロシアで辛かったのは、理解してくれない人たち、状況を変えていこうとしない人たちとずっと戦ってきたことです。新しく何かを作ったり、協力し合ったり、現状を変えていくことを私一人に担わせていました。もちろんそれをするのが私の仕事でしたが、一人では限界があります。その点、日本での仕事は中国・ロシアと比べて難しくはありません。ですから目標は一番高く持てていて、自分の中で最も美しいプロジェクトとも言えるのでしょう。

日本に根ざして「春」を待つ

Women's Keirin 1st Round / 2019 Track Cycling World Championships Pruszków, Poland

日本では個人的な面でも、良い意味で「普通」の生活を送れています。家族が幸せだから自分も頑張りたいと思えますし、プライベートにおいても目標を抱いています。初めのうちは日本に居ることは「メダルを獲る」というコーチとしてのチャレンジと捉えていましたが、次第に「私の子どもに教育してくれる国のために戦う」と意識が変化し、よりやりがいを感じるようになりました。

中国やロシアでは、日常の小さな部分でも「合わない」と思うことがたくさんありましたね。例えば日本ではお酒を飲みながら語り合うことができますよね?中国やロシアだと、酔っ払うためにお酒を飲むんです。これは私にとっては重要な文化の違いの一つです。

フランスと日本は、文化における共通点が多いと思います。洗練された料理が好きだとか、良いものを長く使うとか、自然が好きだとか。30年前のフランスにあったものが、日本にもある感覚です。そういう意味でも日本での仕事はやりやすいし、ここを離れたくない。だからこそ仕事が上手くいくように頑張れます。このようなこともモチベーションのひとつになっているのです。

まだ今のHPCJCは種のようなものだと思います。我々は種を植えて、それをゆっくりゆっくり育てているところです。幸いなことに芽が出ていますが、良い水が必要ですし、冬が厳しすぎると枯れてしまいます。春が待ち遠しいですね。

Q:春は来そうですか?

そこに関しては結構楽観的ですよ。楽観的ですし、可能性は高いと思っています。そうでなければ今ここにいませんし、ロシアの時のように既に離れていたでしょう。ポテンシャルがあり、モチベーションの高い人がたくさん集まっているとわかっています。そして春を迎えるためには「全員で力を合わせる」ということが必要となります。それを皆で行う組織がHPCJCですね。

1st Round / Women's Keirin / GRAND PRIX OF MOSCOW 2019