「私も皆と一緒に走るよ」と感じていて欲しい
レース直前に、選手達には何と声をかけますか?
毎回、何かを話すわけではありません。時々、声をかけるにしても、内容は環境状況、選手の性格に応じて変わります。
何か、一例を教えていただけますか?
ヒミツです(笑)
なんてね。
ハロンの上で、選手が忘れがちな事を思い出させるために「ここでは、ちゃんとこうするのを忘れないでね」「ここで立ってね」みたいな、細かいことですよ。
必要な情報だけ、ピンポイントで思い出させます。
でも、毎回ではありません。応援するだけの時もあります。監督からの信頼を感じることも凄く重要ですから。「私も皆と一緒に走るよ」と感じていて欲しいです。選手が負けたら、私も負ける、そんな共感が重要なんです。
もし負けたとしても、選手のせいだ、という風なことは絶対に言いません。選手が失敗したら、私たち全員がダメだったということ。だから、選手だけの問題ではありません。選手だけを責めることは絶対にしません。
選手たちと一緒に戦っているんですね。
その通りです。私は皆で一緒に勝つのが好きなんです。喜びを分かち合うのが好きなんです。勝利の喜びは、とても強い衝動的なものなので、私もそれを味わいたい。
しかし、勝利の喜びを味わう道のりには、失敗も多いものです。残念ながら、あらゆる国、選手にとっては、勝つよりも負けることの方が多いです。
デニス・ドミトリエフ選手も世界チャンピオンの座を手にするまで、とても時間がかかりました。デニス選手の道のりは、とても厳しいものでした。毎年表彰台のトップを目前にしながら、チャンピオンジャージを着ることはできず。でも、彼は諦めず、ひたすら挑戦を続けてきました。
日本のナショナルチームの選手たちは、あまり意識していないかもしれませんが、デニス選手とずっと一緒にトレーニングできるというチャンスなので、そこも参考にして欲しいなと思います。
※デニス・ドミトリエフ選手は日本の競輪へ参加するため、日本に長期滞在していた
日本の選手もデニス選手と同じ様に、疲労や苦労の限界を超えることができれば、大きな進化を遂げます。それがまだまだ習慣になっていないかなと思います。まずは、己の限界を超えること。毎日限界を超え続けること。
競輪選手たちは多くの外国人選手と比べると、恵まれた環境にいます。ただオリンピックを考えたら、日常の限界を大きく超えていかないといけません。痛みを友達にしなければなりません。それがなかなか、まだ受け入れることができないですね。毎日気持ち良いままでトレーニングを終えたい、という事を越えていかないと、その先には辿り着けません。
競輪のグランプリで勝つことと、オリンピックでメダルを獲るということは、別の話です。全てを賭けて挑んで優勝しても、5万ユーロしか貰えないワケだから好きじゃないとやれません。競技へ対する愛情で走るということですね。
私も一緒に勝利の喜びを分かち合いたい、それだけでやっています。それを理解してもらえれば、一緒に金メダルを獲ることができると思いますよ。
Interview : Mizuki Ida
Photo : Shutaro Mochizuki