バスが怖くてどこにも行けない

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厳しい環境で絶望の毎日

Q:言葉の壁もあり、厳しい環境とは思いますがイタリアに来て良かったと思うことはありますか?

やっぱり、レベルの高いレースをたくさん走れるのはありがたいです。
レベルが高すぎて絶望するし、チームメートも強い人ばかりで自分が情けなくはなりますが……。

Q:『2024ロードレース世界選手権』にも出場されましたが、同じようなレースレベルなのでしょうか?

そうです。それが、すごく短いスパンで開催されるから本当に大変で。ヨーロッパの選手たちはこういうスケジュールに慣れているので切り替えも早いと思うのですが、自分は1回1回へこんでしまうので気持ちを整えるのが大変です。

Q:所属しているチーム「BePink-Bongioanni」では、どんなポジションなのでしょうか?

チームメンバーは14人ほどいるのですが、他の選手と比べて私はレースの経験が少ないので、大事な役割は与えられていないというのが現状です。私はゴールまで行けるかも正直分からないですし、全然登れない。みんな男子選手ばりのペースで登っていくんですよ。その中で逃げを追ったり、機を伺って逃げる、みたいな感じでレースが行われています。

Q:昨年までは別のチーム(EF・オートリー・キャノンデール)に所属されていましたが、違いを感じる部分はありますか?

そんなに大きくは変わらないかな……と思います。ただ、「BePink-Bongioanni」は同い年とか年下のメンバーもいるし、全部自分でやらないといけない。前のチームは、レース経験がほぼ無い、みたいな状態で私を受け入れてくれたので、置かれた立場という面では違いを感じますね。

それでも着実に経験を重ねる

Q:イタリアに拠点が移ってから様々なレースに出場されたと思いますが、特に印象に残っているレースはありますか?

1ヶ月くらい前に出たステージレース(ブエルタ・ア・ブルゴス)ですかね。小さいレースを除いて、こっちに来て初めて完走できたレースだったので。

1日目から良い感じで走れていた中、2日目は途中の落車に巻き込まれて、結局ラスト20㎞くらいを1人で走ることになったりトラブルもありました。でも最後まで走り切ることができました。3日目は登りで、私が最後尾だったのですが、みんなが応援してくれて嬉しかったですね。

Q:垣田選手でもそれだけ苦戦してしまうということは、下の世代の選手など、他の日本人選手が同じような状況下に置かれたら、こてんぱんにされて何も得られないまま終わる可能性もありますよね。

やばいと思います!
下手したら、自転車を辞めたいって思ってしまうかもしれません。自分も、レースを走るたびに精神的にやられていたので。

トラックとロード、2つを経験して分かること

Q:トラック競技では、ロッテ・コペツキー選手をはじめ世界のトップを相手に戦えている印象がありますが、そこまで違うものなんですね……。

何ですかね……みんな小さい頃からロードレースを走っているので位置取りが上手いなと思います。

あとはやっぱり脚質が違うというか、登りが強いかどうか、という点だと思います。ヨーロッパでは登れないと始まらないというか、レースで勝負する権利すら与えられない感じはします。一方で、この間イタリアで出たレースは1周6㎞の周回コースで、私は比較的良く走れたのですが、普段登りがめちゃくちゃ強いチームメートはかなりキツそうでした。

Q:なるほど。ロードでは登りありきなんですね。

とはいえ、コペツキー選手はロードでもトラックでも強いですし、トラックに行ったら強いだろうなって思う選手もたくさんいますけどね。単純に体力のレベルが違う、という部分もあると思います。トラックでも体力が無限にあれば、何回でも逃げられますし。

世界選手権ではトラック&ロードで計8回もチャンピオンになっているコペツキー

Q:イタリアでとても貴重な経験を積んでいるように思います。もし来年も同じ欧州派遣のチャンスがあれば行きたいと思いますか?

レベルが高いレースを走れるのは本当に最高なので、ぜひ機会があれば挑戦したいです。けど、日本人じゃなくても良いので、一緒に練習に励んでくれる人がいれば嬉しいですね。

最初の頃は、鎌田晃輝(JCL TEAM UKYO)もイタリアにいたので楽しかったんですよ。彼は高校が同じ(松山学院高等学校/旧・松山城南高校)だったので、ピザを食べに行ったり、一緒に練習できて良かったのですが、残念ながら日本に帰ってしまいました。大門さん(Team NIPPO監督)さんが来るとご飯に連れて行ってもらえたりしますし、誰かが来るとすごい嬉しいです。

孤独の中で少しずつ強くなれた

Q:環境が変わったことで、自分自身の中でも変わったと思うことはありますか?

昨日電話した高校の友達には、なんか変わったねって言われました。前まではホワホワしていたけれど、結構ズバズバ言うようになったねって。

Q:イタリアに滞在したことで内面もイタリア人に近づいたのでしょうか?

いやいや、私は全然イタリア人じゃないですよ(笑)。生活面では全くイタリアに染まりきっていないので。せめて残りのあと2ヶ月の間に、ミラノにふらっと行けるようになりたいなって思っています。

Q:離島に住んでいる高校生みたいなコメントですね(笑)。

いや、日本だったら飛行機を取ったりとかちゃんと出来るんですよ(笑)

ただ、元々1人では行動できない性格を変えたいと思っていたので、良い環境、良い機会だと思います。
言葉の壁で行動できていない部分がまだまだあるので、もし来年もイタリアに来る機会があるなら、それまでにイタリア語もマスターしておきたいと思っています。

ダニエルコーチと一緒にいったベルガモで撮った写真

先は見えなくても今を走る

Q:今回の経験を経て、自分のアスリートとしての将来像は見えて来ましたか?

ロードでも頑張りたいと思っていたのですが、実際にヨーロッパのレベルを体感したことで、自分がこのレベルに追いつけるのかという不安は生まれました。だから正直、まだ将来像は見えていないです。

Q:あるいは、競輪選手を目指すとか……?

この生活にやられているので、養成所生活に適応できますかね……(笑)
でも、(酒井)亜樹ちゃんに色々と話していたら、養成所の方が喋る人もいるしマシだよと言われました(笑)

Q:イタリアでの生活も残り2ヶ月ほど。何を目標に日々を過ごしていきますか?

まだどのレースに出場するか決まっていないのですが、1DAYレースで完走できたことがないので、走り切れるよう頑張りたいと思います。
あとはイタリア語をもう少し喋れるようになって、アパートのおばちゃんと友達になるのが目標です(笑)