2023年の初頭を「(自分らしさを)全然出せず、キツかった」と語る新山響平。S級S班として過ごした初の1年を経て、今では「前を取って全部突っ張ります」とシンプルな境地で笑う。
「憧れの選手」「先行といえば?」などの他の選手への質問で頻繁に名前が挙がるようになった新山。自身初となった赤パン(※S級S班のみが着れる赤いレーサーパンツ)で経験した1年間を語っていただいた。
プロフィール
1993年生まれ、青森107期。2022年まではオリンピック出場を目指しナショナルチームにも在籍。
2022競輪祭でG1タイトルを初獲得、2023年はS級S班としての苦悩味わった1年でもあったが、そんな中でも強さを見せてきた。2023競輪祭中に通算200勝を達成。「憧れられる選手」として、2022年から2年連続2回目のグランプリへ挑む。
S級S班のプレッシャー
Q:去年のインタビューの時は「どうしよう、SSだよ……」という感じでしたが、S級S班として過ごした2023年を振り返っていかがですか?
最初の方は結果を全然出せず、キツかったです。今までみたいに好き勝手やれないなと思って、勝たなければいけないプレッシャーを感じていました。
Q:そこからの脱却はどのように?
お客さんのために1着を目指していましたが、以前と同じように「自分の納得する走りをする」と開き直りました。自分のレースをすることに焦点を当てていくにつれ、少しずつ結果が出るようになって、自信になっていきました。「このスタイルで良い」という考え方になってきましたね。
きっかけになったのは3月の大垣記念です。2次予選で9着になったのですが、そのレースでは中団を取ってそこから……と思っていたのですが、周りもそれに気づいていたからペースも上がらなかったし、中団でフタされたまま動けず……という感じでした。そのまま包まれて9着になってしまって、結果も悪いし内容も悪いレースでした。「どうしたものか……」となりましたね。
その開催の後、トレーニング方法を改めました。また師匠(坂本勉)が伊豆に来たタイミングで食事をして、話をして……そこから変わっていくようになりました。
Q:トレーニング方法はどのように変わったんでしょうか?
それまではナショナルチームの時にやっていた練習をレース間の日数に合わせてそのままやっていました。最初の頃はそれでも良かったのですが、だんだん結果が出なくなって……自分のレーススタイルに合ってないのかなと思って、少し変えていきました。
師匠からは「勝ち負けを気にしすぎている、やりたいことを思いっきりやればいいじゃないか。お客さんはこれまでやってきたレースを評価して見にきてくれているんだから、SSになったからといって勝ちに拘ってレースが小さくなってしまうのは違うんじゃないか」といったことを言われました。今まで通り走った方がお客さんも予想しやすいし、それが見たくて来てくれるファンもいると言ってくれましたね。
Q:それをやってきたからこそS級S班になれたわけですしね。
それがうまくハマった時にG1があって、決勝まで行けて、そういう走りをしてきたから新田(祐大)さんが番手を走ってくれた、ということもあるのかなと思います。
賞金ランキングを見たくない……
Q:年始は気負いすぎていた、ということですね。今では赤パン(※S級S班のみに支給される赤いレーサーパンツ)にも慣れましたか?
「1年じゃまだ脱ぎたくない」と思いましたね。欲が出てきてしまいました。G1を獲りたいという思いもありました。一方で、年の後半の賞金を気にするような時期になってくると「賞金ランキングを見たくない」みたいな感情にもなりました(笑)
G1優勝も大事ですが、コンスタントにSSでいられることもステータスになると思っています。
Q:欲が出てきたのはいつ頃からですか?
年の初め頃は賞金ランキング50位にも入ってなかったんですよね。12〜3位くらいになった頃に「あれ、意外に良い位置にいるな」と意識するようになってきて、10位以内になると「これ、このままいきたい……」と思うようになりました。
結果を見守った競輪祭
Q:競輪祭の決勝は新幹線で観戦されたという話ですが。
グランプリ出場は半分諦めていました。深谷(知広)さんと松井(宏佑)さんの並びだから「もう無理だな」って。レースが始まって初手の並びを見た瞬間に「これ松井さんに決まったわ」と思いましたね。
1年でSSは外れる形になるけれど、ここまで勝負したし、切り替えてしっかりいこう……と考えていました。それにしても眞杉(匠)が強かったですね。
Q:眞杉選手が1着で通過した時はどう思いましたか?
新幹線で隣に小原(佑太)と永澤(剛)さんがいたんですけど、みんなそれぞれのスマホで見てて、自分のだけ通信が遅かったんです。自分で観ていた映像でゴールする前に永澤さんが「よっしゃあ」って(笑)
でも自分が決勝に乗っていない中で、他の選手の優勝でグランプリ出場が決まったわけですから複雑な気持ちでした。優勝されて悔しい気持ちと嬉しい気持ち、6対4くらいでした。やっぱり優勝して大舞台に乗るのが一番嬉しいです。去年は「嬉しい」でしたが、今年は「安心」かもしれません。
Q:今年の松井選手は、昨年(2022)の競輪祭で新山選手が優勝したのと、同じような形で進んでましたもんね。
松井さんも南関東の前でずっと引っ張ってきて、準決勝でも早めにスパートしての結果でした。だから優勝するのかなと思いました。
自分も競輪祭に照準を絞っており、仕上がり的にもまずますでした。決勝に乗れると思っていたので、準決勝をクリアできなかったのが悔しかったです。
Q:準決勝は松浦悠士選手が捌きまくっていたレースでしたね。
(太田)海也に迫れれば良かったです。前に出られた後に巻き返せるタイミングがあったのですが、脚を溜めちゃって。あの瞬間に行けば良かったんですけど、後ろが松浦さんだからな……といろいろ考えて、変なところで行ってしまいました。
みんなは「あのタイミングで行かなくて良かった」と言います。行かずに、最後に踏み込んで詰めて、捲り追い込み……「詰めて3着でも良かったんじゃない」とも言われますね。でも後ろに(佐藤)慎太郎さんもいるし、北津留(翼)さんも含めて3人で決めたかった。欲張りすぎだったかもしれないですが。