今年登録地を愛知に移した、112期の坂口楓華。1年を通じて活躍し、2021年から2年ぶり2度目のガールズグランプリ出場を掴んだ2023年は「1年かけて土台をしっかり作って、それが結果に出てきた」ものと語る。

「こんなに練習してる人いないんじゃないかなと思うくらい、練習に明け暮れた」。「ここで終わりたくない」。

ロードレースに明け暮れた学生時代、競輪への転機、そして2年前のグランプリと2023年の1年。「新しい坂口楓華、その始まりの年」が語られるロングインタビュー。

坂口楓華プロフィール

1997年生まれ、112期。学生時代はロードレース・シクロクロスの選手として活動してきたが、高校3年の時に出場したトラック競技の大会をきっかけに競輪選手の道へ。デビューから4年、2021年に初のガールズグランプリに出場、4着となった。

2023年は4月に通算200勝を達成。登録地を京都から愛知に移し、新たな気持ちで2年ぶりのグランプリへ挑む。

2023年は「新しい坂口楓華」の幕開け

Q:2023年を通じて調子が良かったと思いますが、走りに対する自信みたいなものは出ていますか?

自信は練習でつけている、という感じです。本当に「練習・練習・練習」という感じで毎日生きていて、毎日積み重ねてきました。

Q:ガールズグランプリまで1ヶ月を切っています。あとはどれだけ積み上げるかでしょうか。

本当にナショナルチームのメンバーが強く、他の選手もレベルが上がっていて、どこにいても苦しい展開になると思います。だからこそ力はつけないとダメ。でも今更急成長するわけでもありません。この1年積み重ねてきたものをどれだけキープして、どれだけ良い状態で入れるかになるかなと思います。

とはいえ、練習の強度は上がっています。

Q:市田佳寿浩(元競輪選手)さんに指導を受けていると伺いました。その影響もありますか?

はい、去年の秋から指導をしてもらうようになりましたが、私の中での一番大きな変化だと思います。ここまで来れたことに自分でも驚いているくらいで、今も変わらず練習を見てもらっています。

市田佳寿浩, 柳原真緒, ガールズグランプリ2022, KEIRINグランプリ2022, 平塚競輪場

去年のガールズグランプリ覇者・柳原真緒と、その師匠である市田佳寿浩

Q:どういうことが一番変わったんでしょう?練習の仕方か、メンタルの持っていき方か、あるいは日常生活か……

練習量がすごく増えました。「こんなに練習してる人はいないんじゃないかな」と思うくらい。15年自転車をやってきましたが、これまでこんなに練習したことないなって思います。

Q:昨今は「量より質」の練習も増えていますが、ナショナルチームなどとは全然違う内容でしょうか?

1ヶ月くらいレースをしないで練習できる状況ならナショナルチーム式も良いと思いますが、競輪選手は1年を通じてレースをしなくちゃいけません。1ヶ月に3本レースがある中で強くなろうと思うと、やっぱり量が必要になります。例えば開催と開催の間、中4日で2日を休みに当てるとして、残り2日でどうするか……と思ったら、質なんて考えていられません。

「まとまった練習期間を取れるわけではないので、できるときに詰め込んでいる」という感じかなと思います。

Q:コンディションのピーキングなども難しいでしょうし。

そうです。レースで時間が取られてしまうので、どうしてもそうなります。

Q:そんな中で今年は記録を打ち立てました。乗る時間が増えた中で調子が上がった、ということでしょうか?

今は自分がこれまで行ってこなかった基礎練習を教えてもらっている段階です。1年かけて土台をしっかり作って、それが結果に出てきたのかなと。でもまだ「土台」に過ぎないのでトップの人には全然追いつかない。まだまだと思います。

Q:ということは、今後、2023年が「新しい坂口楓華」の幕開けの年として振り返られるかもしれませんね。

そうですね、だからこそ「グランプリで優勝する」とは言えないと思います。まだ始まったばかりだから。地道にやれることを、ちょっとずつ進むしかできないと思っています。

それだけ長くかかると思っているから

自分の競輪選手人生は30歳くらいで区切りかな、と思っています。30歳をゴールとしてやっていこう、そう24歳くらいの時に思いました。

高木真備さんがグランプリで優勝して引退を決めましたが、当時の真備さんは26歳。「それ最高やな」って思ったんですよね。自分は女王になって「また1年」なんてできないタイプだと思います。「日本一になったら辞める」とみんなに公言しています。

Q:じゃあ今年勝ったら後に引けなくないですか?

さすがに今年勝ったら辞めないと思います(笑)30歳目標でやっているので。「30まで」と言っているのは、それだけ長くかかると思っているからです。

これまで15年自転車を行ってきましたが、30歳の時には自転車歴20年になります。20年やれば十分かなって思います。あと4年でどれだけ自分を追い込めるか、そういう自分への挑戦という意味での4年でもあります。今年はその始まりの年、始まったばかりだな、と思っています。

Q:目標を見据えて、着実に、という感じですね。

ダラダラ続けられる性格ではないので、それが必要だなと思います。

人生で一番のプレッシャーがかかったレース

久米詩, サマーナイトフェスティバル(G2), 函館競輪場

久米詩

Q:2023年印象に残ったレースはどれですか?

6月の、久米詩さんに連勝を止められちゃったレースです。自分としては色々勉強になりました。

あの時、あのままいけたら児玉碧衣さんの記録を塗り替えるチャンスでもあって、自分の人生で一番のプレッシャーがかかったレースでした。みんなが期待して、たくさんの人がレースを観てくれていたと思います。

自分自身にも、どこか期待している部分がありました。「記録を塗り替えられる」って。自分の思い通りになるなんて、そんなにうまく行くはずがないんです。甘さが出たし、守りに入り過ぎたレースだったと思います。

すごく悔しかったです。負けた時の自分の感情を目の当たりにしました。その一方で改めて「(児玉)碧衣さんってすごいな」と感じて、素直に尊敬できる自分にも成長を感じました。

児玉碧衣, サマーナイトフェスティバル(G2), 函館競輪場

児玉碧衣

そこから「絶対に強くなって結果でひっくり返してやる」って思いました。約1ヶ月後に行われたパールカップではマックスの気持ちで開催に入り、良いレースができたと思います。負けがあったからこそのパールカップでした。いろんな自分の変化があったのがその時期だったなと思います(最終結果は3位)。

謙虚な人が上に行く

Q:レースと本気で向き合っているからこそそういう感情が出ているんだなと思います。逆にいうと、去年までの自分はそこまで本気になっていなかった、ということはあるのでしょうか?

基本的に考えが甘過ぎたなと思います。正直「自分は強い」と思っていました。それで痛い目を見たというか……もう今の自分は「強い」なんて思っていません。練習をしてきたっていう裏付けからの自信はあるけれど、強いとは思わなくなりました。

Q:「強いと思ってる方が強い」という人もいますし、そうでない人もいる。勝負の世界は不思議ですね。

でも私としては、謙虚な人が上に行くと思っています。そうなりたいなと思っている部分もあります。

「眠っていた持久力」が目覚めた

1/2 Page