一体感を模索中

3/3 Page

レース中に見えている世界

Q:寬仁親王牌決勝では後方から犬伏湧也選手が猛スピードで上がってきました。古性選手はその間をするっと上がっていきましたけど、あの時怖さはありませんでしたか?

それほどでもなかったですね。犬伏くんがもっと外側にいるイメージだったんです。自分としては真っ直ぐ捲っていったイメージで、間をすり抜けていったという感覚はありませんでした。

Q:古性選手が走っている時に見える世界は、どのようなものですか?

それこそグランプリで優勝した時(2021)は4コーナーからの直線がものすごく長く感じましたが、番手戦などの時でスローモーションに感じたことは、今のところ経験がありません。

KEIRINグランプリ2021

経験で走っている感じです。「ここでこうなったら負けへん」「こうなったら勝てる」が自分の中にあるので、それに基づいて淡々とやっている感じ。焦ってやっている感じではないです。

Q:その「淡々に」に職人感を感じますね。以前のインタビューで「陶芸家みたいなイメージ」とおっしゃられていましたが、今そのレベルは上がってきていますか?

ずっと作ってるような感じですね。その時代時代で、自分でもびっくりするんですが、以前はダメだったものが、しっくりきたりする。でもそうすると迷いも増えていきます。これまでの経験で良かったもの、捨てたものがあるのに、実は捨てたものの中に良いものがあったのか?って。難しいです。良くなかったものが良くなってしまったこと、それが今年の悩みです。

Q:完成形がなさそうですね。

そうですね。辞める時までそんな感じなのかなと思います。

Q:悩みも生まれた1年だったかと思いますが、グランドスラムも現実的に見えてきた1年だったかと思います。

残るは日本選手権と競輪祭……ですね。でも小倉も得意じゃないし、日本選手権も調整しても上手くいった試しがない。難しい2つが残ってしまったな、という感じです。

Q:KEIRINグランプリ、そしてこの2つのG1だったら、G1の方が優先度上がったりします?

そんなことはないですよ!特別なものの中でも、グランプリは特に特別です。普段競輪を見ない方も見てくれるレースですから、別格の価値があると思います。それはG1にも言えることですが……結果的にグランドスラムができたら嬉しいですけれど、獲りたいと言って獲れるものでもないと思いますから。

そこに目掛けてゼロから作り上げて、調整して「獲れる」ってわけでもないです。ほんまに難しいなと思います。

BMXレーシング出身者として

Q:少し話がズレますが、岸和田の元BMX選手である酒井亜樹選手が現在競輪選手養成所の受験中です。彼女を含めBMX出身の選手がトラックナショナルチームに増えつつあることは、どのように感じますか?

酒井亜樹

(BMX選手時代に)亜樹ちゃんと重なる時期はなかったんですが、(長迫)吉拓とはガッツリ被っています。ガッツリ絡んでた吉拓がトラック競技で出てきた時はなんだか変な感じがしましたが、亜樹ちゃんや(高橋)奏多なんかもトラック競技に行くようになって「そうなるべきなんやな」という捉え方になってきました。

長迫吉拓

BMXレーシングはスタートダッシュを専門に走るようなものです。それを活かせる場所が出てきたということで、嬉しくは感じます。

Q:日本でも古性選手はじめBMX出身の強い選手が増えていますが、将来的にBMXに携わるイメージはありますか?

いやぁ……BMXを教えるのってかなり難しいです。トラック競技を教えることが簡単なわけではないですが、トラック競技と比べて「合わないことをさせる」割合が高い競技だと思います。「このジャンプを跳んでみ」「このセクションをこうしてみ」とか、合わないことを教えた上で、コケたとしても動揺しないようにさせなければいけない。

教える対象がすごい熱量を持っているなら教えられると思うんですが、そうでない場合結構難しいと思います。自転車を壊してなんぼだし。

Q:壊してなんぼ……

吉拓なんてすごい台数壊してますよ。ジャンプが届かなくてバキーン!って。でもそういうことを経験しないと上手くならないし、速くならない。本人の気持ちがすごく大事な競技だと思います。ある程度ぶっ飛んでないといけない競技なんですよ。

出来たてのでっかいセクションを、一番最初にトライした人がかっこいい、なんて文化もありました。成功しても失敗してもトライしたやつが賞賛される。クレイジーがかっこいいんです。

それがBMXだから……そういう世界で強いんなら、そりゃトラックに来ても競輪に来ても強いやん、って感じではありますね。もともと「コケても良い」と思ってるやつは吸収量が違うように思います。

でもこうやってBMXの選手が出てくることは今後も楽しみですね。「BMXで食べていかれへんくなったら、その経験を活かしてトラック行こう」みたいな選手が出てくるのは良いことだと思います。

岸和田競輪場に隣接するサイクルピア岸和田BMXコース

Q:競輪にしろトラックにしろ、そういうBMXからの流れが見えてくると良いですよね。

自分は片手間ではなく本気でBMXをやって、その先で転向して競輪に来て、これだけ稼げるようになりました。今の子にとっては「あの人もともとBMXやってたらしいで」って感じだと思いますが、BMXがあかんかった時の道筋として、そのひとつになっていたら良いなと思います。

以前、誰だったか忘れたんですが、選手との会話の中で「もし子どもができたら何させる?」って話で「BMXさせる」という言葉が出たんですよ。アリだと思います。

Q:古性選手の話を聞くと、身体がボロボロになりそうですけどね(笑)

でも今はもうちょっと文化が柔らかくなってるかもしれませんし(笑)ともあれ、タフな競争心は良いと思います。

Q:最後に、KEIRINグランプリ2023のメンバーが出揃いましたが、気になる選手はいますか?

脇本さんですね。

Q:このインタビュー、脇本選手の話ばっかりですね(笑)

脇本雄太

どれだけ仕上げてくるんだろう、と気になります。去年一番脅威に感じたのは脇本さんだったので(笑)

それはそれとして、全体としてはあまり気にならないです。力を出し切るだけだし、単騎も多いだろうし。車番にも寄ると思いますが、その場の雰囲気でレースが動いていくと思います。

その他選手のインタビューはこちら