「今年は苦しい1年だった」……2023年をそのように振り返るのは、5回目のKEIRINグランプリに挑むこととなる松浦悠士。8月のオールスター競輪では「過去一番の大怪我」を負ったが、さすがの強さを見せて年間獲得賞金5位、KEIRINグランプリ2023への出場権を手にした。

今回More CADENCEは競輪祭が終わった直後にインタビューのお時間をいただいた。今改めて語る自転車への思い、そして松浦の強さの理由とは。

年々「獲りたい」気持ちは強く

Q:5年連続5回目のKEIRINグランプリが決まりました。グランプリに向け、今はどのような気持ちでしょうか?

今年は結構苦しい1年だったと思うのですが、それでもしっかりグランプリの権利を獲れたということで、怪我にも勝てたと思うところではあります。(5年連続ということで)「グランプリに出場するのが当たり前」という意識で競走に取り組めているのは良いところです。

Q:グランプリに対する気負いみたいなものも無くなっていますか?

そうですね。でも年々「獲りたい」という気持ちは強くなっています。

走ることが喜びだから

Q:「苦しい1年」というお話がありましたが、8月のオールスターの落車で大怪我をされました。あれは過去一番大きい怪我になるのでしょうか?

一番大きいですね、1ヶ月も休んだことなんてこれまでありませんでした。こんなに休んだことがなかったから、どうやって戻していけばいいか……2ヶ月3ヶ月休むようなイメージはまったく湧かなくて、とにかく早い段階で復帰して、レースの中で感覚を戻していきたいと思っていました。

Q:不安や焦りはありましたか?

寂しさ、早く復帰したい気持ちは強かったです。でも「走り方を忘れる」ということは意外にありませんでした。

自分は競輪場でレースを走ることに喜びを覚えているし、それが楽しみなんです。勝負したいという気持ちもある。それがないと「じゃあ自分ってなんなんだ」と思ってしまいます。だってレースを走っていなければ「競輪選手の松浦悠士」はいないわけです。やっぱりそこが僕の職場だし、やるべきことなので。早くその場に戻りたい。そのように怪我以来ずっと思っていました。

Q:そうなると、復帰レースには特別な気持ちがあったのでは?

レースに対しての不安はかなりありました。まず「ちゃんと競走の準備ができてるかな」という部分からでしたね(笑)自転車やヘルメット、競走や宿舎生活に必要なものを忘れ物していないかとか……

それから、アップ。僕は時間を決めていなくて、割と感覚でアップする方です。「今日はこういう感じだからちょっと長めにやろう」とか決めるのですが、そういう感覚がわからなくなってきていて。「これでちゃんとアップできたのか?」という不安がありました。

そしてやっぱり練習はレースとは違いますから、レースの緊張感の中ちゃんと走れるか、という部分も不安でした。

Q:デビュー前の新人のような感じですね。

戻った感じですね。そしてその復帰戦で落車して「マジかよ!」って。超ビビってましたね。

Q:身体にワイヤーを入れていると聞きましたが、今もワイヤーは入っていますか?

はい、3月くらいに抜くつもりです。レース中はだいぶ感じなくなりましたが、私生活ではめちゃめちゃ違和感があります。腕を伸ばして物を取ろうとすると痛かったりしますし、右手と左手でちょっと違う動きになっていますね。

Q:レースの時の方が痛くなるような印象を受けますが、違うのですね。

スタート時は痛いこともありましたね。でも今回の決勝戦(競輪祭)で思いっきり走って大丈夫だったので、もう平気なのかなと思います。

競走のダメージが回復してくれない

Q:競輪祭の後は別府G3を経てグランプリの予定となっています。いつもだったら広島の記念に出て調整している時期ですが、別府G3は同じく最終調整のような感覚でしょうか?

今年は落車も多かったので、走らないという選択も考えはしました。でも広島バンクが使えないし、競輪祭でも自力で出し切れた感じがない。別府でしっかり自力を出したいと思っています。

Q:落車した直前と比べ、脚力および体力はどれくらい回復しましたか?

だいぶ戻りました。久留米や寬仁親王牌は全然回復力がなくて……練習量が落ちてるので、競走のダメージが回復してくれないんです。総合して体力が落ちてるということだと思うのですが。

競輪祭の前にはしっかり追い込んだ練習もできて、体力的にはだいぶ戻ったと思います。

でもダイヤモンドレースが終わってからちょっと鎖骨が痛む時があって、4日目くらいから「体がキツいなあ」とは少し思っていました。決勝戦は「最終日だ」という気持ちもあってか、大丈夫でしたが。

折れてても走る世界……

Q:競輪、トラック競技、ロードでもそうですが、不思議なことに骨を折っても平気で乗ってる人が多いですよね。

そうですね(笑)僕は4月に武雄で落車しましたが、落車直後のレントゲンではどこも折れていなかったんです。でもダービー(5月)の前日に肋骨が痛み出して、それからしばらく痛くて……鎖骨・肩甲骨を折ってレントゲンを撮ったときに「肋骨に骨折跡がある」とわかりました(笑)

おそらくヒビとかで見えてなかったんでしょうね。ダービー前日に痛くなったから治療院で触ってもらってたのですが……

みんなからは「たぶん折れてるよ」と言われていたのですが、もう開催に入っちゃっているし、仕方ありませんでした。乗車姿勢の時は大丈夫だったんですが、レース中にブロックをドンとくらったとき、「うっ」となりました(笑)

Q:痛そうですね(笑)因みにレース中、そういったブロックが入ることを考慮していない時って、どのような箇所に力が入っているものでしょうか?

僕の場合は腹と、フォームを作るために腕、とかですね。背中やへそ周りに力が入っていると思います。

深谷知広, 松井宏佑, 競輪祭 決勝戦, 小倉競輪場

2番車(黒)が松浦

Q:レース終わりは、そういった体幹部分に疲れを感じますか?

疲れますね。ただ落車の後、しばらくの間、その感覚がわからない時期がありました。1週間ぶりとかに乗ると気持ちよく乗れてしまい、逆に感じが良かったりするんです。でも間違いなく脚力は落ちている。感触良く踏めているけれど、自転車が進んでいない……それをやっていくうちに「良いはずなんだけど、ちょっとよくわからない」みたいな状態がしばらく続いて、復帰に近づいていった感じです。

Q:実際に良いか悪いか分かるのは練習でしょうか?それとも本番のレースで?

レースに出て初めて「あれっ?」となる感じですね。

大怪我による気付き

Q:キャリアで最も大きな怪我を経て、気づきなどはありましたか?

昔よりは「競輪が好きで走ってる」という感じが少なくなったと思います。

昔はとにかく走ることが大好き。もちろん負けたら悔しいのですが、走りたい気持ちがとても強かったです。今回怪我から復帰してみて、「戻りきってない自分」や「勝てない自分」がいることをとても苦しく感じました。楽しいことばかりじゃなかったな、と感じましたね。

それから、意外に大怪我だったけどそこまで影響がない……ないわけじゃないですけど、思ったより「こんなもんか」という気づきもありました。

Q:競輪選手としてトップにいる松浦選手だからこそ「怪我の前の自分を崩したくない」という気持ちが強いのでしょうか?

「崩したくない」というよりも「今までの自分に負けてる自分が嫌」という感じです。行きたいところに届いていない自分が悔しいし、情けない。それは走っている中で感じました。

今ようやく、目指すところの一歩手前くらいに来れたところです。

改めて、難しい1年だった

Q:過去のインタビューの際、「1年の目標はどのようなものですか?」の質問で2021年は「ダービーを獲る」、2022年は「賞金王」を目指している旨をお話しいただきました。2023年はどうですか?

本当なら「グランプリを獲りたい」と言いたいのですが……言えるほどの自信は、正直ありません。もちろん勝負にはなると思います。でも去年・一昨年ほど良い状態で出られるのかという不安はあります。賞金王になれるかどうかは相手次第ですし。ほぼほぼ厳しいとは思いますが……

難しい1年だったと思います。G1の決勝には2回しか出ていないし、よくグランプリの出場権を獲れたなという感覚です。

Q:にもかかわらず、賞金ランキング5位ですもんね。

自分としては全然上手くいってないのに、よくこの場に……という感じです。

Q:要は「強い」ということですね。

(笑)でも僕ひとりの力じゃありませんから。巡り合わせもあるのかなと思います。

Q:2023年ラストレースは、楽しみですか?

「楽しみ」で行けますかね、どうかな……そこまでにどれくらい仕上げられるかです。ここから落ちることはないので、グランプリまでの経過という意味では楽しみです。

ここのところ停滞気味だったので、一旦ドーンと落ちてどんどん上がっていく感じは、強くなり始めた頃の自分と重なります。競輪祭は楽しくはありましたよ。レースも生活も、明日のことを考える感じや、ウォーミングアップをしながら「行けそうだ」と思うことだとか。

Q:ここからコンディションが完全に戻ったら、またひと段階上に行けそうな感じですね。

脱皮できそうですね!

KEIRINグランプリ2022を振り返る

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