年々「獲りたい」気持ちは強く

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KEIRINグランプリ2022を振り返る

Q:少し去年(2022)のグランプリを振り返らせて下さい。

去年のグランプリは「初めて勝機が見えたレース」だったと思います。4年目にして初めて「もうちょっとこうすれば優勝だった」というところまでいけました。

Q:去年は単騎戦でしたが、先頭誘導員退避前から新田祐大選手の前に入るような動きでした。思い描いていた通りに動いていたけれど、守澤太志選手の一撃にやられてしまった。やはり見えないところからの動きは消耗度が激しいですか?

消耗もされたし、自分の想像以上に影響があったと思います。あのスピード域で内側に差し込まされるというのは意図していませんでしたし、立て直すのに時間がかかって手遅れになってしまいました。

追い上げるポイントなどは決め打ちにしていなくて、勝負どころより早い段階でいかないと、とは思っていましたね。みんなが想像しているより早く動くつもりでした。

Q:初手からあの位置を取るとは、観ている側としてはびっくりしました。

インタビューで「北が前を取ったらいっちゃうよ」というのを匂わせてたんです。それでも前に行ったから「これはしょうがないな」と思って、ああいう感じになりました。

あのタイミングがベストだったかどうかはわかりませんが、自分としてはあの形から守澤さんに気づいて張れていれば、脇本(雄太)さんの進路も……という感じでしたね。

Q:そうですね、ちょうど空いたところでスッといかれてしまいました。

レースが終わってみてですが、守澤さんが来たところでブロックしていればという後悔はありました。

Q:それができていれば3番手を確保できていたし、前にも出て行きやすかった、ということですね?

そうですね。優勝を目指すのであれば前でレースをしなければいけません。自分が仕掛けて後ろから抜かれない走りができるのか、抜かれない位置はどこなのか、と思うとやはり半周を切ったあたりがタイミング。でもそこでは他の選手も動き出しますし、思うように動けなくなる。

前の新田さんや脇本さんのスピードをもらった、その後ろくらいの位置をイメージしていました。

レース中の思考回路

Q:単騎だし、すごく難しいレースだったと思います。その最中の思考回路ってどのようになっているんでしょうか?

レース中、自分が追い上げていったところでお客さんが沸いたのもわかったし、新田さんが全然追い上げてこなかったので「いつ来るか?」と緊張もしていました。

ただ残り2周からは「ああ、来た来た」という感じ。ちょうど守澤さんが踏み遅れた感じになったので、あの時点(残り1周半)では「よし!」と思っていました。でも新田さんに集中しすぎて、守澤さんまで見えていませんでした。残り1周は周りがあまり見えていませんでしたね。

Q:その局面で周りを見るということはできるものですか?最高にスピードが上がってるタイミングでもあると思いますが……

例えば競輪祭の決勝戦なんかは、脇本さんが来たことは音でわかっていましたね。それで煽りを作るような形でした。そういう意味では後ろに意識を向けてさえいれば、視覚で確認する以外にも術があるし、できるんじゃないかなと思います。

Q:それは自分の前か後ろに仲間がいれば、よりやりやすいものですか?

その通りです。連携を外さないことが大前提ですが、前に誰かがいるなら自分は後ろに意識を持っていくことができる。逆に後ろに仲間がいれば、後ろを気にせずに前だけに集中できます。そういうメリットはありますね。

Q:グランプリ2023ではおそらく清水裕友選手と組まれると思いますが、そういう意味では可能性は上がりますね。

1人より2人、2人より3人の方が確かに勝率は上がります。

でも「あれこれ考えてもしょうがないな」ということは、去年感じました。今年は裕友と話してからになりますが、あんまり考えすぎずにとは思っています。

3連覇の夜王のはずなんだけど……

Q:2023年のトピックとしてはサマーナイトフェスティバルの3連覇も挙げられます。サマーナイトフェスティバル優勝者は「夜王」と呼ばれるはずですが……呼ばれています?

呼ばれてないです。夜のイメージがないからかな(笑)ナイターは得意ではあるんですけど、自分で名乗ってないのもあるかもしれないですね。

Q:サマーナイトフェスティバルはもう「得意レース」ですか?

思いとしてもそうですし、戦いやすさはありますね。普段よりリラックスして走れています。

3連覇達成!松浦悠士が脇本と連携し優勝『サマーナイトフェスティバル(G2)』函館

Q:脇本雄太選手と組んだレースも印象深いものでした。

脇本さんにつく中部・近畿の選手がいない状況で、佐賀の山田英明さんも「ついていいよ」と言ってくれ、いろんな条件が重なってのことでした。

実際についてみて強烈でしたし、自分が思っている以上に技術がすごかったです。

脇本雄太, 松浦悠士, ウィナーズカップ, 別府競輪場

Q:技術のすごさとは、どのような部分でしょう?

走行ラインであったり、駆けている時の踏み方だったり。無理な踏み方をしてないんですよね。

僕の場合は他の選手と踏み出しが重なってしまうと「早く前に出たい」と思って一気にギアを上げてしまうんです。でもそうすると最後まで保たなくなってしまう。脇本さんは同じ状況になっても、外で上手く回して加速させてから、しっかり自分が踏み込みやすいタイミングで踏み込んでいる。だから航続距離も長いし、トップスピードまで綺麗に上がるんだなと感じました。

Q:それは脚質によるところもあるのでしょうか?

あると思います。まったく同じことは正直できないです。これはもう明確に「できない」ですし、できるようになる可能性も低いです。戦法や脚力に違うところがありすぎますね。

踏み方や技術を吸収したいとは思います。でもだからと言って脇本さんと同じ戦法が取れるようになるわけではない。それが難しいところですね。

残りHPは30以下!

Q:2023競輪祭も振り返らせてください。すごいなと思ったのが準決勝の走りでした。太田海也選手の番手として走っていた松浦選手、捌きがものすごかったです。

太田くんのかかりが良かったです。G1の準決勝としてはこれまでにない安心感と楽しみさがありました。

欲を言えば抜きたかった(結果は太田が1着、松浦が2着)ので、会心の出来かと言われるとウーン……となりますが、2人で良いレースができたとは思います。

新山(響平)くんが上がってきたところはしっかり対応できましたが、内から上がってきた(佐藤)慎太郎さんのところは削られました。もちろん自分たちが2車なので、外に出たら入られるということは把握していましたけどね。

Q:2センターくらいからのHP(体力)を例えるなら、どんな感じでしたか?

海也のダッシュがすごくて、出切った時点で3〜40%しか残ってないんですよ。残りゲージが3〜40%しかないところに新山くんが来て10%減って、慎太郎さんが来たところでほぼ0……5%くらい残ったかな、って感じですね。

Q:あとは抜かすか抜かさないか、というところで5%しか残っていなかった。

慎太郎さんを閉じ込めることに最大限行ったので、前に行くスピードを殺してしまったし、タイミングも逃してしまいましたね。

Q:見ていて痺れるレースでした。

これが3車なら外の新山くんを止めても、(佐藤選手に)内側に入られないようにできるんですよね。

競輪祭決勝戦

松浦悠士, 太田海也, 競輪祭 決勝戦, 小倉競輪場

Q:もちろんタイトルが獲りたいのは大前提だと思いますが、ほぼグランプリが確定した状態での競輪祭決勝戦、多少安心感のようのなものはあったのでしょうか?

どちらかといえば「海也がいる」という安心感でしたね。準決勝であれだけ強いレースをしてくれたので、決勝が楽しみでした。

Q:決勝戦は深谷知広選手がペースを上げていく展開でした。1列棒状でなかなか難しいレースだったんじゃないかと思うのですが、最後に追い上げて3着。あのあたりは道が見えているような感じなのでしょうか?

海也の脚力であれば、ホーム1コーナーあたり、眞杉(匠)が仕掛ける前に仕掛けられたと思います。そこで待っていた時点で「ちょっと厳しいかな」とは思いました。「獲るためには」と内にいったけど、ああいう結果でした。

Q:「さらに内にいっていれば2着もあったかも」というコメントもありました。

「かも」ですね。リスクが相当あるし、松井(宏佑)くんが最後に持っていくだろうなということも頭にありました。簗田(一輝)くんと絡んでいたかもしれないし……難しいところだったなと思います。

Q:オールスターの落車から徐々にコンディションを上げてきていると思いますが、まだしっくりこないところはありますか?

「もう少し」という感じです。競輪祭では抜きに行く時のキレなどに物足りなさを感じました。体の感覚と、踏んだ時の伸びが一致しない感じです。「あれっ?」という感じを、ダイヤモンドレースと準決勝で特に感じました。

一方で決勝戦はめちゃめちゃ良かったんですよね。自分が思った以上に踏んで伸びたので、一層「内に行っていれば」という思いがあります。でも内に行かず、外だからあれだけ踏めたのかもしれませんし……

相性の良いペアとは

太田海也, 男子ケイリン1回戦, Men's Keirin 1st Round, 19th Asian Games, Hangzhou, China

太田海也

Q:太田選手のダッシュって、やっぱりヤバいですか?

ヤバいですよ。特殊ですね。今までない感じです。良い時の太田竜馬に近いかな……取鳥雄吾や犬伏湧也とはタイプが違いますね。

Q:やりやすさはどうですか?これまで中四国といえば「松浦&清水」の二枚看板のようなところがありましたが、若手が出てくるようになってその組み合わせも変わってきたと思います。

裕友とはやっぱりタイミングが合うし、つきやすさ、レースプランの立てやすさなどは一番です。雄吾は最近レースが上手くなって、先行もしてくれるし幅広さがある。でも自分の脚質的に合うと感じるのは犬伏ですね。彼の場合はスピードがかなり高く、離れてしまうリスクもあるのですが、仕掛けどころや仕掛けるポイントをタイミングよく行ってくれます。

Q:では、太田選手はどうでしょうか?

海也は……ちょっと次元が違うというか。「これくらいの踏み方だとキツいだろうな」という踏み方で最後まで行っちゃうんですよね。自分が想像したことのないような感じで、まだ把握しきれていないです。

Q:今回の競輪祭では部屋もずっと一緒だったと聞きました。

はい、4人部屋で隣でした。そんなに話し込むわけじゃなかったんですが、寝る前とかにレースの話をするような感じでした。コーヒーを淹れてくれましたよ。

Q:前と後ろ、どっちがやりやすいなどはありますか?

特にないですが、最近自分が動けてないのでそこの不安はあります。最高レベルの舞台で自力で動けるのか、正直なところまだわからないので。

「読み」の力

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